カルリオン家の人々 7
屋敷の食堂もまた、恐ろしいほどに巨大な空間であった。
食事をするためだけにこれほどの広さが必要なのかと私はつい疑問に思ってしまったくらいである。
そして、目の前の長テーブルには、所狭しと極上の料理が並べられていた。
「さぁ、シャルル。おそらくこんな食事は初めてだろうが、遠慮せずに食べてくれ」
私は席に座り、料理を前にすると今一度圧倒されてしまった。
フロベールの家でも贅沢を尽くした料理を作らせてはいたが、今私の目の前に供されている料理はそれらのものとは幾分か格が違った。
とりあえず私は久しぶりに手にしたナイフとフォークを手にして、一番手近にあった肉を切り分け、口に運んだ。
上手かった。今までフロベールの家で食べたものよりも格段に美味であった。
「どうだ? 美味いか?」
「あ、ああ……美味い」
「はっはっは! そうだろうな! どんどん食べろよ!」
そう言われると、それまでの旅でまともな食事というものをしたことがなかったため、私はまるで飲み込むように食事をしてしまった。
しかし、一方のアルドンサも同様だったらしく、令嬢とは思えないほどの豪快な食べ方をしていた。
「お、お嬢様……もう少しゆっくり食べた方がよろしいのではないでしょうか?」
「ん? ああ、すまん。だがな、これまでの旅ではまともなものが食べられなかったんだ。勘弁してくれ」
「なっ……お嬢様……大変な苦労をされたのですね……」
ソフィアが目に涙を貯めているのも気にせずに、アルドンサと私はそれからひたすら目の前に供された食事を平らげてしまった。
そして、一通り食事が終わると、メイド達によって食器が片付けられていった。
ソフィア以外のメイド達は片付けが終わるとそそくさと食堂から退室していった。
「ふぅ……やれやれ。久しぶりの我が家の食事ということで、少々食べ過ぎてしまったな……」
少し苦しそうにしながらアルドンサはそう言った。
「あ、ああ……いや、本当に美味しかったよ」
私も私で、あまりにも食べ過ぎて、腹が産気づく直前の妊婦のようである。
「……なぁ。シャルル」
「ん? どうした。アルドンサ」
「お前、結局父上と何を話していたんだ?」
いつかは聞いてくると思っていたが、いざその質問をされると、私としても少し戸惑うものがあった。
「公爵と何を話していたか、って……いや、そんな大したことじゃないさ」
「嘘を言うな。お前の様子を見ていれば何かしら父上が何かお前に言ってきたってことくらいわかるぞ。これでも、マリアンナほどではなくともお前と共に旅をしてきたのだからな」
どうやら、アルドンサにもお見通しのようである。
というか、言わないでいられるわけもないのだから、ここは大人しく正直に言うしかないだろう。
「……その……公爵には、君との結婚について聞かれた」
「……何? 結婚、だと?」
アルドンサの顔が険しくなった。
「あ……ああ。いや、まぁ、公爵にとって私なんていうのは、どこの馬の骨とも知れない存在なのだから、そんなヤツを君が連れてきたことに対して不快感を覚えないわけもないとは思うのだが……」
「まったくです。一体全体どうしてお嬢様はアナタのような方を――」
「ソフィア」
私の言葉に対し憤然と意見を述べたソフィアをアルドンサは制し、私のことを血が繋がっていないとは思えない公爵と良く似た、まっすぐ鋭い目つきで見てきた。
「で、お前はなんて答えたんだ?」
「え……ああ、その……だな……わからない、と言った」
「何? わからない?」
アルドンサの顔が怪訝そうに歪む。
「……いや、その……はっきり言ってしまえば、私は君のことは好きだ」
私がそういうと、アルドンサはそれまでの怪訝そうな顔から一転して目を丸くして私を見る。
「なっ……! 何をおっしゃっていますの!? アナタは!」
と、隣に立っていたソフィアが顔を真っ赤にして私に食って掛かってきた。
「え? な、なんだ? 私、何か変なこと言ったか?」
「お、お嬢様! こ、こんな唐変僕の言葉なんぞ鵜呑みにしてはいけませんよ? ねぇ、お嬢様……お嬢様?」
と、いきなりアルドンサは立ち上がった。
「ど、どうした? アルドンサ?」
すると、私の方に振り替えりもせずに、そのまま小走りで食堂を出て行ってしまった。
「お、お嬢様! お待ち下さい!」
それに続いて、ソフィアも慌ててアルドンサの後を追う。
一瞬、私の方に振り返り、キッと私をにらみつけ、その後、再びアルドンサの後を追おうとして盛大にコケていた。
私は一人広大な食堂にたった一人取り残される。
「……どうやら、また余計なことを言ってしまったようだな」




