カルリオン家の人々 3
カルリオン公爵に言われるまま、私とアルドンサは部屋の前で待機していた。
しかし、いくら待っても部屋の中からお呼びはかからない。
私はいよいよ不安になってきた。
「……アルドンサ?」
「ん? どうした?」
「その……公爵。大丈夫なのか?」
「そうだな……さすがにちょっと遅いな」
アルドンサもいい加減心配になってきたらしい。
そんな折だった。
「お嬢様ぁ~!」
と、廊下の向こうからアルドンサの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
見ると、一人のメイドが、長いスカートをもろともせずに、こちらに走ってくるではないか。
「あ、あれは誰だ?」
「ん? おお! ソフィア……ソフィアじゃないか!」
アルドンサもそのメイドの姿を認めると、そのまま駆け寄っていった。
と、そんな様子を見ていると、いきなりメイドは廊下の真ん中で思いっきり、コケた。
「あ~……ソフィア、大丈夫か?」
「え、ええ……す、すいません。お嬢様」
アルドンサに手を差し伸べられて、メイドは立ち上がった。
「まったく。お前は相変らずドジだな」
「すいません、お嬢様……あれ? あの方は?」
と、立ち上がったメイドは私の姿を認めると、不思議そうに首を傾げる。
「ああ。えっとだな……シャルル。こっちはソフィアだ」
アルドンサが彼女を私にそういって紹介してきた。
ソフィアと紹介された彼女は、背格好から判断するにアルドンサよりも少し年上のようだ。
しかしどうにもそのおっとりとした雰囲気のせいで幼く見える。
そんな彼女は私に向かって優しくニッコリと微笑んだ。
「はじめまして。ワタクシ、カルリオン家のメイド長をやっております、ソフィアと申します」
「あ……こちらこそ。私はシャルル……その……」
「私の将来の旦那になる男だ」
と、アルドンサが先を続けた。
すると、狐につままれたような顔でソフィアはアルドンサと私を交互に見る。
「……え? お、お嬢様……その……今なんと?」
「だから、言っただろう? 私の将来の旦那になる男だ、と」
すると、ソフィアは顔面蒼白になって、いきなりその場に膝をついてしまった。
「そ、そんな……お嬢様が……結婚?」
既視感のある光景に私は思わず何も言えなくなってしまった。
「……まぁ、そうなるな」
しかし、今度はアルドンサも少し困ったような顔をしていた。
「そんなぁ! お嬢様! 約束したじゃないですか! お嬢様はずっとお屋敷で私と二人で一緒に暮らすって!」
「あ……い、いや、それはだな……」
「それに! 今回だって勝手にお屋敷を飛びだして……どうして私も連れて行ってくれなかったのです!? お嬢様と一緒なら私、どこにでも行きますのに……」
すると、消沈していたメイド長はいきなり私の方に顔を向けると、それまでのおっとりとした雰囲気から一転して、キッと私をにらみつけた。
「分かりましたよ……アナタが、お嬢様をたぶらかしたんですね……!」
「え? わ、私が?」
「ええ、そうです! お嬢様が家出するなんてよっぽどのことがあったに違いありません! アナタ! お嬢様に何をしたのですか!?」
「え……わ、私は……」
私はアルドンサに助けをもとるように顔を向ける。
しかし、なぜか嬉しそうにアルドンサはニンマリと微笑んだ。
嫌な予感がした。
「接吻、は、したよな?」
「なっ……あ、アルドンサ……!」
私が戸惑っていると、アルドンサは聞こえよがしにそう言った。
「なんだ? ホントのことだろう?」
「あ、いや……それは、そうなんだが……」
と、ソフィアを見ると顔を下に向け、小刻みにワナワナと震えている。
「あ……い、ソフィア。そ、その……わ、私は……」
「……なんて破廉恥な! いいですか! お嬢様はこのカルリオン家の神聖な一人娘様なんですよ!? アナタのようなどこの馬の骨とも知れない人が勝手に手を出していい人ではないのです!」
相当酷いことを言われたが、あまりの剣幕圧され私は反論することができなかった。
「あ……す、すまない」
「謝って済む問題ではありません! もう……」
そういうとソフィアは不機嫌そうに私に背を向け、そのまま今来た廊下を足早に戻っていった。
しかし、再び廊下の真ん中で盛大にコケる。
「はっはっは! ソフィアも相変らずだな」
「アルドンサ……君ねぇ……しかし、彼女がこの家のメイドを束ねているのか?」
「ああ。あの通り、どこか抜けているが、仕事はとりあえず出来るヤツだ。まぁ、昔は私の遊び相手をしてくれてな。私にとってはこの家で唯一の友が、アイツだった」
「なるほど。道理で君が無断で家出して怒っているわけか」
「それもあるんだが……どうにもアイツも、父上同様私を可愛がりすぎるというか……私ももう一人前なのだ。少しはほうっておいて欲しいものだ」
そういうアルドンサだが、今のソフィアの様子から見るに、可愛がる以上の何かがあるように見えなくもなかったわけだが。
「お嬢様。シャルル様」
と、背後からしわがれた声が聞こえてきた。
振り返ると、サンソンの慇懃な瞳が、私とアルドンサを見ていた。
「ああ。サンソン。どうだ? 父上は落ち着いたか?」
「はい。お嬢様とシャルル様とお話したいそうです」
「わかった。シャルル。では、部屋に戻ろう」
「あ……ああ。そうだな」
アルドンサは何事もなかったように部屋に戻って行く。
私としてはあまり気乗りしなかったが、かといってここで部屋に戻らないわけにもいかない。
ここは、覚悟を決めていこう……




