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18話 2匹の霊獣

 爆裂。そう、爆裂した。

 何が起きたのだろうか。

 アルハンドラは状況を理解出来なかった。かろうじて分かるのは、目の前の子供が何かをして、『それ』の結果が、自分が吹き飛び森の上を飛んでいるという状態を生み出していた。初めての経験だった。

 飛んで来たものが何かははっきりと分からなかったが、とてつもない量の魔力を含んでいるのは本能が察知した。瞬時に防御体制に入ったが、吹き飛びながら悟った。

 例えあの時によけても、剣で対応しても、多少の違いはあっただろうがどうせこのような状態になる、と。


 自分はSランクの冒険者。そこに慢心も過信も無かった……と思っていた。今回だって、相手は自分より格上と想定挑もうとした。

 戦い出して2、3回目の攻防で理解した。

 何が想定だ、何が子供だ。子供は俺じゃないか。大いに慢心、過信していた。怒りすら通り越し、自分で自分が滑稽だった。

 格が、違う。

 忘れていた。Sランクだと言っても自分は下位だ。確かに一般人よりは遥かに強い。だから、慢心していた。自分はSランクだから。馬鹿だ、としか言い様がない。


 一瞬だけリテラへの嫉妬が沸き上がったが、すぐにその気持ちは冷めていく。嫉妬なんかしたって意味が無いから。

 次に思ったのは、残された青年 (フェイス)へのエール。

 相手は子供の姿をした化け物だ。頑張れよ、と。


 そう、化け物。そんな感想しか出て来なかった。

 決して魔物であるデーモンのように醜悪でなく、気品さえも感じさせるその姿。

 本物の悪魔とは美しいものだ。


 アルハンドラは、見蕩れてしまったのだ。

 防御体制をとった瞬間に腕と腕の隙間から見えた、こちらを狙う美しい悪魔に。


 その一瞬を思い出しながら、彼の意識は闇に沈んだ。




──────




「さて、次はお前だ蒼髪」


 ビクッ!っと、森の中で見ていたフェイスは身体を震え上がらせる。

 自分は相手の力量を測り間違えていた!

 フェイスに油断などは一切無かった。

 アルハンドラが負ける事も、自分が倒される事も分かっていた。全て予想の範疇だ。

 ただ一つ、想定外だった。

 強過ぎる。下位とはいえSランク冒険者のアルハンドラをまるで子供のように扱い、途中からは自分も遠距離から矢を放ち援護を行った。全力で自分の能力を使用し気配を決して悟らせず、あらゆる場所から矢を放った。

 なのに彼はその小さい身体を動かし、見た事も無い魔法を操り、アルハンドラを子供扱いし吹き飛ばした。かすり傷一つも負わずに。

 まさに化け物。あれは人間ではない。その事を自分の感覚が伝えていた。


 しかし逃げる訳にはいかない。フェイスは再度矢を構える。

 木と木の間から矢を射つ。しかし相手の巨大な魔力で出来た手によって防がれる。

 あれは非常に厄介だ。こちらの攻撃のほとんどがあれに叩き落とされる。

 瞬時に転移して相手の真後ろに場所を変える。

 そして敵の方を見るが、その場に既に彼は居なかった。




─────




「さて、反撃開始だ」


 俺は飛んで来た矢をよけた後にマジックハンドを使って飛び、屋敷の屋根に着地した。ここなら木が邪魔して俺を見れないはずだ。

 ここから奴を倒す。既にイメージは完成していた。

 両手の掌を合わせて魔力をガントレットに流す。

 闇のガントレットと風のガントレットから放出される光が混ざりあっていく。

 それは徐々に回転を始め、黒い竜巻となり────パンッ、と一気に弾けた。

 ヒュンヒュンと音が聞こえ始め、細かな黒い風の刃がまるで雨のように目の前の森に落ちていく。

 黒い風の刃は葉っぱや木の枝をすり抜け、地面に降り注いだ。

 耳を強化して澄ます。一箇所から、何かが連続して切れる音が聞こえた。

 俺はすぐさまその場所目掛けて飛び降りた。


 降りた先には蒼髪の獣人の青年が倒れていた。

 髪が切れ、頬にも一筋の赤い線があり、そこから血が流れている。

 身体も切れているのだろう、彼は苦痛に顔を歪ませながら立ち上がった。


「…………君は何者なんだい?」

「しがない王国の貴族の息子さ。たいした奴じゃない」

「…………あんなの、避けられる訳無いじゃないか。闇属性の特徴を持った『風の刃 (ウィンドカッター)』だって?

 木に当たっても切れないから大きな音は出ないし、あんなに無数の刃。上は木の葉で見えやしない」

「そりゃあそうなるように攻撃したんだから当たり前だろう?」

「…………本当に君は何者だ?」

「言ったろ?ただの貴族の息子だ。

 さて、お前はここでゲームオーバーだ。どうしても知りたいなら後から死神に話でも聞きな。まあ、分からんだろうがな」


 そう言って、返事を待たずに接近しアゴを打ち抜いた。膝から崩れ落ちる青年。


「さーて、こいつらを縛り上げて屋敷に置いて……………あ」


 蒼髪の獣人青年の足を持って引き摺りながらスキンヘッドの男の元に向かう途中、とある事が閃いた。

 俺は顔に悪い笑みを見せながら、男の回収に向かった。




─────




「さーて、ツバトの所に行かなくちゃな」


 屋敷から出て来て周りを見る。そろそろ正午になるだろうか。少し時間を取られたな。

 アドリガの方向を見て、脚を強化し走り出す。

 5分ほどで到着する。門番に入国料を払い門を潜る。

 2日前はカルトラさんが払ってくれていたようだ。

 身分証明書の提示も言われなかった。ガサツすぎやしないだろうか?


「…………ツバトどこにいるかな」


 周りをキョロキョロするが見つかるハズもなく、仕方無いから正攻法でツバトを探す事にする。

 簡単な事だ、裏路地に入り、怖いお兄さんとエンカウントして、怖いお兄さんを倒して案内してもらうだけ。

 10分後には、俺は街の地下にあるツバト達のアジトに来ていた。さあ彼の所に赴こう。




─────




「あれ?旦那!なんでこんなトコに居るんですか!?」

「ちょっと予定が変わってな。ツバト、お前への頼みも変更になった」


 ツバトはいちばん奥の部屋で部下に指示を出したり、何かを書いたりしていた。計算なんかもしていたようだ。

 ドアなんてもんは無いので彼もすぐにこっちに気付いた。護衛などが居ないのは、彼は強いからだろうか。

 アジトの中はかなり広く、ここに来るまで歩いて15分かかった。人は意外と少なく、通路に見張りが1人ずつ立っているくらいで、それ以外も2人くらいさはか見かけなかった。外に居るのだろうか?

 案内してくれたお兄さんは入り口までしか入れなかったので、アジトの中を一人で歩いて来たから、知り合いの顔を見るのはやはり安心する。

 ツバトはすぐに近くに居た男に指示を出した。彼は秘書だろうか?

 その男が出て行き、すぐに別の屈強そうなムキムキの男たちがテーブルと椅子を持ってきてセッティングした。ボロボロだが無いよりマシだろう。それにツバトの気遣いを無下にするわけにはいかんしな。秘書っぽい男はお茶を持ってきてくれた。紅茶だった。

 秘書らしき男はツバトの後ろに立っている。ムキムキ屈強な男たちはどこかに行ってしまった。

 ツバトが口を開く。


「で、予定変更って事は何かあったんですか?てかあったんですよね?」

「ああ、城に用が無くなったんだ」

「それでですか…………」


 実はツバトには、俺が城に侵入する際に少し騒ぎを起こして兵士たちの気を逸らして貰おうとしていた。まあ、無駄になったが。


「で、イリスに向かう事になった」

「ブフッ!?ま、マジですか!?」


 盛大に紅茶を噴き出すツバト。汚いなもう!

 そんなにおかしい事を言っただろうか?


「なにかおかしな点でもあったか?」

「いや、まあ………アドリガの城に用が無くなってイリスに行くなんて理由、最近の情報からは一つしか考えられませんよ………。

 これでも街の情報は全部耳に入ってくるんですよ?

 ………アリス第三王女を救けるつもりですね?旦那。

 旦那の素性はよく分かりませんでしたが、多少見えて来ましたよ?」


 ツバトの目が鋭くなる。流石にそこらの阿呆では無い。


「お前が俺の事を知ってもどうでもいいが、何か情報が流れたら即座に消しに来るからな、気を付けろよ」

「そ、そいつは勘弁して下さい……」

「さて、本題だ。イリスに向かうのに馬が欲しい。なるだけ脚が速いのをな」


 もはや場所が割れている以上ここに留まる理由も存在しない。

 急ぎ死神を追いかけてアリスを救出したい。

 恐らく、今回の誘拐、主犯は死神たちだろう。他の国は加担させられた、又は死神から何らかの報酬をチラつかせられて話に乗ったか、だ。報酬はもちろんアリスだろう。イリスなら喜んで乗ってくる。

 ああ、厄介だ。実は既に全ての裏は見えている。

 死神は俺を試しているのだ。試練だか何だかで。その理由までは分からないが、俺に悪意が無い事はもう分かっている。

 分かったところでどうなるもんでもないが。アリスを取り返す。その一点に変更は無い。

 死神をぶん殴る事が追加されたくらいだろうか。全く、こんな事をせずとも言えば試練くらい受けてやるのに。

 まあ、それじゃダメなのだろう。幾つかの条件下での相手の実力を見るためにやってる試練だろうからな。

 まあ、それは置いとこう。


「その程度なら、すぐに用意出来ますよ」

「そうか、なら頼む。あと、『魔力生成促進薬』をあるだけ掻き集めてくれ。値段は……これだけあれば足りるか?」


 ポケットから小銭袋を取り出して中金貨5枚を渡す。


「多いですね!?多分50本くらいは買えますよ」

「んじゃあ50本頼むな」


 『魔力生成促進薬』は人気でよく使われている。それは前に説明した通りだ。副作用が存在しないというのが強みだ。

 だが、値が張る。質の良いもので一本小金貨5枚、質の落ちる物2級品でも大銀貨5〜8枚は必要となる。つまりどんなに安くても最低で5万。馬鹿高い。まあ、それでも人気なのは値段相応の効果があるからなのだが。

 人気なのはCランク以上の稼げる冒険者や、宮廷お抱えの魔導師たちに対してだ。


「分かりました。期限は?」

「今から2時間で用意しろ。馬もだ」

「キ、キツイっすね………」

「ならば追加報酬をやろう。これだけあれば足りるだろう」


 小金貨を10枚渡す。ツバトは慌てながらもしっかりと受け取った。


「充分です!おい、お前ら、聞いてただろ!?急いで集めて持って来い!行け!!」


 部屋の外にあった気配がすぐに離れていく。


「すまんな、助かる」

「いえ、このくらいは何ともないですぜ?きちんと対価も貰ってますしね、過剰に」

「…………………」

「どうしました?」


 俺は考えた。コイツに俺の事を話すかどうか。勿論必要最低限の情報しか教えるつもりは無いし、言っても大して問題は無いのだが…………この世に絶対は存在しないからな。絶対に影響が無いとは言い難い。

 まあ、いいや。

 別に俺は国とかから狙われてる訳でもないし、あのスキンヘッドの男でこの世界の強者がどのくらいかも確認した。多分、大丈夫だ。


「俺の素性、知りたいか?」

「!はい、知りたいです!教えてください!」

「貴族」

「………………………………………………は?」


 ツバトは阿呆みたいな顔になって惚けてしまった。そんなにびっくりしたのか。


「いやいやいやいや、貴族様……ですか!?」

「トロハの第一貴族、ストロフト家次男のリテラ・ストロフト。それが俺だ」


 トロハには爵位が存在しない。普通の国になら有るのだが、何故かトロハには無いのだ。代わりに第一、第二、第三と決められており、とてもシンプルだ。多分あの脳筋が国王のせいだろう。

 そして俺は第一貴族。トロハの貴族の中でもトップだ。

 それをいきなり告げられたツバトがどうなるかは簡単に想像がつく。しかしコイツは斜め上を行ってしまった。


「…………………………………………」

「うわっ、危ない!?馬鹿、何やってんだお前は!?」


 なんと目を見開いて驚愕の表情のまま気絶して、前のめりに倒れ込んだのだ。


「リアクションが大袈裟なんだよ……………おい、お前頼む」

「は、申し訳ありません我が主が。私が代わりましょう」


 そう言ってツバトの後ろに待機していた男がツバトを支えて座らせた。


「しかしリテラ様、良かったのですか?」

「ん?何がだ?えっと…………」

「あ、ベスターで結構です。

 分かっているでしょう?先程の貴族だという事ですよ」


 ベスターは立ったままそう告げた。

 ベスターが言いたい事は充分に分かっている。

 俺が貴族であり、異様な強さを誇っている。まあ、こいつらに見せた実力はあの交差点でのものだけだがな。しかも見たのはツバトだけ。まあ多少の共有はしているだろうが。

 そして、まだガキだ。住んでいる場所なんかも簡単に割れる訳だし、俺に利用価値があると判断した国は俺を捕らえようとでもしてくるだろう。

 まあ、それも全て情報が洩れたらの話なのだが、ベスターが言いたいのはそれだ。

 ベスター達が情報を洩らさないという保証などどこにも無いのだ。確かに情報が洩れたら消すとは言ったが、本当は洩れた時点でアウトである。1度広まった情報を消すというのはほぼ、いや確実に不可能だ。

 だから情報屋という職業に必要とされるのは情報収集力と判断力だ。新鮮な情報を手に入れ、それをどのタイミングで売るか。早過ぎれば情報にそれ程価値を付ける事は出来ない。だからといって売るのを渋っていても別の所からその情報が出てしまうかもしれないしな。

 つまり、ベスターは状況によりあっさりと俺の情報を売ると言っているのだ。まあ、それが情報屋に必要な判断力であるのだが。


「別に構わないぞ」

「本当にですか?下手したら『五大国』に狙われる情報なのですよ?」


 『五大国』とはそれぞれの大陸において絶大な影響力を持つ大国たちの事だ。この中央大陸、又はルコムス大陸においての『五大国』はイリスである。


「だから全てを考慮して構わないと言っているんだ」

「…………何故、ですか?出来れば理由をお聞かせ頂きたいですな」

「簡単だ、俺はこれから死神に挑むからな」


 死神が俺を試していると分かった時点で死のうとは思っていない。アリスを奪還して一発殴り、帰る。それが今の目的だ。

 つまり今こう言っておけば、俺は戦いで死ぬとでも思うだろう。そうなったら情報に価値は無くなる。

 そしてもし後から俺が生きている事が分かって情報を流しても、俺は死神と戦って生き延びる事になるので、そのくらい強い奴に簡単に手を出す国は無いだろうしな。


「…………左様ですか。確かに、それならばこの情報は無駄になりそうですな」

「だろう?まあ、今日か明日のうちにでも流せば良いんじゃないか?」

「いえ、元々そのような事をしようとは思っておりませんでした。試すような真似をしてしまい申し訳ありませんでした」


 そう言ってこうべを垂れるベスター。この男はやけに誠実だ。ツバトといい、このベスターといい、裏組織に居るのが不思議に思える程だ。


「別にいい。気にしてないから、お前もそう気負うな」

「そう言って頂けるとありがたいですね。

 まだ馬や薬を手配するのに時間がかかるでしょう。もう少し喋りませんか?」

「ああ、構わないぞ。あ、その前におかわりを貰えるか?」


 俺は空になったティーカップを差し出して言った。


「ええ、もちろん。少々お待ちください」


 ベスターはすぐさまカップを回収しおかわりを淹れて来てくれた。

 その後、途中で復活したツバトも合わせて3人で色んな事を話した。意外な事や面白い事を色々と聞くことが出来たので、とても有意義な時間だったと言えるだろう。

 それから2時間して、馬と薬が用意出来たらしく、別の部屋に赴き確認をした。

 部屋は地下から出た場所で、陽の光が眩しかった。

 薬は全て一級品だった。近くに居た、用意してくれたと思しき男たちに礼を言って全てポケットに入れた。男たちは驚いていたが、『ボックス』を使っていると言うと納得していた。その中にも1人使える奴が居たので、『ボックス』は他の空間魔法に比べると比較的簡単に使えるようだ。

 金は少し余ったようだが、特に必要無いので男たちで山分けしろと言ったら喜んでいた。結構な額だったようだ。

 その後は、近くの馬小屋に行き馬を受け取った。用意された馬は黒馬で、綺麗な黒い鬣を有していた。肉体は引き締まっており、素人目からしても素晴らしい馬だというのが簡単に理解出来た。


「この馬は中央大陸最速種のルベットホースです。霊獣の一種で、丸々一日は休息なしで走り続けれますし、一日の餌は水と干し草が少しあれば大丈夫ですよ」

「そんな凄い馬なのか、こいつは」


 黒馬が誇らしげにヒヒンと嘶く。多少なら人語も理解出来るのだろうか。


「こいつの値段はいくらだ?」

「いえ、こいつは俺たちが所有してた奴でして、旦那にタダで差し上げます!!その代わり、これからも何かあったら是非!!」

「……そうか、ありがとう」


 黒馬を連れて外に出る。上に飛び乗って跨る。鐙はどうせ届かないので付けていない。手綱を握り、感覚を確かめる。うん、いけるだろう。

 ツバトは今、遠回しに死ぬなと言っていた。こんないい馬まで貰っては、流石に死ぬ訳にはいかんな。まあ、元々死ぬ気無いが。

 ツバトたちに言葉をかける。


「色々ありがとうな、じゃあ行ってくる」

「頑張って下さいね、旦那」

「ご武運を祈っております、リテラ様」

「またな!」


 黒馬を前に進ませ、城門の方向に向かう。こちらの世界に来てから何回か乗馬はしていたので結構な腕前にはなっている。


「途中少し買い物もしないとな。かなりぶっ続けで走らないといけないし、携帯食料は必須だろう」


 適当に近くの店に寄って携帯食料等を買う。干し草は先程馬小屋で大量に確保しておいたので問題は無い。

 残りは水なのだが、雑貨屋で素晴らしい魔道具を見つけてしまった。なんと、魔力を流すと水が出る水筒だ。迷わず一つ買う。小金貨1枚と高かったが、別に問題は無い。


「よし、行くか。厳しい移動になるな」


 実はこの移動、かなりキツい。ここからイリスまでは馬車で40日はかかる。それを20日で辿り着かなければならない。これはあの蒼髪獣人の青年を拷問………もとい説得した時に得られた情報だ。死神はアリスを連れて自分で移動しているらしい。かなり速いらしく、10日あればイリスに着くのだとか。途中で追いつければいいのだが、多分それは不可能だろう。

 とにかく、それまでに行かなければアリスが危ない。死神は試練の為ならかなり非情になるらしく、本当にアリスを殺す事もありえると言う。まあ、そんなことしたら全身全霊で奴を魂レベルで消滅させてやるがな。


 特に何もなくアドリガから出国する。

 後から分かったのだが、アドリガにはSランクの冒険者だけのパーティーが国から雇われており、そのため城門のセキュリティが簡易なのだとか。俺が倒したハゲがそうじゃないかとビビッた。


「よっしゃ、全力で駆けろ!!」

「ヒヒィーーン!!」


 黒馬が走り出す。は、速い速い速い!!なんだこりゃ、めちゃくちゃ速いじゃねーか!?


「うおっ……ストップストップ!!」

「ヒヒィーン!!」


 黒馬は止まらずに走り続ける。何やらえらく上機嫌だ。しょうがない、俺が慣れるしか無いな。

 身体強化で振り落とされないようにして、俺は手綱をしっかりと握った。

 まずは双子平野を目指す!

 双子平野まではここから5日かかる。この馬ならば4、いや、3日ぶっ続けで走ればなんとかなりそうだ。

 俺は揺さぶられながら、今後の事を考えた。




─────




「ほれ、このくらいあれば大丈夫か?」

「ヒヒン」


 俺は桶に水を張り、干し草をふた握りほどポケットから出して黒馬に与える。黒馬はそれを嬉しそうに食べている。

 既にすっかり日が暮れており、月明かりが辺りを照らしている。場所は街道から少し離れたひらけた場所だ。

 俺はポケットから携帯食料を取り出す。見た目はフランスパンをひとまわり小さくして色を緑にしたものだ。少し齧ってみると、味がしない。食感はフランスパンより硬い。


「こりゃ酷いな………せめてスープでもあれば浸して食えるんだがな」


 ブツブツ文句を言いながらも俺は携帯食料を全て食べた。


「まあ、一応満腹にはなったかな。

 黒馬、お前は腹いっぱいになったか?」

「ヒヒン」


 黒馬は干し草を全て平らげ、水もほとんど飲み干していた。


「んー、黒馬ってのもな……名前欲しいか?」

「ヒヒィン!」


 おおう、すっごく嬉しそうだ。

 そうだな………黒馬の名前………


「黒いからク「ヒヒィン!?」


 凄い不服そうだ。クロじゃダメなのか?いいじゃないか、クロで。


「んー………ブラスってのは?」

「ヒヒン!ヒヒィン!!」


 凄い嬉しそうだ。ブラックホース、からブラスなんだが、こんな安易な名前でいいのか?

 そんな事を考えていると、ブラスが薄く光り始めた。何が起こるのかと身構えたが、別に何も起こらずそのままだった。


「…………ま、いいか。とりあえず今日は眠ろう。『マジックミラー』」


 マジックミラーの壁を創り出して周りからは俺たちが見えない様にする。防犯対策はきっちりしないとな。

 そして俺は今日の戦いの疲れを取るために闇の中にその意識を沈めて行った。



 翌日、マジックミラーを解除して周りを確認する。どうやら盗賊や魔物は居ないようで安心する。

 街道に戻り、再びブラスに跨って移動を開始する。

 多分時速80kmくらいのスピードが出ている。霊獣、恐ろしい生き物だ。

 しかし、この淡い光はなんなのだろうか?心なしか、昨日より光が強くなっている気がする。

 まあ、いくら考えても分からないので放置する事にした。

 その日は二つ村を通っただけで、後は大した事も無かったので、少し休憩して夜通し走り続けた。霊獣は真っ暗でも見えるらしく、危なげなどは一切無かった。俺も魔力で強化しているので見えている。


「っ、止まれ!!」


 ブラスを急停止させる。勿論無駄に止めた訳ではなく、前方に何かが居るからだ。

 狼のような風貌の生物だ。ただ、大きさが段違いで、体長が2mはある。確かあれは『ロンリーウルフ』だ。あれも霊獣の一種で、特徴としては決して群れない事と、風魔法を使う事、自分を倒した者に付き従うという事だ。霊獣は従魔術が効かないので、捕らえて懐かせるか、ロンリーウルフのような奴を倒すしか手に入れる術は無い。

 恐らくこの近くに居た奴がブラスを感知かなんかで感じ取り接触してきたんじゃ無かろうか?ロンリーウルフは非常に好戦的だとも聞くしな。

 しょうがない、倒すか。そうしないと通してくれなさそうだしな。

 ブラスから降りてロンリーウルフを見据える。

 美しい銀色の体毛に翡翠の瞳。月明かりに照らされるその姿はとても神々しかった。


「ほれ、かかって来いよ」

「グルアアアアアゥ!!」


 口を開けて突進してくるロンリーウルフ。鋭い牙が見えて、噛まれたらとても痛そうなので身体を捻って避ける。

 そのまま無防備な腹を蹴り上げて、浮かんだ身体のさらに上に飛び、両手を合わせてたたき落とす。それでロンリーウルフは気絶してしまった。


「んー、やり過ぎたかなぁ?」

「ヒヒン………」


 ブラスが哀れみの目をロンリーウルフに向けている。しょうがないのでブラスに乗った後、ロンリーウルフをマジックハンドで持ち上げて移動を開始する。

 30分程で起きたので降ろしてやると、俺の靴を舐めてきた。忠誠の証だろうか?

 ブラスと同じように名前を付けてやる。


「そうだな、お前はウルだ」

「ウォォーーーン!!」


 嬉しいようで何よりだ。

 そしてブラスと同じく淡く光出した。本当になんだ?これは。

 ウルはブラスの走行速度に難なく付いてきた。2匹で勝負し始めた時は流石に俺もビビった。時速100km近かったのでは無いだろうか。

 そして次の日の夜、ブラスが干し草を食べようとしなかった。

 少ない魔力を放出して、俺に何かを伝えようとしているみたいだ。


「もしかして………魔力が欲しいとか?」

「ヒヒン!」


 どうやら当たりらしい。良く分からないが、本人が欲しがっているのでいいかと思い魔力をやったところ、かなり持っていかれた。40万くらいだ。

 ウルも同様で、残りの60万全てを持っていかれた。魔力生成促進薬を飲んでいなかったら魔力が0になって無防備に倒れていただろう。

 その後、2匹が寝た事を確認してマジックミラーを使い俺も寝た。

 2匹の光が少し強くなっていた事には、魔力切れ寸前の俺は気付け無かった。

 

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