カルリオン家の人々 4
部屋に入った私とアルドンサを待っていたのは、なんだか酷く憔悴した様子のカルリオン公爵だった。
「ああ、アルドンサ。それに……シャルル君、だね?」
「あ、はい。始めまして。公爵」
「ああ、始めまして。いや、すまなかったね。先ほどは取り乱して。さぁ、椅子に座ってくれ」
私とアルドンサは勧められるままに椅子に座り、公爵と長いテーブルを挟んで向かい合う形となった。
「それで……そうだな。うん。アルドンサ。旅はどうだった?」
「え? 旅、ですか?」
「ああ。この際、家出したことは咎めない。可愛い子には旅をさせろと、ブランダの言葉にもあるしな。で、アルドンサ。どんなことが旅であったんだ?」
てっきり私とアルドンサのことを聞いてくると思っていた矢先、まったくの見当外れだったので、私もアルドンサも思わず顔を見合わせてしまった。
「アルドンサ? どうした?」
「え? あ、ああ。すいません。父上。旅、ですか……」
アルドンサがもう一度困ったように私に顔を向けてくる。
そこで、私はアルドンサの耳元に口を近づけて「革命都市」とだけ囁いた。
「あ……そ、そうです! 父上! 革命です! 革命なのです!」
いきなり血相を変えてそう言い出したアルドンサに、サンソンも公爵も目を丸くしてしまった。
「あ、アルドンサ……一体どうしたの? そんな革命だなんて物騒だよ?」
「父上! 物騒などと悠長なことを言っている場合ではないのです! この国には既に革命を目論む集団が存在しているのです!」
アルドンサの様子に、さすがに公爵もサンソンも異変を感じ取ったらしい。
二人は顔を見合わせた後で、公爵が咳払いをしてアルドンサを見る。
「アルドンサ。順を追って話してくれないか? 一体どういうことなんだ?」
「はい。そもそも、この国には――」
そこからはアルドンサが私と出会ってからの出来事、つまりマリアンナという断罪人を通して、この国に貴族の知らない断罪人という職業が存在すること、そして、革命都市という穏やかならぬ存在がこの街の南西に存在しているということをアルドンサが滔々と述べた。
公爵もサンソンも渋い顔をしてアルドンサを見ていたが、アルドンサが決して冗談で言っているのではないということがわかると、一層険しい顔をになっていった。
「うぬぬぬ……サンソン。どうだ?」
「そうですね……私めには、いささか理解できかねることでございます」
それはそうだろう。
天上の存在の貴族にとっては、断罪人も革命都市もあまりにも無縁すぎる言葉だ。
それは私自身が身を以て良く分かっている。
「父上! ことは一刻を急ぐのです! このことを国王陛下にお伝えせねば、逆賊が今にもこの王都に攻め込んでくるかもしれないのですよ!?」
「アルドンサ……はぁ……いや。私はお前の言っていることを信じる。理解はできないが信じよう。だが、国王陛下がお前の言うことを簡単に理解し、信じてくださるかどうか、私にはちょっと想像できない」
公爵のその言葉に、アルドンサも詰まってしまった。
ブランダ王国の国王……父はどうであったか知らないが、私は人生において一度も会ったことがない。
どんな人物であるかもわからないが、おそらく、貴族同様、断罪人や革命都市など想像の産物としてしか扱ってくれないだろう。
だとすると、公爵の言うことはもっともなのである。
「そ、それでも……とりあえずは陛下に報告すべきだと思います」
アルドンサのきっぱりとした物言いに、公爵もさすがにダメだとはいえないようだった。
小さく溜息を吐いて執事サンソンに耳打ちする。
サンソンは小さく首を縦に振ると、そのまま部屋を出て行った。
「とりあえず、謁見の申請だけはしておこう。ただ、お前も陛下にはあったことあるからわかると思うが――」
「ええ。わかっています」
二人の言葉には何かひっかかるものがあった。
国王というのは、そんなにも問題のある人物なのだろうか?
「よし……はぁ。まったく。楽しい旅のことを聞こうとしたらとんだ知らせを聞くことになってしまったな」
「申し訳ございません。父上」
「ああ。いいんだよ。アルドンサ。そうだな……アルドンサ。せっかくだから、その服着替えてきたらどうだ?」
「え? 服、ですか?」
アルドンサはそういわれて自身が着ている、おおよそ貴族の令嬢と思えないような軽装を見返す。
「ああ。部屋に戻ってソフィアにドレスの着替えでも手伝ってもらえ」
「しかし、父上……」
「アルドンサ。この父に、久しぶりに可愛いお前のドレス姿を見せてくれないか?」
アルドンサは納得できないようだったが、渋々席を立った。
私もそれに続く。
「ああ、シャルル君」
が、その瞬間、公爵が私を呼び止めた。
「……な、なんでしょうか?」
「君は、残ってくれ」
私はアルドンサを見る。
私は突然公爵がアルドンサの服装について言い出した理由がどういうことか理解した。
「あ……すまん。シャルル。しばらく父上の相手をしてくれ」
「え、ちょ……あ、アルドンサ?」
そのままアルドンサは扉をあけて部屋の外に出て行ってしまった。
私はゆっくりと振り返る。
「さて……ゆっくり、男同士、話合おうじゃないか、シャルル君?」
歴戦の勇者に相応しい、鋭い眼光が、がっしりと私を捉えていたのだった。




