9話 死神の謎
投稿遅れてしまいました!申し訳ありません!
遠くに影が見える。影はゴブリンたちを踏み潰しながら駆けてくる。
黒くなった皮膚。赤く輝く目玉。3mはあろうかという巨体に、巨大な大剣を持っている。間違い無くマスターゴブリンである。ただ、普通のマスターゴブリンは巨大な棍棒を持っているはずなのに、何故か大剣を持っている。
「畜生が………あと10分だってのによ……」
ここから街まで2kmはある。
援軍が街から来るには早くても10分はかかってしまう。
「やってやる…………やってやるよ!!」
右側で、マスターゴブリンが大剣を振り上げる。キングゴブリンは左側で双剣を構えている。
「『テンタクルス』!」
「ゴギイィィイ!!」
3本のテンタクルスを重ね、横倒しにして盾に使う。大剣を防ぐ事は出来たが、一番上のテンタクルスはちぎれてしまい、霧散した。霧散した魔力は剣に吸い取られていく。
「なんだあれは!?」
「ギャィィイアアア!!」
左からキングゴブリンが突っ込んで来る。すぐに左手をキングゴブリンに向ける。
「『ショット』!」
「ギギィッ!!」
ゴブリンは、足を止めて手を前に出す。
ショットはまたしても結界に止められてしまう。
「くそ………『物理結界』……厄介だ。俺に属性適性があったら今頃お前は死体だってのに……」
「ゴギギィギィィィァィー!!」
「グギィィイィー!!」
「ああ畜生!!『ショット』!『テンタクル───ぐあっ!?」
近いキングゴブリンをショットで足止めし、テンタクルスでマスターゴブリンの大剣を受け止めようとするが、大剣は2本のテンタクルスを切り裂き、リテラの右肩に直撃、そのまま後ろに弾き飛ばされる。
「ぐ、う……『アーマー』が無かったら死んでたぞ畜生………!!」
「ゴギィィィァァァア!!」
「ぐ……あああああっ!!」
マスターゴブリンの追撃がリテラの右肩に襲い掛かる。右腕はバキゴキと鈍い音を立て、吹き飛ばされ、木にぶつかって地面に落ちる。
なんとか立ち上がるが、右腕の骨は飛び出し、おかしな方向に曲がっていた。
「くそ………」
俺はここで死ぬのか………馬鹿だな、俺は…………
視界が狭まっていく。
目の前には、マスターゴブリンが大剣を振り上げ、今にも振り下ろそうかとしている。
「短い人生だった………なんてな」
「おいおい、縁起でもねーこと言ってんじゃねーよ」
次の瞬間──マスターゴブリンの首が飛んだ。
「は?………なんで?」
「なんでも何も俺様にかかりゃあ楽勝よ。サイクロプスと宿の恩だ。
こいつら全滅させてやるよ」
マスターゴブリンの首を切り落としたのは漆黒の鎌。柄から刃までが全て黒い鎌。それを持つのは、漆黒のプレートアーマーに身を包んだ男だった。しかし、今はプレートアーマーの頭部を外している。そのため、男が『死神』だと分かった。
「し、死神…さん………」
「行くぜ、雑魚共!!」
リテラは腕から大量の血を流しており、意識はほぼ無かった。気を失う前に見えたのは、キングゴブリンの首が飛んだ場面だった。
「…………い、おーい」
「……う………死神、さん?」
「終わったぜ」
死神の着ている漆黒のプレートアーマーは緑色の体液でドロドロだった。
周りに他の人間は見当たらない。
道を見ると、道は緑色に染まっていて、動くものは無かった。
「ま、街からの援軍は?」
「まだ来てねーよ」
「え、それって……」
確かに周りには誰も居ないし、援軍が近付いている気配も無い。つまり、この男は数分で万近いゴブリンを殲滅したのだ。たった1人で。
リテラは死神に恐怖を覚えた。
「あと、腕も治しといた」
「え!?あ、ホントだ……あ、ありがとうございます!」
「構いやしねぇよ」
「………死神さん、何処に居たんですか?」
「森ん中で見てた」
「見てた!?なんで早めに出てきてくれなかったんですか!?」
「だってピンチの時に早速と現れたらカッコイイじゃん。
『ウォーター』」
死神の頭の上に大量の水が出現し、死神のプレートアーマーについたゴブリンの体液を洗い流す。
「カッコイイって……」
「まあいいじゃねーか。俺が居なけりゃお前確実に死んでたぜ?」
「うっ………それはそうですけど………」
「だろ?だから俺様を敬え」
「イヤです。
それより、このゴブリンたちおかしくありませんでしたか?」
「おかしかったな。結界やら身体強化やら使うゴブリンなんぞ見たことねぇよ」
「ですよね………特異体でしょうか?」
「それも無い。例え特異体でも魔物は基本的に結界は使えないからな。身体強化は有り得るかもしれんがな」
「はぁ…………」
「しかし良くやれてたぜ?お前。
あのキングゴブリンとマスターゴブリンとは相性が悪かったから負けたんだ。
お前は属性適性が無いらしいな。だから『ショット』を使ってる。だが、物理的な攻撃だから結界に止められる。あれは炎や水が使えたなら問題無く倒せるんだがな。
マスターゴブリンが持ってた大剣は魔道具だ。多分、魔力を吸収して威力を上げるような能力だろう。だから2回目は斬られたんだ」
「相性なんて実戦では言い訳にしかなりませんよ………」
「…………確かにそうだな。
おっ、街の奴らが来たみたいだぜ」
死神が街の方向を見る。死神の言った通り、10台ほどの馬車がこちらに向かっていた。
……………馬車の先頭で、見覚えのある男が巨大な戦斧を振り回していた。
「オラアアアアア!!久々の戦闘じゃああああああ!!」
何してんの、あの国王。
─────
「………分かりましたか?」
「わかんない」
「…………もう5回目ですよ」
「うん」
「いいですか?あなたはゴブリン大進軍を止めに来たんですよね?」
「うん」
「でも、もう死神さんがゴブリンを殲滅しました」
「うん」
「だから、戦う相手はいません」
「うん」
「つまり、戦わなくてもいいんです」
「いやだ」
眉間ブチ抜いてやろうかな。
「コイツ誰?」
「この人はトロハの国王、バルドゥーク・アヴァラムさんです」
「へえ、コイツがあの『異王』か」
「『異王』?」
「他の国からはそう呼ばれてるんだ。王として異常な事しかしないからな。
戦場では、指揮を取って戦術を練って、完璧な作戦を作り上げたのに、いざその場になると真っ先に飛び出して自ら作戦を台無しにする。なのに勝っちまう。
他にも、財政やらを一切全て自分でやる。よく逃げ出すらしいがな。
とにかくアタマおかしいんじゃねえかってくらい異常な王って言われてんの、そいつは」
俺もそう思うわ。
「とにかく国王様も手伝って下さいよ、ゴブリンの死体片付けるの」
向こう側では、男たちがゴブリンの死体を集めて、魔法で燃やしていた。
「嫌だ。俺は戦いたいんだ!!」
「ワガママ言うな!!」
「よし、じゃあ俺が相手してやろう!」
「え?死神さんが?」
「マジか!『九神』3位、死神!!相手にとって不足なしだ!!」
構え出す死神と国王。
「ちょ、ちょっと待って下さい!せめてここじゃなくて別のところで戦って下さいよ!」
「じゃあそこの広くなってるとこで」
「うん、それでいいだろ」
「全くもう………」
「リテラ!!」
死神と国王の戦いを眺めてたら、後ろから声をかけられた。
「あ、父上……ぐあっ!?」
振り向くと、父上が居ていきなり右頬をぶん殴られた。
父上の後ろには母上とグリードさん、スズも立っていた。
「い、いきなり何を………」
「勝手な事をするんじゃない!どれだけ心配したと思ってるんだ!!」
「本当に心配したわ!もう二度としちゃダメよ!」
「リテラ様、自信を持つのと過信するのは違いますよ」
「死んだらどうするのよ!ばーか!!」
「………ごめんなさい」
「もう、こんな事しないでくれ……」
「父上……」
父上に抱きしめられた。甲冑が当たって痛いけど、俺はそのまま黙っていた。
「反省してるか?」
「してます」
「ならいい。もう何も言うまい。
あそこの二人は何をしてるんだ?」
父上が指さした先には、余裕の笑みを浮かべる死神と、明らかに疲弊している国王の姿があった。
「なんか、国王様が戦いたいとかなんとかで……」
「相変わらずだな、国王様」
「あ、そうそう、スズがお前を心配して泣いてたんだぞ?」
「言わないで下さいって言ったでしょ!!」
確かにスズは目が充血して、少し腫れ、涙の跡があった。
「ありがとな。嬉しいよ、スズ」
スズの頭を撫でてあげたら、目を細めて気持ち良さそうにしていた。
「わ、私がもっと強かったら一緒に戦えたかなぁ?」
「俺と同じくらい強かったらね。スズには無理かも」
「なっ!?」
「でも、もし強くなれて、俺の背中を守ってくれるぐらいになったら俺はスズの事好きになるかもしれないなぁ」
「えっ………」
スズが顔を赤らめて目を逸らす。チラチラ俺を見てくるのが可愛いなぁ。
「女ったらしだな」
「女ったらしね」
「女ったらしですね」
うるさいぞそこの3人。
「にしても、やっぱり死神さんは凄いな」
「1人でゴブリンをみんな倒したんでしょう?」
「『九神』は化け物だらけですからね」
「さて、我々もゴブリンの死体の処理を手伝いに行きましょうか」
「そうですね。リテラ、あなたは休んでなさい」
「分かりました」
3人は、死神たちを迂回するために森の中に入って行った。
俺とスズが残り、死神たちの戦いを座って眺めていたら、スズが腕を絡ませてきた。恋する乙女の目をしている。どうやらやり過ぎたようだ。
「ねぇ、リテラ………」
「何?」
「学校に行くのは4年後なんだよね?」
「うん。移動に1年近くかかるから、学校に着くのは5年後になるかな?」
「……私、5年後まで修行しに行こうかな…」
「何処に?」
「『鬼神』様のところ」
「『鬼神』!?『九神』5位の!?」
「うん。私たち鬼族には『鬼三武』っていう戦闘術があるの。素手、剣、魔法を組み合わせて使うの。私はまだ使えないけど、『鬼神』様に教えてもらえたらすっごく強くなれると思うんだ」
「そっか……スズがそう決めたならいいんじゃないか?
でも、『鬼神』の居場所なんて分かるのか?」
「死神様がここに来る前に、『お前が行きたいなら連れて行ってやる』って」
「ん?死神さんと何処で会ったんだ?」
「街だよ?リテラが1人でゴブリンと戦ってるって聞いたら物凄い形相で走っていっちゃったの」
なんだよ、見てたんじゃないのかよ………。あんたメチャクチャかっこいいじゃねーかよ、死神…。好感度50アップだ。
「で、どうするの?行くの?」
「うん。私はまだ弱いから。もっと強くなりたい」
「そうか………5年後までお別れだな。いつ出発するつもり?」
「明日!」
「早くないか?」
「いいの。ここに来てすぐ行っちゃうのも失礼かもしれないけど、だらだらと引き伸ばしてたらきっと私は離れられなくなっちゃうから」
「………頑張れよ」
「うん!」
─────
翌日
玄関の前には荷物を持ったスズと、相変わらず全身真っ黒の装備の死神が立っていた。
「まさかこんなに早く決めるとは思って無かったんだがな……」
「私は決めたらすぐしたいの!」
死神はどうやら不満らしい。
「スズちゃん……あんまり早すぎない?あと1ヶ月くらい居てもいいのよ?」
「ごめんなさい奥様。多分私は1ヶ月もここにいたら、皆さんの優しさに甘えてしまって何時までも出発出来なくなると思います。それならまだ早いうちに出発しようと思いまして」
「そう………しょうがないわね。やるからにはとことんやりなさいよ!!」
「はい!」
「リテラ………」
「少し寂しいね。でも、5年後にはまた会えるんだから、そう思って頑張るよ」
「うん、5年後にはリテラも倒せるようになっておくからね!」
「それは……無理じゃないか?」
「なんでよー!!」
「俺だって今より強くなるからな!」
「私のほうが強くなるもん!!」
「………何回も言うけど、頑張れよ」
「ありがと!………あ、リテラ、耳かして?」
「ん?何?」
スズに耳を向ける。スズは俺の耳元に手を当てる。
「私ね、リテラが───」
次の言葉を待っていたら、手が離れて、頬に柔らかいものが当たる感触がした。
「は、恥ずかしいな………行ってきます!」
スズは耳まで真っ赤にして、手を挙げて死神と共に歩き出した。
俺は頬に手をあてて、二人の姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。不意打ちに、理解がついていけなかった。
「………ありゃ将来尻に敷かれるかもな」
「でしょうね。うふふ」
「やはり旦那様の子供、という事でしょうか?」
「そりゃどういう意味だグリード!」
「もう、耳元で怒鳴らないで!」
「ごめんなさい……」
「………あ、そう言えばリテラ、お前今日国王様のところに行きなさい」
「……………」
「リテラ?」
「はっ!すみません、少し意識が飛んでました」
「………今日、国王様のところに行け」
「昨日の事ですかね?」
「そうだろう。それ以外は考えつかん」
「分かりました。じゃあ早速行ってきます」
「あ、ちょっと待て。俺もお前に言う事があるから私の部屋に来なさい」
「分かりました」
そのまま父上の部屋、つまり書斎に向かう。父上が自由に使える部屋は執務室と書斎だけ。後は母上の部屋のようなものだ。なんとも悲しい男だ。
「で、話とは何ですか?」
「お前、昨日のゴブリン大進軍で死にかけたらしいじゃないか。死神さんから聞いたぞ」
「……はい」
「自信と過信は違う。グリードからも言われていたな?」
「はい」
「お前は自分の力を過信している。だが確かにお前が強いのは事実だ。昨日も、ゴブリン程度なら大丈夫だと思ってしまったのだろう?」
「はい」
「お前は強い。まだまだ強くなるだろう。しかしその途中で死んでしまっては意味が無い。
そのため、もっと修行を厳しくする。お前にあの修行はヌルすぎた」
「………」
「しかしお前は私よりも強い。そのくらい分かる。なので国王様に頼もうと思うんだ」
「国王様にですか?」
「ああ。それを今日、伝えて来い」
「分かりました」
確かに国王様は俺よりも強い。しかしあいつがまともな修行をしてくれるのか?それが不安だ。
「では、失礼します」
俺は部屋を出て、そのまま王都に向かった。
─────
「おや、リテラ様。どうも。今日も国王様に呼ばれたのですかな?」
「はい、まあそんなところですね。
ヴェッヘンさんもお疲れ様です」
「いえいえ、これが仕事ですから」
何回も通っていたため、門番長のヴェッヘンさんとも仲良くなり、今では顔パス状態だ。
門番は基本的に2人居る。門番長のヴェッヘンさんと門番隊の隊員が誰か1人だ。他の門番隊員たちは別の門や、外壁の門を守っている。
「今日はどこに居るだろうか……」
城内に入りながらそんなことを呟く。国王は自由奔放。この広い城内ではどこにいるか予測不可能なのだ。
探しても全く見つからなかったりする事が多い。最終的にはリザルトさんに出会い、無理矢理連れて来てもらったりする。
だが今日はその必要は無さそうだ。なぜならば国王──バルドゥーク・アヴァラムが目の前を通ったからだ。
「国王様」
「ん?リテラか。もう来たのか、早いな。まだ昼前だぞ?」
「やる事も特に無いものでして」
「そうか。まあ、大体分かってると思うが呼んだのは、昨日のゴブリン大進軍についてだ」
「やっぱりですか」
「ああ。色々とおかしいんだよ、昨日のゴブリン大進軍は」
「立ち話もなんですから、とりあえず移動しませんか?」
「ああ、じゃあ会議部屋に行っててくれ。呼んでこないといかん奴がいるんでな」
「分かりました」
バルドゥークと別れ会議部屋に向かう。もうこの城内も俺の庭のようなものだ。ほかに比べて控えめに作られたドアを開ける。中には大きな丸テーブルと、いくつかの椅子のみが置かれている。窓からは冷たい風が入って来ていた。
この世界にも四季はある。今は大体10月、少し肌寒い季節だ。この部屋は会議をするためだけに造られたらしいから、その殺風景さと相まって体が震える。
リテラは下座に座った。この世界に上座下座といった風習は無いが、なんとなくそうしてしまう。
10分程すると、2mはあろうかという大剣を持ったバルドゥークと、白衣を着てメガネをかけた、銀髪の女が入って来た。身長は120cm程度、目の下にはくまが出来ていた。目は半分しか開いておらず、眠そうにしている。研究員の様な風貌だ。白衣の下には、薄いシャツのような服1枚、ホットパンツを履いていた。見た目だけ見ると、歳は一桁の幼女だ。もちろん胸など皆無だ。
しかし、普通の幼女ではない。立ち振る舞いや、白衣の上からでは分かりにくいが、肉付きなどから女が猛者であることは確定していた。
「待たせて悪かったな、リテラ」
「いえ、そんなに待ってませんよ。そちらの方は?」
「『魔道具王』サーシ・ムーティアだ」
「…………バル、なんだこのガキ。俺、ガキは大っきらいなんだ」
「そんなこと言っていいのか?コイツは第一貴族の次男だぞ」
トロハには、貴族の階級として第一貴族から第五貴族までが存在する。トロハは世界屈指の大国、その第一貴族ともあれば小国の国王並み、またはそれ以上の権力を誇る。
「どうでもいい。権力に興味など無い。権力など、圧倒的な暴力の前では無力に変わるからな」
「じゃあ、圧倒的な権力と暴力を持っていたら?」
「………ガキ、俺はバルドゥークと話をしてんだ。殺してやろうか?」
サーシから殺意が滲み出てくる。室内の空気が重くなったように感じる。しかしリテラは平然とし、顔に笑いを貼り付けている。
「何笑ってんだ。何かおかしいか、あ?」
「こんなガキ相手に凄むあんたが滑稽でね」
「…………ほう。冷静だな。ガキとは思えんな。まあ、それとこれとは別だがな──ッ!」
サーシが一瞬で懐に手を入れるが、懐に入っている何かを取り出す前にリテラの、銃を形作った手がサーシに向けられていた。サーシは警戒し、懐に手を入れたまま止まった。
「…………なんの真似だ?」
「さあ、なんの真似でしょうかね?」
「………指先に魔力が集まってる。恐らく『ショット』だ。違うか?」
「正解です」
「サーシ、そいつの『ショット』は警備兵たちが使ってる甲冑も貫通するからな。クックック」
バルドゥークが挑発するかのように笑う。サーシもリテラも、お互い動かない。
「プッ、ハッハッハッハ!!俺が悪かった!勘弁してくれ」
サーシがその均衡を解いた。彼女から出ていた殺意は消え、まるで子供のように笑った。
リテラも手を下ろし、椅子から立ち上がって礼をした。
「御無礼申し訳ありませんでした、『魔道具王』様」
「おいおい頭を上げてくれよ。先にケチつけたのはこっちだしな。それに──」
「ちょっと試しただけ、ですか?」
「その通りだ!」
「ちょっと話に入っただけであんな殺気立たれたら、おかしいとしか思えませんよ。例え本当に子供嫌いであろうとも」
「バル、こいつ本当にガキか?一切可愛げが無いぞ」
「俺もいっつも不思議に思ってんだよ」
「気に入ったぞ!名前は?」
「リテラ・ストロフトです。よろしくお願いします」
「サーシ・ムーティアだ!仲良くやっていこうじゃないか!」
差し出された手を握った。こういう『後ろ盾』は幾つかあった方がいい。色んな分野に顔が効く人ってのは少ない。なら、それぞれの分野で地位がある人たち1人1人に名前を貸してもらえば問題は無い。
「気をつけろよリテラ、そいつ気に入った奴はどんな奴だろうと関係なくすぐベッドに連れ込もうとするからな」
「うるさいぞ!」
「まあ、強引過ぎて全員にフラれてるがな。ハッハッハ!」
「俺は悪くない!あいつらが意気地なしなだけだ!!」
「は、ははは……
あの、そういえばサーシさんっていくつなんですか?」
「俺か?今年で225になる」
「225!?……なんでそんな見た目がに若いんですか?」
「そりゃ、アレだ。こいつ魔族だから。ヴァンパイアなんだよ。結構有名だぜ?ヴァンパイアのムーティア家。コイツは勘当寸前だがな!ハッハッハッハ!!」
「うるさいと言っているだろうバルドゥーク!」
「さて、おふざけはここまでにして本題に入ろう」
「昨日のゴブリンの事ですね?」
「ああ。この大剣はマスターゴブリンが持ってた物だ。間違い無いな?リテラ」
「はい、確かにこれでした」
2mはありそうな巨大な刀剣。柄は黒く、刃の内側は蒼。金色の装飾が施されている、美しい大剣だ。
しかし、相当な重量があることが伺える。人間が扱うには少々重すぎるだろう。
「これな、俺が調べてみたところ、2つの魔法陣が組み込まれていた」
「魔法陣?魔道具には魔石を使うのでは?」
確か魔道具は、魔石を埋め込んで、それに魔力を通して使用するんじゃなかったっけ?本にそう書いてあった気がする。
「2つあるんだ。魔石を埋め込む方法と、魔法陣を組み込む方法。
魔石を埋め込む方法では、魔石に魔力を通して簡単な魔法を使う。『フレイム』や『ウォーター』だな。魔石が魔力を調節してくれるので、誰が使っても一定の出力にしかならない。
もうひとつの魔法陣を組み込む方法では、魔石よりも複雑な魔法や、普通では使用出来ない魔法が使える。魔法陣には『攻撃魔法陣』と『効果魔法陣』があり、その2つを組み合わせたりしてより強い魔法を使えるのだ。『攻撃魔法陣』を書くには魔石が必要になるがな。
『スプラッシュ(水流)』と『攻撃範囲制限』の魔法陣を組み合わせた槍ならば、先端から『スプラッシュ(水流)』が一気に出るのだが、『攻撃範囲制限』の魔法陣を通す事によって一点に『スプラッシュ(水流)』を纏める事が出来る。結果、威力が増大するのだ!!」
なるほど、水流の水量はそのままで射出範囲を狭める事によって、勢いを増し高圧水流を再現しているのか。まあそこまでは分かってないみたいだが。
「色々あるんですね」
「うむ!まだまだ解明されていない魔法陣は大量にあり、それを全て解き明かすのが俺の使命だと思っている!魔法陣は素晴らしいぞ?美しい曲線に通っていく魔力…絡み合う魔力…重なり合う線…新しい魔法陣を創り出した時の快感はもう信じられないくらいだ!!この前は『攻撃魔法一時停止』という射出した魔法が一瞬だけ空中で停止してタイミングをずらせるのだ!!それを創り出した時は1日中悶え続けてな……身体が火照ってしまってたまらないから全裸になって自分で───」
ああ、この人はあれだ。変態だ。自分の世界にどっぷり浸かってる変態さんだ。国王も呆れ顔じゃないか。止めなくてもいいのか、これ?
「サーシ。そろそろお前の聞くに耐えない性事情をヤメロ」
「うるさい!お前のような脳筋にはあの気持ち良さは分からんのだ!あっ、思い出すだけで…………」
「ヤメロ。股間ニ手ヲ向ケルナ」
「国王サマ棒ヨミデスヨ」
「オ前モナ、リテラ」
「貴様ら馬鹿にしてるだろ!!」
「6歳のガキの前であんな事言い出すからだバーカ」
「いや、リテラからは俺と同じニオイがするぞ!研究好きだろ!」
「うーん………まあ、嫌いでは無いですね」
「ほらな!だからきっと俺のそういう快感も分かってくれる!」
「俺は分からんし聞くに耐えないからやめてくれ。大体話が脱線しすぎだ。最初の質問からつまずいてるんじゃねーよ」
「何の話だったか?」
「忘れてんじゃねえよボケッ。マスターゴブリンの大剣だ。俺も聞いてねえんだからさっさと教えろ」
「あ、そうそう。魔法陣が2つついてるってのは言ったよな?その2つが、新しい魔法陣だったんだ。『魔力吸収』と『魔力による重量増加』だったんだ」
「「『魔法による重量増加』?」」
「まあ、土魔法の上位だと思われる魔法だ。敵の魔法を斬り、破壊すると込められていた魔力が霧散するだろう?それを『魔力吸収』で吸収して、吸収した魔力で『魔法による重量増加』を発動させ、大剣の重量が増加する」
「それで2度目に喰らった時、威力が高くなってたのか……」
「しかし、『魔法による重量増加』が新しい魔法陣ってのは分かるがよ、『魔力吸収』は今までなんで無かったんだ?」
「それが、みんな魔法を一旦破壊して、魔力に戻してから吸収するという考えが思い浮かばなかったんだ。ひたすら魔法そのものを吸収しようとしてたんだが、必ず魔法陣か道具が耐えきれずに壊れてしまっていた。盲点だったよ………」
「研究者ってのは馬鹿ばっかなのか?」
「みたいですね」
明日か明後日には更新するつもりです




