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13話 出発


「──という事です父上」

「……死ぬなよ」


 俺は屋敷の執務室で、父上に報告をしていた。父上は終始厳しい顔で聞いていた。そして先程の一言だ。


「そのつもりです」

「しかし、なぜリテラが……いや、あの才女の王妃様のことだ、何か策があるのだろう」


 策なんて聞かされてない。王妃が俺を選んだ理由は2つあるらしい。サーシのところから戻る際に父上たちが聞いてくるかもしれんと思い聞いていた。


 一つは、単純な戦闘力の問題。実は王妃様も得意体質で、目で特殊魔法『鑑定』が使用出来るそうだ。戦闘力は数値化されるらしく、俺の数値は国王に近かったらしい。もちろん他言はしていない、と言われた。


 もう一つは顔があまり割れていないことだ。

 俺は国から離れて暮らしていたから、昔門番が知らなかったように貴族としてあまり知られていない。最近は知られてきたみたいだが、国内の一部での話だ。国外では全く知られてないだろう。

 なので行動しやすい。


 あっちでの行動は自分でどうにかしろと言われた。策なんて無いらしい。それくらい切羽詰っているのだろう。


「でしょうね。

 では、母上に報告して出発します」

「あ、ちょっと待て」


 ドアノブに手を掛けたところで引き止められた。


「何でしょうか?」

「これを持っていけ 」

「これは……」


 手渡されたのは一本のダガーだった。黒い鞘から出してみると、鈍色に輝く刃が顕になる。全体の状態からこまめに手入れされている事が一目で分かる。刃に装飾などは無いが、かなり良いものだ。


「俺がガキの頃からずっと使っていたダガーだ。手入れは毎日欠かさず行っている。特注品でもあるから悪い品ではない。

 お前にやろう。もう俺が使う機会はほとんど無さそうだしな」

「………宜しいのですか?」

「ああ、構わん」

「かなり高価そうに見えますが。それにそれだけ大切にされているという事はこのダガーには何かあるのでは?」

「…………いいから持っていけ」


 どうやら言えない秘密がこのダガーには何かあるみたいだ。まあ呪いとかそんか類いでは無いのは父上の目を見れば明白だ。

 父上が一瞬だけ見せたのは何かを懐かしむような、しかし何処か悲しいような目だった。

 深く詮索はしまい。話さないなら聞かない。それだけだ。


「……ありがとうございます。それでは言って参ります」

「ああ、頑張れよ」



「そう………」

「…………」


 母上はとても悲しそうな顔をした。そりゃあそうだ。不安でたまらないだろう。自分の息子が単身、敵地に乗り込み人質の奪還まで行うのだから。


「………大丈夫なの?」

「……分かりません。かなり危険な事に間違いは無いでしょうが」

「心配だわ………」

「母上………」


 行かせたくない。しかし夫は許しているし、息子も覚悟を決めている。何より王妃様が直接息子にこの使命を与えたのだ。逆らえるわけが無い。でも、それでも生かせたくは無い。

 そんな葛藤が聞こえてくるかのようだ。


「母上、これは誰かがやらねばならぬのです。果たさなければこのトロハ王国は戦火に焼き尽くされる事になるでしょう。

 安心してください。必ずや帰って参ります」

「………これを持って行って」

「ネックレス、ですか?」


 母上が差し出してきたのは母上がいつも身につけているネックレスだ。多少の装飾と、十字架が1つ。高価では無さそうな、ごく普通のネックレスである。


「ええ」

「……ありがとうございます」


 ネックレスを首にかける。


「うん、似合ってるわ。

 気をつけて行ってらっしゃい」

「はい」


 母上は俺が出かける時にいつも俺に言う言葉をいつも通りの表情で言った。




「リテラ様、どうか無理はしないで下さい」

「リテラ様の安全を願っています」

「…………頑張って、下さい」


 グリードさん、リリーさん、メイズさんの3人からは激励の言葉を頂いた。


「ありがとうございます。では、行ってきます」


 玄関で見送ってくれる5人にそう言って歩き出した。シュラタが居ないのが残念だが、彼は学校だ、仕方あるまい。

 もう1回だけ振り返り、屋敷と5人の姿を瞼に焼き付けて、また歩き出した。



「リテラさん!」

「?あなたはどちら様でしょうか?」


 必要な物を買おうと王都に戻ると見知らぬ男が話しかけてきた。


「王妃様の使いです。経費と、手紙を預かって参りました 」

「手紙、ですか?」

「ええ。それと、アドリガへ向かう商人に話をつけているからその商人の馬車の護衛としてアドリガに向かえとの事です。商人は西門に居ます。これを見せればいいでしょう」


 そう言いながら男は手紙と金が入っているらしい布袋、王家の印が押された紙を渡してきた。

 馬車よりも走った方が速いのだが……。いや、敵に見つかってしまうか。しょうがない、そうさせてもらおう。


「確かに受け取りました。ありがとうございます」

「では、私はこれで。ご武運を」


 男は城の方に走って行った。



─────


「宜しくお願いします」

「ああ、宜しくね」


 俺は今、西門近くの馬車の1つに乗っている。やはりこの方法の方が大分自然にアドリガまで行く事が出来るだろう。敵のスパイにバレたらいけないからここから国の援助は一切無し、俺がどうにかしていくしかない。

 多少のプランはあるから大丈夫だが。

 

「……大変な人生送ってるみたいだな、ボウヤ?」


 隣に座っている冒険者の男が話しかける。こいつも雇われた護衛だ。

 俺の今の格好は革のズボンと皮の鎧だ。腰にはダガーを差してポーチをつけている。更に両手にはガントレットだ。右手に着けているガントレットは紅を基調としており、金色の装飾が施されている。左手のガントレットは蒼く、銀色の装飾が施されている。

 多分男からしたら俺は『ちっちゃいのに冒険者まがいのことでもしないと生きていけない可哀想な子供』にでも見えているんだろう。事実は全く違うがな。

 国からは必要経費として中金貨10枚と小金貨50枚を貰っている。そんなにいらんのだが、念の為貰っておいた。

 他にも色々あるが、ボックスを付与しているポーチやポケットに仕舞っている。


「まあ、聞くも涙語るも涙ってやつで………」

「無理矢理聞こうとか思っちゃいないさ。ほら、とっときな」


 そう言って男は中銀貨を3枚俺の手に握らせた。


「あ、ありがとうございます……」

「なに、冒険者ってのは助け合いが大事だ。例え相手が年端のいかないガキでも見下したりせず助ける。それが本物の冒険者ってもんよ!」


 いや、結構見下してると思うんだが……。まあ、本人は自覚無いみたいだしほっとこう。悪い奴では無いみたいだし。


「で、おめえさんは何処で降りるんだ?この馬車は西に向かって幾つかの村を通り、アドリガから北上し、大陸北部の国マリリまで行くらしいが」

「あ、俺はアドリガで降ります」

「アドリガか。俺はマリリまで行ってリグド大陸に渡るンだよ」

「それまた長旅ですね。てかこの馬車そんな遠くまで行くんですか。知らなかった……」

「馬車に積んであるのは南にしか無い物ばっかだ。あっちでは珍しいモンだからそれを売り捌き、北の物を買って来てまたそれをこっちで売るつもりだそうだ」

「へぇ……でも、大陸の中央を越えるのが大変じゃないですか?下手したら全滅も有り得るでしょう」


 中央山脈は名の通りルコムス大陸の中央に存在する、7000m級の山が並ぶ山脈である。

 もちろんそんな場所を馬車で通る訳ではない。中央山脈は一番端まで届いている訳では無いからだ。大陸の左右1kmは山が存在せず、平地になっている。

 しかしそこも安全に通れる訳では無い。その平地、通称『双子平野』はCランクの魔物が大量に生息している

場所だからだ。サイクロプスと同レベルの魔物が何体も襲いかかって来る、恐ろしい場所である。

 ちなみに、イリスは中央山脈を挟んだ反対側に位置している。


「大丈夫だ。護衛は俺のパーティーだけだが全員Bランクだからな!

 あ、そういや自己紹介なんかもまだだったな。俺の名前はスウィンドだ」

「俺はリテラです。宜しくお願いします、スウィンドさん」

「リテラはランクいくつなんだ?」

「ランクは……ありません」

「はぁ?冒険者なんだろ?」

「いや、その……冒険者ギルドに所属してないんです」

「何ぃ!?………ちょっと来い!」

「い、いきなり何ですか!?」


 無理矢理馬車から降ろされる。なんか悪い事言っただろうか?


「お前、冒険者ギルドに所属せずに依頼を受けたらダメだろうが!登録出来なくなるんだぞ!?

 おい、商人のオッサン!出発までどのくらいかかる?」

「んー……前がつっかえてるからあと2時間ほどかかるだろう」

「ちょっと冒険者ギルドに行ってくる!必ず戻る!」

「あいよー」


 軽くないか?いいのか、それでいいのか商人?あ、いや、パーティーが居るって言ってたな。そいつらが待機してるのか?姿が見えないが。ま、いっか。

 それより、もしかして俺は冒険者ギルドに登録しに行くんだろうか?いつかは登録しようと思っていたから構わないが、身分証明書として使うのは難しいだろう。名前入るだろうし。

 ストロフト家の事を知っている相手に見せたらどうなるか分かったもんじゃない。まあ、もしかしたら偽名とか使えるかもしれないし、今回の旅では確実に使えない、って訳でもないだろう。身分証明=敵に認識される。この式が成り立ってしまう。そんなことは避けねばならんが。

 まあ、まだ国内だし構わないか。どうにかなるだろう。スウィンドは話を聞きそうにないし。


「今回だけだぞ?黙っといてやるのは。全く……」

「ははは………」

「ん?でも登録してないのになんで依頼受けれたんだ?」

「あ、えっと………あ、あの商人さんから頼まれたんですよ!ギルドを介さずに!なんか、依頼するときに必要な手数料を払いたくないとかで!」

「んで、リテラは事情があるから受けた、と………。断らなかったリテラも悪いが、商人はもっと悪いな!!」


 すまん商人。今はこれがベストなんだ。


「お、ついたな。ほれ、ここが冒険者ギルドだ」


 冒険者街にあるその建物は喧騒がとてもうるさかった。中に入ると、右に酒場、左にカウンターがあった。カウンターの奥には他の人が作業していたり、別の部屋への入口なんかがある。かなり大きい建物だ。


「あら、こんにちはスー」

「おう、リーニャ。新規登録したいんだが」

「あなた登録してるじゃない。もう、せっかちさんねぇ」

「いや、こっちのガキだ」

「あら、そうなの?宜しくね、ボク?」

「宜しく……お願いします」

「大丈夫か?」

「もちろんよぉ、冒険者ギルドは来る者拒まずだからぁ」


 猫耳。猫耳がそこにあった。

 どうやらギルドの受付嬢は猫人族らしい。獣人を初めて見た!!

 名前はリーニャさん。おっとりした雰囲気があり、目と髪は金色。胸が恐ろしくふくよかである。


「そうか。じゃあ頼む」

「分かったわぁ。ちょっと待っててねぇ」

「おい、リテラ、聞いてんのか?」

「うるせぇ黙れ」

「…………え?」

「持って来たわよぉ。準備はいーい?」

「バッチリです!お姉さん!」

「おい、リテラ?さっきなんか聞こえたような……」

「え?なんですかスウィンド?」

「さんが消えたぜ!?」


 当たり前だ。なぜ貴様如きに敬称を付けねばならんのだ。

 それよりも、気になるのはリーニャさんが持って来た物だ。銀色の、手のひら大のプレート。厚さはほとんど無いくらいだ。


「これがギルドカードだ」

「ただのプレートにしか見えないんですが、やはり何か仕掛けが?」

「仕掛けってほどじゃないわ。魔法陣が2つ書かれてあるだけよぉ」

「魔法陣、ですか」

「細かい事はどうでもいいからさっさと登録しちまえよ」

「そうねぇ、はい、これ」


 リーニャさんが俺に渡したのは、ナイフだった。刃が10cmくらいのもので、汚れなどは一切見当たらない。


「ちっと痛いが、それで指を切ってカードに一滴血を垂らせ。俺の時もそうだった。てかみんなそうだ」

「…………これでいいですか?」

「オーケーです!じゃあ少々お待ちくださいねぇ」


 そう言って彼女は奥の部屋に入って行った。そのあいだにヒールで指を治す。


「………あ」

「ん?どうしたんだ」

「………あれってどんな感じになるんですか?」

「こんな感じになる」


 スウィンドが懐から出したギルドカードには赤い文字が書かれてあった。


『名前:スウィンド・ブルヘルド

 年齢:21

 性別:男

 ランク:B

 クラン:歯止めと歯車』


 その直後、ドタドタと音をたてながらリーニャさんとムキムキで顔が傷だらけの身長2mはありそうな男が慌てて出てきた。


「うおっ!?なんでそんなに慌ててんだ、おっさん!?暑苦しさが倍増だぜ!!」

「やかましいわ!!アホは黙っとけい!!」


 男はスウィンドに怒鳴り、深呼吸を2回してから俺の方に向き直り、真面目な顔で話し始めた。


「……リテラ様、で間違いありませんよね?」

「はい」

「私はこの支部を任せられているアール・ハースターと申します」

「そんなに畏まらないで下さい。俺は今はただの一市民です。ただ、登録に来ただけですから。

 それに、堅苦しいのは嫌いですから。あなたも礼儀作法なんてクソ喰らえって方ですよね?」


 それを聞いた瞬間にアールは肩の力を抜いた。相当無理をしていたのだろう。

 リーニャさんはおろおろしている。可愛い。スウィンドはあんぐりと口を開けている。醜い。

 やはり俺の身分がバレてしまったか。スウィンドが漏らしてしまったりしないだろうか。

 まあ、その時は致し方ない。始末しよう。


「………驚いた。貴族は一部を除き傲慢な者ばかりだと思っていたのだがな」

「心外ですね。俺も礼儀作法なんてクソ喰らえって思ってますよ」

「ははっ。改めて、よろしく。リテラよ。そして冒険者ギルドにようこそ」

「ありがとうござい──」

「おっと。敬語は不要だ。そうだろ?」


 アールがニヤリと笑いながらギルドカードを差し出してくる。


「……やれやれ。

 ありがとう。こちらこそよろしく、アール」


 ギルドカードを受け取る。やはりスウィンドのと同じように赤い文字が書かれてあった。


『名前:リテラ・ストロフト

 年齢:6

 性別:男

 ランク:F』


「これ、偽名に出来ないか?」

「無理だ。魔力から情報を読み取って表示しているから、偽名にする事は出来ない」


 予想通り。これじゃ今回は身分証明には使えない。しょうがないと割り切るしかないか。


「おい、いつまでボケっとしてんだ?スウィンド」

「いや、え?どういう事?」


 どうやらスウィンドはまだ状況が把握出来てないみたいだ。


「え、えっと、じゃあギルドについて色々と説明しますのでこちらに来ていただけますか?」

「あ、はい」


 リーニャさんに呼ばれたので、カウンターの前まで行く。カウンターの上には既に書類が用意されてあった。


「まあ、特にめんどくさいような規律はありませんからぁ」

「そうなんですか?」

「ええ。例えば、他のギルドに加入してもなんら問題はありません。

 だって、冒険者なんて自己責任ですから。遺書の預かりとかもやってますよぉ」

「登録を解除される場合とかあるんですか?」

「罪を犯した方は、停止処分にしますぅ。出て来たら戻しますが、2回目はありません。冒険者ギルドからは追放となり、ブラックリストに追加されます。依頼も出来なくなりますぅ」

「分かりました、ありがとうございます」


 要するに罪を犯さないならいいだけだ。簡単だ。


「あ、あと、10回連続で依頼を放棄したり、失敗した場合、とにかく10回連続で依頼成功出来なかった場合も登録は解除されます。ただしこちらは1年経てば再登録が可能ですぅ」

「俺は余り依頼を受けるつもりもないのでそちらも大丈夫でしょう」

「貴族サマを死なせたりしたらどうなるか分かんねぇからな、依頼を受けるときは全面的にサポートしねぇとな」

「笑えない冗談だ。

 ランクについてはどうなってるんですか?」

「えっと、ランクはF、E、D、C、B、A、S、SSの8つで、ランクごとに待遇などが変わったりします。ランクを上げるには条件を満たし昇格試験に合格しなければいけません」

「ふむ………。

 今日はとりあえず登録だけが目的だったからこれで帰る」

「もう説明はよろしいんですかぁ?」

「大体予想つきますから」

「あ、実は登録料が必要なんですよ。小銀貨1枚ですぅ」

「スウィンド、頼みます」

「お前貴族じゃないのか!?貧乏な冒険者に金出させるなよ!!」

「スウィンド、お前この前のクレイジーフラワーの討伐成功してたよな。小銀貨1枚なんて安いもんじゃねーか。それに、貸しにもなるんだぜ?」

「確かに、そうだな。しょーがねーな」


 チョロいな。アールはこっちにウインクしてくるし。スウィンドはアホだな、やっぱ。


「じゃあ、また」

「ああ」


 2人に挨拶して冒険者ギルドから出る。


「お前、貴族だったのかよ………」

「貴族じゃないなんて1度も言ってません。それと、貴族と言っても権力を笠に着るような事は嫌いなので勘違いはしないで下さいね?」

「あ、ああ。分かった」

「ならいいです。さあ、商人さんの所に戻りましょう」




 商人は既に門で積み荷のチェックを受けていた。


「商人さーん」

「ああ、君たち。実は前の審査が早く済んだみたいでね、もう私の番になったんだよ」

「そうだったのか」

「スウィンドさんのパーティーメンバーたちは?」


 パーティーは、冒険者同士で組むチームの事だ。2人以上ならパーティー扱いになる。パーティーの名前は付けたり付けなかったり、付けてなくても付けられたりする。

 クランなどと違ってパーティー契約は口約束だ。クランを創るよりも遥かに高い信頼が必要になるだろう。


「そういや少し前から見てねーな」

「あ、私が手紙を預かってますよ」


 商人が懐から1枚の紙を取り出す。小さい物だ。

 それをスウィンドが受け取り、読んですぐに唖然とした顔を見せる。


「どうしたんですか?」

「……これ、見てみろよ」


 スウィンドが差し出してきた紙にはこう書いてあった。


『待つのがめんどくさいので先に行く』


 ………流石にこれは酷い。同情してしまう。


「パーティーメンバーは何人いるんですか?」

「1人。人族の気が強い女なんだ……」

「実力は、強いんですか?」

「ああ。俺が前衛であいつが後衛。弓も魔法も使えるし、接近戦も槍があればそんじょそこらの魔物や兵にゃ負けない」

「そりゃ凄い」

「問題は性格なんだよ……」

「………どんな感じなんですか?」

「めちゃくちゃ気が強くて、常識が無い。敬語というものを知らないんだ。

 オマケに単純 。ホイホイ騙されちまう。アイツの所為で何回無一文になったり殺されそうになったか、数えられん」

「うへぇ…」

「どうせどっか途中の国で騒動起こして指名手配とかされるだろう。それを追っかけてりゃいい」

「妙に冷静ですね。……まさか?」

「ああ、過去に3回ほど同じような事があった 」

「……苦労されてるんですね」

「……言うな」

「おーい、行きますぜー!」


 気付くと商人が手を振ってこちらを見ていた。積み荷の点検は終わったようだ。

 急いで向かい、馬車に乗る。すると御者台に乗っている男たちが馬車を進ませた。馬車は全部で5台だ。

 門をくぐると堀の上にある橋がすぐ目の前に見えた。幅は3mといったところだろうか。

 その上を通り越し、石が敷かれ整備された道を進み出した。


 街道は長く続いていて、一時間ほど馬車は走り続けた。

 俺とスウィンドは周囲を警戒するため両端の馬車の上に乗っている。

 そのあたりで俺は懐から男から持って来た手紙を出して読むことにした。


『リテラへ

 今回の事で戦争は避けられないでしょう。アリスが捕えられているこの状況では戦争が起きてもアリスの事を持ち出されては勝てません。勝つためにはアリスを救出する必要があります。

 まあ、そんなことは建前でどうでもいいのですが。私の可愛いアリスを救って下さい。謝礼ならいくらでも出します。

 イリスも位置的になかなか攻め込んではこないでしょう。私達もなんとかして時間を稼ぎます。100日ほどは、なんとかして戦争を起こさせません。しかし、それから先は保証出来ません。

 無理を言っているのは分かっています。しかし、これしか手は無いんです。

 どうか私の娘を救って下さい。これは一国の王妃としてではなく、一人の母としての願いです。

 よろしくお願いします。

 ミスティア・アヴァラム』


 この手紙は『母親』が書いたものだ。『母親』のこんなに切実な想いを裏切るわけにはいかないな。

 100日。アドリガまでの移動だけでも5日かかる事を考えると短いかもしれない。だが、この状況下でなら充分だ。


「よし!」


 俺は急いでいたのかもしれない。もっと余裕を持っていこう。アリスも、暴力を受けているかもしれないが、人質なのだからかなり酷くはやられていないだろう。すまないが、少しだけ耐えてくれ。必ず助ける。


「敵だ!!」


 決意した次の瞬間、スウィンドの怒声が飛んだ。


「正面、盗賊が20人ほどだ!」


 遠くに人影が見える。目を強化するとはっきりと見えた。

 革の鎧を着て剣を持った人相の悪い男たちが20人。盗賊とは随分分かり易い見た目だな。


「どうするリテラ!」

「俺が行きます!!」

「えっ!ちょっとま……」

「行ってきます!! 」


 返答を待たずに全身を強化して馬車の前に飛び降りて走り出す。走りながら両手に魔力を込める。盗賊たちとの距離が残り20mくらいになった所で止まる。


「あんたたちは盗賊か?」

「当たり前だろうがぁ!!ガキは引っ込んでな!!俺たち相手に同情引こうったってそうはいかねぇからな!ひゃっひゃっひゃ!!」

「じゃあぶっ殺していいな『エレメンタルハンド』」

「は……な、なんだよそれは!!」

「これがどうかしたか?」


 今俺の右手は水で出来ていて、とても巨大になっている。左手も同じく巨大化していて、メラメラと燃え盛っている。大きさは、長さ1m、太さは一般的な男性のウエストくらいだ。

 もちろん本当に巨大化したわけじゃない。新しい魔法だ。『エレメンタルハンド』。

 まあ、半分魔法で半分魔道具みたいなモンだが。

 俺はサーシに魔力を変換させて、その属性の『アーマー』を創れないか、と提案した。サーシもそれに乗って研究していたが、制御する魔法陣が作れなかった。魔力が暴走して俺自身を傷つけてしまうのだ。

 だが、『テンタクルス』のような、自律ではなく俺自身が動かす魔法ならば魔力が暴走しなかった。

 そしてそれを効率良く、発動しやすくと改良していった結果、あのガントレットの形になったのだ。実は装飾も魔法陣の一部だったりする。中には魔法陣がビッシリ書かれてたりもする。色は魔石を混ぜこんであるからそれぞれの属性の色になっている。

 普通の腕のサイズにまで圧縮することも出切るが、最初の発動には必ずあの大きさが必要になる。一回の発動に一万魔力を使う。それでもかなり消費魔力は減った方だ。つまり、俺にしか使えないようなものだ、この魔道具は。

 ちなみに、圧縮は多分、これから先使う事は無いだろう。なぜなら、初期状態でも充分強いからと、圧縮すると明らかにオーバーキルになるからだ。

 一度サーシと実験に行った。その時は風の『エレメンタルハンド』を圧縮させて、木に触れた。次の瞬間、木は粉に変わった。

 他のは怖くて使っていない。というか火の『エレメンタルハンド』とか圧縮して使ったらオーバーキルどころか下手したら自分まで火だるまになるだろう。そんな危険な事したくない。

 全属性のものを両手に対になるように作ってある。お値段は………まあ、この時だけは貴族で良かったと思った。

 普段は2つ着けて、残りはポケットに入れるようにしている。


「お前らめちゃくちゃ運が……悪いね」


 瞬時に右手と左手を同時に盗賊たちに叩き込む。

 左の奴らは全身火だるまになって死んでいく。右の奴らは水の中に閉じ込められてもがいている。


 両腕が消えると、盗賊の残りが5人ほど残った。


「さーて、お前らは溺れるか燃えるかどっちがいい?」

「ひっ、ひいぃぃぃ!!」


 盗賊たちは一斉に逃げ出した。


「なんだ、つまんねーの」


 全員の頭を『ショット』で撃ち抜いた。

 作者の都合のせいでかなり予定よりも遅れてしまいました!申し訳ありませんでした!

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