死神への贈り物 3
「……え、えっと……アルドンサ?」
「なんだ。シャルル」
「その……怒って……るのか?」
私がそう訊ねるとアルドンサはプイと顔を背けた。
何を怒っているのかわからないので、私としては困りものである。
食堂での夕食時。
ソフィアよれば公爵は所用で外出中、サンソンもそれに付き添っているらしい。
よって、食堂には私とアルドンサ、そしてメイド長のソフィアと何人かのメイドしかいなかった。
「あー……ソフィア。その……ちょっと来てくれないか?」
するとソフィアは、私のほうにそそくさとやってきた。
「なんでしょうか。シャルル様」
「あー……どうすればいいかな?」
「どうすれば? それはシャルル様がお考えになることでしょう?」
そういうとソフィアはアルドンサの元に戻ってしまった。
困った……どうすればいいのだろうか……
「……で、シャルル」
と、アルドンサが声からでも分かるほどの不機嫌そうな様子で尋ねてきた。
「な、なんだ? アルドンサ」
「マリアンナへのプレゼントは、買ったのか?」
「え? あ、ああ。買ったよ。ありがとうな。アルドンサ」
「あー、それはよかったな。よかった。よかった」
なぜかわざとらしくアルドンサはそう言った。
「あー……そうだ。そのアルドンサ……食事の後にしようと思ったんだが、ちょっといいか」
私は立ち上がった。
アルドンサはキツイ視線で私を見る。
「なんだ? 用なら手短にしろよ」
「ああ。わかっている」
私はアルドンサの席の方に行った。
アルドンサは相変らず私を睨んでいる。
「で、なんだ?」
「ああ。これ」
私は懐からあるものを取り出す。
それは、昼頃、アクセサリー店で買ったペンダントだった。
銀で出来た花飾りのようなペンダントである。
「なんだ。これは」
アルドンサは仏頂面で私の取り出したペンダントを見る。
「あー……君に」
するとアルドンサは目を丸くした。
そして、少し恥ずかしそうに顔を背ける。
「なっ……ふ、ふんっ! そんな、マリアンナのアクセサリーのついでに買ったようなものだろう! 私とて貴族の娘、そんな安物に興味はない!」
「え? ああ、いや……確かについでと思われても仕方ないタイミングなんだろうが……本当は私自身でこういったものは君に買いたかったんだけどな」
アルドンサは再びこちらを向いた。
「……じゃあ、なぜ買ってきたんだ? そんなもの」
「そりゃあ、マリアンナにアクセサリーをプレゼントするのに、許婚である君に何も買わないんじゃ、紳士としての格が疑われるよ。私だって一応紳士なんだから。それに、言い訳にしか聞こえないかもしれないが、マリアンナへのプレゼントはこっちだ」
そういって私は懐からもう一つ取り出してみせる。
それは木製で出来た見た目にも安価な十字のペンダントだった。
「え……それ?」
「ははは……私はマリアンナを知っているからね。アイツはどうせ、どんなに高いプレゼントもなんとも思わない。私の意図を説明すれば、これで充分だって思うはずさ」
ちょっとマリアンナには悪いと思ったが、それを買った資金はアルドンサから出ているのだ。ここはアルドンサにより良いものを贈るのが筋というものだろう。
「だから……受け取ってくれるか?」
「あ……ま、まぁ、そういうことなら……いいだろう」
アルドンサはそういって私からペンダントを受け取ると、さっそく首に下げていた。
「あら、お似合いですよ。お嬢様」
ソフィアが嬉しそうにそう言った。
アルドンサも恥ずかしそうにはにかんでいる。
「ま……まぁ、いいだろう。シャルル。偉いぞ」
「あはは……ところで、アルドンサ。結局、どうして怒っていたんだ?」
「え? あ、ああ、いや……その……」
アルドンサは言いにくそうに俯いてしまった。
「シャルル様。お嬢様は怒ってなどいませんよ。決して、シャルル様が自分にはプレゼントを贈らずにマリアンナ様にしか贈らないだろうと思っていたから不機嫌だった、なんてことまったく以てございませんから」
「あ! お、おい! 黙っていろ、ソフィア!」
アルドンサは顔を真っ赤にしてソフィアに怒った。
結局、アルドンサはなんで怒っていたのだろう?
「ああ。そうだ。ソフィアにも、これ」
「え? わ、私ですか?」
そういって私は、同じく店で買ってきたハンカチをソフィアに渡す。
レースの刺繍が施された可愛らしいものだった。
「ああ。買い物に付き合ってくれたからね」
「あ……ありがとう……ございます……と、殿方にこういったものを貰うのは……初めてですので……」
「そうか。それはよかった」
ソフィアはいつものとげとげしい態度とは一転して、急に借りてきた猫のように大人しくなった。
どことなく私のことを見る目もいつもと違うようである。わざわざ買ってきた甲斐があった。
「……シャルル」
「ん? なんだ? アルドンサ」
と、アルドンサを見ると、先ほどまでの嬉しそうな態度から一転して私を睨みつけていた。
「……お前はやっぱり、鈍感だ!」




