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19話 醜く美しい泣き虫


 翌朝。

 俺の両手に全裸の同年代くらあの少女2人がしがみついて眠っていました。

 右側の子はサラサラした黒髪に整った顔立ち、そして発育が良いのか既に微かな感触が右腕に感じ取れる。将来はきっと暴力的に育つ事だろう。一部が。

 左側の子は綺麗な銀髪だ。顔はキリッとしており、高潔そうなイメージがある。身体は6歳児相応である。

 一応言っておくが、俺は決してやましい気持ちで見てはいない。特徴を把握していただけだ。決してロリコンではない。敢えてもう一度言おう。俺は決してロリk(以下略。

 そして周りを見渡すと、ある事に気が付いた。

 ブラスとウルが居ない。

 そしてブラスの特徴である美しい黒い鬣とウルの特徴である銀色の体毛…………そういう事なのか?


「うぅん…………」

「んあ……………」


 なんとか腕を放して貰おうとするが2人はがっしりとしがみついたままである。さて、どうしたものか………。


「おいコラ、起きろ」

「んむぅ…………?あ!おはようございますご主人様!ほら、ウルちゃんも起きて!!」

「…………おはよ、です」

「あ、ああ。おはよう。

 聞きたいんだが、お前たちは………ブラスとウル、だよな?」


 すると2人は顔を見合わせてまたこっちを向き、嬉しいような悲しいような顔で言った。

 2人の対象的な翡翠の瞳と深紅の瞳が美しいな。


「何言ってるんですか!?昨日、ご主人様が進化させてくれたじゃないですか!」

「魔力、美味しかった」

「やっぱりか!しかし、進化ってどういう事だ?」


 進化、か。信じられんな。しかし現にこうして2人は人化しているしなぁ……。

 ウルの言動からして多分魔力が理由である気がするのだが。


「私たち霊獣は、神獣に進化する事が出来るんですよ!それに必要なのが──」

「魔力と名前………なの」

「ああっ!ウルちゃん、一番いいとこ取っちゃダメだよ!!」

「ブラスだけ、説明する……ずるい。

 ウルもご主人しゃま……ごす人……ご主人しゃまの役、立つ!」


 うん、噛んだよね。盛大に噛みまくったよね。ウルは見た目すっごくキリッとしてるんだけど、ドジっ娘なのか?

 平然としたいようだが顔が真っ赤だ。

 まあ、それよりかなり気になるワードが出て来た。


「ちょっと待て。お前らは『神獣』なのか?」

「うん、そうですよ!

 霊獣ってのは神獣の子どもで、私たちの主になる資格がある人からたくさんの魔力と名前を貰ったら神獣に進化出来るんです!!

 あ、名前を貰わなくてもいーっぱい魔力を吸収して神獣になってる人たちも沢山居ますよ?」

「ううむ…………知らんかったぞ、そんなん…………。

 で、お前ら恥ずかしくないのか?」

「へ?……ふぇぇぇぇぇえっ!?」

「………………ご主人様、えっち」


 ブラスは可愛い。ウル、君は何でそうなるんだ。

 全裸だった事を指摘すると、2人は顔を真っ赤にしていた。というか気付いて無かったのかよ。

 面白がっていると、2人の周りに光の粒子が集まり始めて、強く発光すると、服になっていた。

 2人とも俺と同じ皮のズボン、Tシャツに皮の鎧と茶色のローブ姿だ。


「ん?何したんだ今のは?」

「魔法で造ったんです!神獣はみんな『万能魔法』と『個人魔法』が決められてるんですよ?」

「『万能魔法』と『個人魔法』?」


 聞いたこと無いぞ?神獣だけが使える魔法か…………大変興味深いな。


「『万能魔法』は攻撃性の無い魔法を全て使う事が出来ます。その代わり、使用する魔力の量は増えちゃいます」

「『個人魔法』は、一人一つだけ持ってる、攻撃専用の魔法なの………。

 普通の魔法より……強い……よ?」

「ふぅーん………なんとなく理解したよ。

 お前たちの個人魔法は何なんだ?」


 なんか神獣スペック高いな。いや、当たり前か。

 個人魔法、か…………。興味ある。やはり一人一人の特別な魔法だけあって、威力は段違いなのだろうな。


「私の個人魔法は『暗黒 (ダークネス)』!

 設定した空間に深淵の闇を召喚してその闇に吸い込むのです!吸い込んだ相手は数秒でバラバラですよ!!」

「ウルのは、『銀風 (シルバーウィンド)』。

 銀色の風が一定時間吹くの………。物理的な威力が強くて、人間くらいなら数秒でミンチに出来るよ………」


 おおう。想像以上に恐ろしい魔法を保持されてました2人とも。

 ブラスの魔法もヤバそうだが、ウルの魔法は何と言うか………戦争なんかで使用したら凄惨な状況が生まれるだろうな。肉片や内臓だらけの地面なんて見たく無いんだが。


「……君達何歳?」

「私はまだ120歳なのです!」

「珍しい………一緒。ウルも、同じなの…………」

「120!?え、本当に!?」

「「本当」」「です!」「なの」


 マジかよ………詐欺だ、誰か弁護士を呼んでくれ………。


「なんでじゃあそんなにちっこいんだ?」

「人化する時、神獣は契約した時の契約者と同じ歳の姿になるのです!

 もちろんそこから歳を取りますよ?体も成長します!」

「人化?って事は元の姿にも戻れるんだな?」

「もっちろんです!」


 そう自身満々にブラスが言い放つと、2人を強い光が包み、光が晴れた時には2人は獣形態になっていた。


「どうですか!?凄いでしょう!いっぱい褒めて下さい!」

「あー凄い凄い」


 なんか昨日と微妙に違う。ブラスには黒い角が生えてる。カッコイイな。

 ウルは一回り大きくなって、体毛がサラサラになり、風に靡いている。モフモフしたい………。

 なんとかモフモフへの衝動を抑えて2人を戻させる。


「うん、とりあえずまた人化しなさい」

「はーい」「…ん」


 また光に包まれて人化する2人。今度は服を着た状態での変身だ。ありがたい。

 まだ聞きたい事はたくさんあるのだが、早く移動を開始したいので今は止めておく。

 とりあえず、こいつらの扱いについて考えたい。


「お前らは俺について来るつもりなのか?」

「「はい」」

「うん、まあそれは構わない。

 次に、俺は世界で3番目に強い奴と戦いに行く。だから、お前らが弱かったら、はっきり言って足でまといだ。それはわかるよな?」

「「………はい」」

「だから、お前らの強さを見てみたい。それによってお前らの役割を決める事にする。

 そうだな、試験は双子平野で行う。Cランク如きに遅れを取るようじゃ、てんでダメだからな」

「分かりました!頑張りますよぉ!!」

「ウルも……頑張る!」


 よし、いい感じに2人ともやる気が出たみたいだ。

 まあ、多分この2人ならCランクの魔物をなぎ倒すだろうけどね。実際の試験では俺が相手するし。


「よし、じゃあ早速移動するぞ。

 2人とも変身してくれ。次の町までそう遠くは無いだろう」

「分かりました!」「……分かった」


 2人ともすぐさま俺の命令に従い形態変化 (フォームチェンジ)する。

 ブラスに飛び乗り手綱を握る。ウルがこっちを見ているのは何だろうか。自分に乗って欲しいのだろうか?


「どうしたんだウル?何か言いたい事があったら言えばいい。遠慮は要らないからな?」

「じゃあ……ご主人様は、昨日までブラスに乗ってた……から、私に乗るのがいいの。………そう思うの」

「ダメ!!私がご主人様に乗ってもらうんです!!」


 おーおー、なんか凄い言い争いが始まったぞ。

 ブラスには悪いが、ウルが言ってる事は正しいので、今日はウルに乗せてもらおう。


「ブラス、ウルが言ってる事は正しいし、お前だけっていう贔屓とかも俺はしたくない。

 だから今日はウルに乗ろうと思う。何か反論とかはあるか?」

「ううー………じゃあ、私もご主人様と一緒にウルに乗りたいです!!」


 おっと、そう来たか。まあ、俺らのサイズだったら獣形態のウルに2人乗っても全然大丈夫だ。

 別に俺は構わないし、充分乗れるが、それをウルが認めるかだな。


「別にいい……けど、明日は逆………」

「逆?ブラスに俺とウルが乗るって事か?」

「うん、そう!

 ウルにもそうする権利はある……と思うの」

「……………………………………………………」


 考えてる。すっごい考えてるよブラス。

 まあ、ウルはさっきから正論しか言ってないし、むしろ我が儘を言っているのはブラスの方だ。いくら考えても結局はウルの主張を認めるしか無いだろう。


「…………分かりました。それでいいでしょう」

「やった!」

「はは………じゃあ戻れ、ブラス。直ぐに出発だ」

「はい!」


 ブラスから飛び降り、ウルの上に乗る。

 ………ああー、モフモフや、モッフモフやんけ!!手触りとか最高じゃないか!!

 全身でウルの素晴らしい毛を堪能していると、ブラスがよじ登って来た。


「ご、ご主人様………くすぐったいの………」

「あ、ゴメンゴメン。

 よし、ブラスも乗ったし、行くぞ!」

「「はい!」」


 ウルが地を蹴り加速する。その速度は凄まじく、数歩でトップスピードに達していた。

 更に前に魔力の壁を創り、風が俺に来ないという素晴らしい心遣い。感動したよ。

 周りの景色が流れていく。時速100kmくらい出てるんじゃなかろうか?凄いな、ウル。中々に時間短縮が出来そうだ、イリスは遠いからな。

 ブラスは俺の右側で俺の腕を抱きしめて身体を預けて来ていた。めちゃくちゃ甘えている状態だ。


「くんくん………ご主人様はいい匂いです!」

「こら、やめなさい。野宿したんだからいい匂いのはず無いだろう?むしろ臭いと思うがな 」


 まあ湿らせたタオルで体を拭いたりはしたが、それだけだ。


「いえ、ご主人様そのものの匂いがとてもいい匂いなのです!!」

「やめてくれ、恥ずかしい」

「うらやましい………」

「ウル、お前まで!?」


 まったく、油断出来ない2人である。

 しかし本当に速いな。今日は野営じゃなく、町の宿で眠れそうだ。

 その後も、色々とブラスに神獣の事を教えてもらいながらウルに揺られ続けた。

 日が沈み始めた頃、城壁が見えた。

 下手にウル達の変身を見られたら不味いので見られないギリギリでウルに人型に戻ってもらう。

 流石にトロハの貴族だとは分からなかったらしく、ギルドカードを提示して入国料を払ったら普通に入れた。

 なるべく諍いや揉め事のような厄介事に巻き込まれたくは無いので、少しランクの高い宿を選んだ。


「3部屋頼む。料金はいくらだ?」

「ちょーっと待って下さい!

 おばさん、1部屋に変更してください!」

「お、おい………」

「節約です!お金は大事に使わないとダメでしょう!?いつ入用になるか分からないんですからね!!」


 昨日まで馬だった奴の言うセリフだろうか、これは。

 少し私欲が入ってる気もするが、わざわざ反論する必要も無いし黙る。


「料金は泊まるだけ、1泊なら大銀貨5枚だよ。食事付きなら7枚さね」

「ああ、食事は要らないから大銀貨5枚だな、お釣りをくれ」


 小金貨1枚をカウンターに出して大銀貨5枚と部屋のカギを受け取る。


「29だな、案内は必要ない。あと、カンテラの貸し出しをしているか?」

「ああ、カンテラは無料だよ、使うんなら持っていきな」

「ありがとう、助かる」


 カンテラを受け取り、廊下を奥に進む。

 後ろから「賢い子だね……」とか聴こえてきたが、まあ大して気にならなかった。

 部屋のカギを開けて中に入る。キングサイズのベッドが1つ、机と椅子があり、机の上にはインクと羽ペンが置いてある。ベッドはかなり大きいので俺たち3人が乗っても大丈夫だろう。

 窓はガラスで、カーテンもある。直ぐにカーテンを閉めた。もちろん証明なんて無いので部屋の中は薄暗くなった。


「ふかふかなのですー!」

「気持ち……いい……」


 早速ベッドに飛び込む2人。まあやると思ってたけどね。


「どうだ?初めてのベッドは」

「すっごいふかふかです!フワフワなのです!凄いです!!」

「眠たい……寝ても、いい………?」

「あー、別に構わんぞ。俺は用があるからまだ眠らんがな」


 日が落ちかけているとはいえ、まだ5時くらいだ。寝る気にはならない。

 ウルはもしかしたら今日は結構無理に走ってたのかもな、疲れが溜まっているみたいだ。ゆっくり睡らせてやるか。


「俺はさっきも言ったようにやる事があるから少し出る。ブラス、留守番頼むな」


 早速、深い眠りに落ちているウルの髪の毛を触っているブラスに告げる。サラサラして手触り良さそうだ。

 ブラスはウルを起こさないようにか、こちらを向いて声を出さずにこっくりと頷いた。

 それをしっかりと見届けてから、俺は部屋の外に出た。

 用とは、簡単な事だ。日数の計算と残金の計算、それとあいつら2人を戦闘時にどうするかなどの簡単な考え事だ。

 部屋で紙にでも書きながらやろうと思っていたが、ウルが寝たので外でやる事にした。

 とりあえず宿を出て、すぐ近くの酒場に入った。


「ん?ガキ、ここはお前が来る場所じゃないぞ?」

「ごめんなさい、お父さんを探しに来たんです。すぐ出ていきますから!」

「なんだ、そんなことなら構わねーよ。さっさと探してきな」


 酔っ払いとはどこの世界でも面倒なものだ。

 酔っ払いが絡んできたが、面倒くさいので適当にあしらう。そんなに酔ってはいないようだったが元が面倒くさそうな奴だな。

 どうやら席は空いてないようだし、完全に出来上がってるのが何人か居る。確かに日は落ちたがまだ大分早い時間帯だ。自重すべきじゃないのか?

 まあ、もちろんそれを口に出す事はなく酒場を出る。


「なんだ、オヤジは居なかったか」

「うん、ごめんね。どこに行っちゃったんだろ?」

「知るか!おら、さっさと行きな」

「はーい」


 ああ、子供のフリはとても疲れる……。

 うん、外でやるのは無理だな。しょうがない、部屋でやるしかないか。


 結局そのまま宿に戻る。ああ、無駄な時間を過ごしてしまった。

 部屋に入ると、ブラスも眠ってしまっていた。

 2人は初めてのベッドだし、気持ちは良く分かるので咎めたりはしない。

 2人に薄い毛布をかけてやり、椅子に座る。


「………残りは18日で、双子平野まではあと2日くらいか。

 2人が仲間になったのは嬉しい誤算だったな。あと12日くらいあればイリスに着くな」


 この世界は非常に広く大きい。ありえない程に。

 イリスまで、まだまだかなりの距離がある。めちゃくちゃ遠い。だが、それくらいの距離でも、地図を見たら中央大陸の十分の一くらいしか進んでいない。

 いくらウルとブラスと言えどもキツイだろう。2人の疲労なども考えなければならない。堅実に行くならば15日だと考えるべきだろうか。

 中央大陸の地図を見る。この地図はアドリガで買っておいた物だ。正確かどうかは分からないが、高かったので大丈夫だろう。

 ここから3つの村を通り、5つほどの町を通過し、ちょっとした森林を越えれば双子平野に到達する。

 双子平野そのものもかなり広い。東京ドーム何個分とかいったレベルじゃない。国何個分とかいったレベルである。

 大体中くらいの国が5つは入るくらいだ。その中にCランクの魔物が大量に蠢いている訳だ。中々恐ろしい場所だな。


「うーん…………」


 金は、もうこれ以上使う必要が無いので大丈夫だろう。ただ、ブラスも言っていたように、不慮の事態の時の為に持っておく必要はある。


「残金は………大分減ったな」


 残金は小金貨17枚と大銀貨7枚だ。日本円換算で175万円。大金である。

 これだけあれば大丈夫だろうし、もし減っても、金を狙ったりしてくる奴が居たら返り討ちにして身ぐるみ引っペがして、全部売れば金は増えるだろう。

 一通り考えたが特に緊急といった事は無かった。


「他の不安要素は奴の特殊な能力の対策だな………」


 蒼髪獣人青年、フェイスを拷問 (せっとく)して教えてもらった奴の能力はかなりの脅威だった。

 奴、とは、もちろん死神の事だ。

 聞いた、奴の能力は厄介極まりない能力だった。特に俺の戦い方とはかなり相性が悪い。何か対策を立てねばやられてしまうだろう。

 しかし、その対策が思い浮かばない。


「くそっ、寝るか」


 半ばやけになり、眠る事を選択する。

 それは思考の放棄に他ならないのだが、笑えてしまうほどに対策が思い付かないのだ。笑うしか無いだろう。

 ポケットからパサパサの、ほぼ布と言える毛布を取り出して身体に被せ、椅子の上で寝た。



─────



 翌朝、まだ寝ているウルとブラスを起こさぬように部屋を出る。

 カウンターに居るおばさんに頼み部屋までお湯とタオルを持ってきてもらうように頼んだ。値段を聞いたが、これは無料で行っているらしい。

 部屋に戻り、少し経ってからおばさんがお湯が入った桶とタオルを持ってきてくれた。

 タオルをお湯で濡らして体を拭く。流石に何日も何もして無かったのだ、これくらいは許してもらいたい。

 それから少しして、2人がむっくりと起き上がった。

 まだ寝ぼけているようでぼーっとしている。


「ふあぁ………おはようございまふ、ご主人しゃま」

「おはよ………」

「ああ、2人ともおはよう。建物の横に井戸があるからそこで顔を洗って来い」


 2人は返事をして部屋を出ていった。ちなみに、井戸は昨日この宿に来た時に見つけていた。


 2人がすっきりした顔で戻って来た。ウルはまだ少し眠そうだが。


「改めておはようございます、ご主人様!」

「おはよ………ございます」

「うん、おはよう。

 さあ、飯を食ったら早速出発するからな。昨日は夕飯食べてないし、お腹すいただろ?」

「はい、何か食べたいです!」

「街中だし、美味しくない携帯食料じゃなくてきちんとした飯を食べるか。

 よし、行くぞ」


 宿から出て街に出る。通りには中々の人数が歩いていた。

 適当にレストランのような場所に入り席に着く。席は4つあり、奥に俺が、入り口側に2人が座った。俺の前はブラスが獲得している。

 すぐに店員がメニューを持って来てくれた。優秀な店員だ。


「なんでも好きな物を食べるといい。遠慮はするなよ」

「い、いいのですか!?じゃあ、えっと

、えっと!」

「………おにく」


 楽しそうにメニューを眺めるブラスと、口元からよだれを垂らすウル。生肉では無いとは思うが、肉が好きなのかな?


「わ、私はこの黄金豚とシルバーキャベツの肉野菜炒めにします!」

「…………地獄鳥の香草詰め丸焼き」

「じゃあ俺はグランドフィッシュの焼き魚にしよう」


 この店はどうやら高級なお店だったらしく、少々値が張る。

 別にそんなことはどうでもいいので言わなかった。それに本当にそれだけの価値のある味ならば金を出すのは当たり前だろう。

 店員を呼んでオーダーを伝える。

 30分ほどで料理が運ばれて来た。湯気が立ち、いい匂いが辺りに立ち込める。


 スズの頼んだ肉野菜炒めは驚く事に、本当に金色の肉と銀色の野菜の炒めものだった。神々しい光景だ。

 ウルの選んだ丸焼きも凄かった。地獄鳥の名にふさわしい、真っ赤な肉。思わず店員に本当にこれか聞いてしまったくらいだ。ちなみに、この色は着色している訳ではなく、元々こうらしい。

 俺の焼き魚は、凄かった。1mくらいの、角が生えた巨大な魚。それが丸々と焼かれているのだ。ザ・男の料理、といった感じだった。色は紫色。食欲が失せる。


「ほら、食べていいぞ」

「いただきまーす!」

「いただき、ます」


 俺の言葉を皮切りに料理に手を付ける2人。とても美味しそうに食べている。

 急いで食べていたので、案の定ブラスが喉に詰まらせてしまった。


「んっ!………ん〜!」

「詰まらせたか?ほれ、水を飲め」


 料理と一緒に来ていた水を差し出して飲ませる。

 水を飲んで落ち着いたブラスは、また、ゆっくりと食べ始めた。

 その瞳から涙を零しながら。


「……………どうした?」

「……あっ………ご、ごめんなさっ……うっ…………」

「…………」


 ウルの目も潤んでいて、泣きそうだった。だが、必死に抑えていた。

 一方、ブラスはぼろぼろと涙を流し、嗚咽を漏らしている。

 大体、泣いている理由の予想はつく。


「大丈夫だ、いくらでも泣いていい。ここにはお前達を害するような奴はいないし、居たとしても俺が守ってやる」


 その言葉を聞いて、ブラスは大声で、ウルも俯いて泣き始めた。

 店員が何事かと来たので、謝って、迷惑をかけて申しわけないが少し放っておいてくれと頼んだ。


 10分後、やっと落ち着いたのか泣きやんだ2人は、目の周りを赤く腫らして眼球も充血していた。


「ごめんなさい、ご主人様………」

「ごめん、なさい……………」

「なんで謝るんだ、俺は怒ってなんかないぞ。お前らが何をした訳でも無いし、謝る必要は無い」

「でも…………」

「店に迷惑をかけた、とかそういったふざけた事を口にするなよ。

 俺はお前たちの主人だ、お前らのやった事の責任は俺にあるんだ。それに、あそこでお前らを泣かせないなら男じゃない」


 2人は驚いたような顔でこちらを見た。あーあー、せっかくの可愛い顔が台無しになってしまってるじゃないか。


「さて、泣いた理由を教えてくれるか?ブラスからだな」

「………はい」


 ブラスは、先程の泣いていた面影など見せず、ハキハキと喋り始めた。


「………私は、元々魔大陸に居ました。とある村に住んでいて、その村の人達と一緒に楽しく暮らしてました。

 けど、とある日に商人みたいな人が沢山の傭兵を引き連れて、村を攻めたんです。

 みんな立ち向かったけど、相手は強くて、次々に捕まっていきました。

 私も最後まで子供達を守ってたんですけど、勝てなくて………。

 それで私はここ、中央大陸に送られました。他のみんなが何処に行ったかはまったく分かりません。

 私は霊獣で、確かに普通の馬とかよりも少ない食べ物で沢山走れますけど、お腹はすくし、眠りたくもなります。それでも休む事は許されず、必要最低限の食べ物だけを与えられて走らされました。

 酷い飼い主さんは、少しフラついただけでも容赦なくムチで叩いたりしてきました。

 ………その内、心も体も疲れ果てて、何回も死にたいと思いました。自分で自分を傷つけたりもしました。でも、霊獣の体が、高い回復力がそれを許してはくれませんでした。

 それからしばらくして、媚びる事を覚えました。新しい飼い主さんに、最初に人懐っこく見せる事で優しくしてくれる方も多かったです。

 その頃はもう人間が大嫌いで、演技でもそれは苦痛でした。でも、自分が出来る最前はそれしか無かったから……演技を続けました」


 また、ブラスは泣いていた。噛み締めるように言葉を搾り出し、話を続けている。


「もう、自分が演技をしているかどうかも分からなくなっていました。元の性格を忘れかけていました。

 内側では、どうやったら死ねるか、なんてことをずっと考えながら、外側は明るく振舞って………辛かったです。

 そして………そんな生活が始まって57年、ご主人様と出会いました。

 最初にご主人様を見た時も、何とも思ってませんでした。コイツを殺して逃げようか、とも思いましたが、魔道具であるあの馬具のせいでそれもできません。しょうがなく、気に入られるようにまた演技をしました。

 なんでこんなちっちゃい子が、なんて事すらも浮かびませんでした。それくらい思考をしようとしていませんでしたから。

 …………あなたは優しかった。でも、いずれ私を甚振って最後はまた売るんだろうと思っていました。

 次の日、ウルと出会って、ご主人様がウルを一緒に連れて行くと言った時は少し驚きましたが、どうせ売る為だろうと思っていました。

 夜に、ウルを簡単に倒した強さを思い出して、魔力がどの位か見てみたら、すごい量でした。ダメ元で魔力を求めたら、あなたは私どころかウルにまで簡単に魔力を与えてくれました。それも大量に。信じられませんでした。

 そして昨日、人型になっていて、いや、なれていて、自分が進化出来た事をはっきりと理解出来ました。凄く嬉しかった。

 あなたは、その姿を見て、服を着ていない事を教えてくれた。奴隷として売られると思ったのに、わたし達の心配をされたのには、とてもびっくりした。

 夜にはベッドでねむらせてくれた。床に寝るものだと思ってたのに。初めてのベッドだった。すっごく気持ち良くて、フカフカで、幸せになった。

 朝起きたら、あなたはわたし達よりも先に起きていた。朝日に照らされるあなたの姿はとても美しかった。

 ベッドだけでも幸せで、なんだか自由になれた気がして、いつ奴隷にされてもいいと思ってた。

 でも、あなたはそんなこと一切言わずに、ご飯を食べて出発するって……売られない事にまた、びっくりした。

 なんでも好きな物食べていいなんて言われて、怒られたりしなくて……初めての料理はとっても、とっても美味しくて……………涙が出た。

 泣いても怒られなくて………いっぱい泣いて……今まで私がやってた事は何だったの?って思った………私、馬鹿みたい……」


 ブラスは一気に話して、涙を手で拭いて笑顔を見せた。


「だから、これからはそんな馬鹿な事はしない。

 最高のご主人様にも出会えたし、………話した事でなんだかすっきりした。

 これからよろしくお願いします、ご主人様っ!」

「…………ああ、よろしく。

 ただ、1つだけ。俺は最高じゃない。

 いつだって自分自身が最高なんだ。俺よりも、俺に会うまでどんなになっても、どんなに醜くとも生きてきたお前の方が生きているものとして素晴らしく、そして美しいと思うよ。醜くても、必死であれば美しいんだ。

 もっと自分に自信を持て。村の奴らだって、卑屈なお前に怒ると思うぜ?

 何より、俺に付いてくるならば俺と肩を比べる、くらいの理想を持て。

 俺がいつでも見ててやる。もう2度と、死にたいなんて思うなよ?」


 そう告げると、ブラスはまた泣いた。

 まったく、泣き虫な奴だ。



 感動系は得意ではありません………。

 投稿遅くて申し訳ありません。

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