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ショタコンと腐女子のシリーズ  作者: 陽田城寺
その後のエピローグ集
73/84

悲愛

 これはまだ二年の時の話、テストで惨敗した俺達に待っていたのは夏休みである。

 あるんだったら、是非とも海やプールに行ってイチャイチャした話もしたいのだが、その前に俺達を待っていたのは、三年生の部活引退である。

「さて、名目の上では三年生は今日で引退になるわけだな」

 そういうキヨは、これからもここに来る気満々な文句を言い出したが、それでも不満そうな表情をしている。

「受験勉強とかしなくちゃいけませんしね。これからここは俺と藤で盛り上げていくんで」

「いやいや、それには及ばんよ。部長は名目上藤くんに任せるが、これからも私が指揮を執っていく」

 相変わらず、この人とは最後まで相容れることがなかった。

 どころか彼女の噂なんてキヨの家族にしか通じてないんじゃないの? ってぐらい聞かれなかった。

 何でも生徒会とかでは既に俺とキヨが犬猿の仲であることを知られているらしく、キヨは普段から俺をディスっているらしい。

 不名誉な知名度の上げ方に俺は自分を恥ずかしく思う。でも原因はあいつである。

「……ところで藤くん、この後少し時間いいかな?」

「ここじゃ駄目ですか?」

 藤が即座に尋ね返すと、キヨは静かに頷く。

「大事な話なんだ」

「話の内容によりますけど、私って告白は派手な方が好きなんですよ。例えばほら、ゲイナーくらい」

 藤の例えはキヨに通じるのだろうか? あのさ、往年の名作だったとしても通じるとは限らないんだよ、藤さん。

「……そうだな、この場にいる者の半分はもう分かっているわけだ」

 クロと読書ちゃんは知っているのだろうか? そういや、キヨが俺を陥れようとしたときにクロが来たし、読書ちゃんはコンビニの美人店員をなんとか、って話があったから、知っているかも。

 キヨは、ふぅー、と深く息を吐いて、藤を見据えて言った。

「この告白が、どれだけ華美な言葉に飾られて人の心を奪ったとしても、成功しないと分かったうえで言わせてもらう」

 そんな覚悟を決めたキヨの姿は、やはり美しかった。

 凛とした表情で、瞳をまっすぐ藤に向けて、堂々と立って、白い喉がこくりと唸り、赤い口から放たれた。

「私の人生の中で、誰よりも、何よりも、君が私を夢中にさせてくれた。君が私の全てだ。私は君だけを愛すると約束する。だから君も、私だけを愛してくれ」

 涼しげな、クールなキヨの言葉は何よりも熱い。

 だからこそ虚しい。

「……悩みますね」

 そんな藤の発言は全く予想外だった。

「悩むの!? そこは俺のことを大切にしてくれるんじゃ……」

「先輩と一緒でもなかなか波乱万丈で楽しそうな人生になりそうだからね、悩むのも仕方ない」

 そんな風に藤はにこにこと言っている。あんまりだ。

 けど結局藤は真剣な顔でキヨの方を見た。

「でも、やっぱりお断りしますね。伊津男くんと積み上げてきたものが違いますから」

 藤の勇ましい言葉に、俺はもう軽口すら叩けなくなった。

 ただ、キヨは満足そうに笑みを浮かべた。

「ああ、そうかもしれんな」

 静かな間を噛みしめるように、目を閉じて、キヨの呼吸だけが聞こえる中で、またキヨは俺の方を見た。

「彼女を幸せにしないと、許さないぞ?」

「当然」

 短い言葉を何とか言うと、キヨの頬がわななき始めた。

 へたれた笑顔みたいな表情の目元がどんどん歪んでいく。

「……駄目だな、ちょっと失礼」

 それだけ短く吐き捨てると、キヨは走って生徒会室を出た。

 気まずい沈黙の中で血路を開いたのはドブだった。

「泣いていた……」

「ですねぇ」

 藤の言葉も態度も能天気で、俺の心臓がきゅっとなった。

 キヨは泣いていた。声も出さず、その姿を見せまいとして駆け出した。

 一番彼女を女として意識したかもしれない。あまりに普段犬猿の仲で争っているために、あんな弱った姿を見せられると、素直に気の毒に思う。

「……そか、部長はやっぱそういうアレだったんだな、俺もそこまでは知らなかった」

 クロがしんみりと呟くのを確認して、俺は何の気なしにヒラちゃんの方を見た。

「何か?」

「あ、いえ、別に……」

 ちょっとリアクションが見たかったりもしたのだが、さすがにそうはしないのがヒラちゃんである。クールが取り柄。

 結局、この日キヨは戻ってこず、それ以来キヨがここに来ることもまばらになった。

 引退したから当然だし、俺とはそもそも会話をすることもなく、そもそもキヨは部室では読書なり執筆なり作業なりをしていたから静かなものだった。

 それでも時折、彼女は寂しそうな顔を見せるのであった。

 そして俺は恋愛とは何かを深く考えるようになった。

 人は子をなすとか、三大欲求に性欲があるなり、異性、もしくは自分を昂ぶらせてくれる存在を、それこそ自分ほど大切に思うのだろう。

 でもそんな論理的なものではないとも思う。時に命を投げ打ってでも伝える愛があるように、それは尊く、美しく、恐ろしくもある、掛け替えのないもの。

 妙にセンチなことを考えるのは、キヨが寂しげな表情ばかり見せるようになったからなのだろう。

 願わくは、彼女が進学して新たな恋を見つけられるように。


本来キヨは別作品で出そうとしてたクラス委員キャラなんで、もしかしたらまた見る機会があるかもしれません。

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