月の下で 1
それからしばらく、マリアンナの断罪は行われなかった。
マリアンナは言葉通り、スパニ村から出て辿り着いた次の街で私に服を買わせた。
ボロボロになっていたとはいえ、私が貴族であったことを証明してくれていた唯一の物は、ここにきて消滅してしまい、いよいよ私は貴族という身分から完全に切り離されてしまった。
「一応、これで宿無しにはみられないか」
服を買った後、マリアンナはその蒼い瞳で私のことを眺めていた。
「あのなぁ……私はこれでも貴族だぞ。普通の服を着ても、その溢れだす品格は抑えられないわけで……」
ただ、自分でそう言っていて悲しくなってしまった。
どこの世界に、こんな小さな少女の荷物を持たされている貴族がいるのだ?
どこからどうみたって、私はただの下男か、奴隷にしか見えないであろうと思ったからである。
「さて、次の目的地までは、少しかかるな」
「少しって、どれくらいだ?」
「歩いて五日だな」
マリアンナは無表情で残酷な事実を私に告げた。
歩いて五日となると、今考えれば、大したことのないように思える。
しかし、その当時の私からしてみれば、昼夜を通して歩みを進めるなど、人間の所業ではなく、そんなことをすれば確実に死んでしまうと考えていた。
「ふ、ふざけるな! そんなに歩けるわけないだろう!」
「じゃあ、お前は置いて行く。勝手にしろ」
「なっ……! ほ、他にも方法はあるだろ? 馬車に乗せてもらうとか」
すると、マリアンナは何か言いたそうに私を見た。
もちろん、私は何かおかしなことを言ったつもりは毛頭なかった。
「お前、断罪人が馬車に乗れると思っているのか?」
「は、はぁ? 乗れないのか?」
「死を司る断罪人を乗せて見ろ。文字通り、死を運ぶ馬車だぞ。そんなもの、縁起が悪いだろ。誰も乗せてくれない」
マリアンナの言っていることはわからなくはなかった。
しかし、そうなると、本当に五日間歩いていくことになってしまう。
私はとてもそんなことはできないと思ったし、できない自信もあった。
かといって、ダダをこねてマリアンナから置いてけぼりにされれば、たまったものではない。
「まぁ、お前が死んだら土に埋めてやるくらいのことはしてやろう」
冗談のつもりなのかわからなかったが、マリアンナはそう言った。
「ふ、ふざけるな! し、死ぬわけないだろう! この私が!」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
こうして、死の行軍は、私の意思を無視して始まってしまったのだった。




