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いにしえの決闘場 5

 そうこうしていると、どうやら全ての兵士同士の戦いが終わったようだった。


「さて、我々も競技場へと降りて行きますか」


 エリックがそういうので、私もそれに続いた。

 闘技場に降りると、見事に勝者と敗者で固まっている位置が違っていた。

 唯一アルドンサだけが、どちらにも属さずに離れた位置に立っている。


「アルドンサ!」


 私は思わず駆け寄ってしまった。


「大丈夫だったか? アルドンサ」

「……ああ。この恥ずかしい格好をお前に見られていること以外はな」


 アルドンサはそう言って私をきつく睨んできた。

 やはり、問題はそこだけだったらしい。


「あ、あはは……いや、しかし、すごかった。さすがだな」

「ふんっ。お世辞を言っても、こんな恥ずかしい格好をさせられたツケはいずれ払ってもらうからな」


 アルドンサは完全に不機嫌だった。

 せっかく無事に終わったというのに私はかなり憂鬱な気分になってきた。


「いやぁ! お疲れさま!」


 と、エリックが場違いに陽気な声で兵士全員に話しかけた。


「勝った人もさ、負けた人もご苦労さん。で、まぁ、検査の結果というかなんというか、別に全員最初から合格だから」


 その言葉にその場にいた全員が不可解な顔をしていた。


「ああ。だからね。この試験は革命軍の序列分けだったのよ。勝者の人には後方部隊。負けた人に先行部隊に入ってもらうから。よろしくね」

「ちょ、ちょっと待てよ!」


 と、エリックの言葉に対し割って入ってきたのは、先程アルドンサと対決した大男だった。


「ん? 何?」

「納得いかねぇ! さっきのは……たまたま油断しただけだ! なのに、先行部隊ってことは……あれだろ? 先に死ねって言いたいんだろ?」


 先行部隊……突撃部隊ということなのだろうか。

 つまり、この検査で勝った者は大事な戦力として温存し、負けた者は突撃させるというわけか。


「あぁ? んなこと言ってねぇよ。別に先行部隊だからって死ぬわけじゃないんだからさ。変わんねぇって。先行部隊も後方部隊も」

「嘘を付くな! どうせ、後方部隊の方がこの先の革命都市でも扱いなんだろ?」


 すると、エリックは大男を鋭くにらみつけた。

 男は思わずすくみあがってしまったようだった。

 しかし、男とエリックの身長差は二倍以上ある。

 それなのに、男は急にエリックに睨まれると黙ってしまったのだ。


「あのよぉ。ぎゃーぎゃー喚いてないでよ。てめぇがなんで負けたか考えてみなよ。油断だろ? 仮に先行部隊と後方部隊の扱いが違うとして、そんな風に勝負で油断するヤツを優遇するような部隊にいれると思うのかよ?」

「そ、それは……」

「わかったらそれ以上喋るな。いいな?」


 男は何も言わずにそのまま下を向いたのだった。

 やはり、エリックという男には何かある……私がそう確信した瞬間だった。


「さて。じゃあ、諸君。革命都市はこの先の道を真っ直ぐ行ったところにある。都市の入口の門番に『我は革命戦士なり』と言ってくれ。それで中へ入れるから。都市に入った後は、その後で係のものが面倒見てくれる。それじゃあ、また後で会おう」


 エリックがそういうと、兵士たちはぞろぞろと闘技場の出口へと向かっていった。

 ようやく、これで決闘もモドキが終わったのだ、と私は思わず安堵してしまった。


「おい、シャルル。どうした?」

「え? ああ。いや、ようやく終わったなぁ、って思って」

「ふっ。お前は別に見ていただけだろう?」

「そうなんだが……いや、まぁ、アルドンサに怪我とかがなくて本当によかった」


 するとアルドンサは顔を紅くして私のことを見る。


「お、お前というヤツは……まったく、もう……」

「え? 私、今なんか変なこと言ったか?」

「……言ってない。だけど……あー! もういいから」


 おかしな態度のアルドンサに戸惑いながらも、これでようやく終わったと改めて安心していた。


「ちょっとお二人さん」


 と、そこへエリックが話しかけてきた。


「ああ、エリック。私達も革命都市へ向かえばいいのだろう?」

「ああ。そうだ。けど、お二人さんは特別だ。俺に付いてきな」

「え? 特別?」

「ああ。この先に馬車を用意させている。それで都市まで行こう」


 私とアルドンサは顔を見合わせた。


「なぁに。奥さんの素晴らしい剣の技と、旦那さんの奥さんへの愛に敬意を表して、ね」

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