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ショタコンと腐女子のシリーズ  作者: 陽田城寺
暗黒破滅のテスト編
67/84

飯野伊津男の長い土曜日・正午付近

 晴れやかな土曜日!

 文芸部の女子二人が何故か午前から家に来るという奇跡的な出来事……。

 冷静に考えれば、あの二人はこないだ藤と一緒に我が家から帰ったんだった。

 なら藤が何かしらの策を講じてあの二人を呼び寄せたと考える方が自然な気がする。

 しかし俺をハーレムっぽくしても意味ないでしょ。何を考えているんでしょうね、あの人は。

 読書ちゃんもキヨも俺に対してほどほど優しめな態度だったし、家の中に平静も戻ったし、オケオケオッケーって感じだ。

 勉強できなかったのが唯一の汚点だが、それは午後のテンカイによる。ナイトも頑張って明日のモーニングもナイトも頑張ればテストのテンカイも良くなるだろう。

 ぶっ続けで勉強するために早めの昼食でも……いや、昨日捨てたゴミの分の部屋を整理しよう。



 十二時前に、それは訪れた。

 この人が二人三人死んでそうな棺桶のような家、いわば棺のチャイムだ。

「誰だよ畜生! 来客だらけな日だな!」

 そう言いながらも俺は笑顔を隠せないでいる。何故ならあの二人が来た後ならば、もう来るのは一人に決まってるから。

 意気揚々と擦りガラス格子の我が家の玄関を見ると、明らかに藤じゃないごっつい男のシルエットがあった。地獄の底まで覗き込んだ気分だ。俺の中の何かは朽ちたよ。

 俺は無言で玄関の鍵を閉めた。

 直後鳴り響く玄関を叩く音。その音はちょっと母親とか的に色々駄目なので、結局開けることになった。

「はいはいはい、なんだよもう!」

「入るぞ」

 海棠櫂斗は扉を叩いた後と思えないほど、普段の仏頂面を見せてきた。

 服装はだいぶラフ……というか部屋着も同然だ。薄い白シャツ一枚に薄い黄土色の短パン、腕と脚がふとましいですね。

「なんでお前なんだよ! 藤は!?」

「何を言っている?」

 つまるところ、こいつは藤の諫言とかもなく、いきなり家に来たらしい。なにこいつ?

「お前はなんで来たんだ? 何しに?」

「話をしにきた。昨日、陸也と二人で帰ったんだろ?」

 それか! 栗林と俺を二人きりにして、あいつに改めて謝らせるっていう策をこいつはこいつで立てていたんだ。

 世の中の軍師レベルが高すぎる。そりゃマキャヴェリも君主論だの権謀術策だの言うわ。チェーザレェ……。

「で、なにさ」

「どうだった?」

 相変わらず口数は少ないくせして、核心ばかり聞きたがる男だ。

 まあコミュニケーション少なくて済むし、悪くはない。

「許してやらんでもないかな。ま、それはそれ、これはこれで、今後の関係はテストの点数次第だけどな」

 許したと思うな、ってことを暗に示しているような言葉だ。

 でも海棠はそれで頷いた。

「二時ごろから栗林と牛山も呼んだ。勉強会の予定だ」

「お前な、俺の意志とか意見ってのは無視なのかよ。俺にも予定ってもんが……」

「ないだろ」

 正論吐きマシーンと化した海棠は俺のことを知りつくした風に言う。反論できねえ。

「てかお前はなんで先に来たの?」

「お前の状況次第で、勉強会をそのまま開催するかどうか決めるつもりだった。これなら大丈夫そうだな」

「お前なりに考えてんだな。しかし二時なんて中途半端な時間に……」

「どうせ昼まで寝てると言って納得させた」

「もし本当にそうだったら……」

「お前はあの……プラグインとかのあれの時から早起きだったからな。朝に強いことは知っている」

 マジで知り尽くされているじゃねえか……むしろ怖い。

「……ともかく上がるんだろ。で、二時間何すんの?」

「久しぶりにおばさんの飯でも貰おうか」

「図々しい上にふてぶてしいな。だがそれなら無理だ、飯は俺が作っているからな」

「……なにぃ?」

 初めて海棠の表情が崩れた。

 奇策で後ろを突かれた武将のような反応に思わず苦笑してしまった。

「ま、そういうわけだから帰って飯食いな。俺は俺で……」

「俺の分も作れよ」

「嫌だよ」

「作れよ」

「嫌だよ」

「作……」

「不毛な争いはやめよう! お前が何を言おうと俺はお前の分まで飯を作る気はないし、そもそも……」

 言葉の途中で再び鳴るチャイム。俺の中の悲しい歌が行くな行くなと呼びかけるも、それでも不思議と、死体みたいに玄関まで歩いていった。

 途中の廊下で、彼女にバッタリと出会った。なんで家の人が来る前に勝手に入ってきてるんですか。

「うぃっす」

 どこかの妖怪お化け執事のように挨拶する彼女は、ようやく俺の待望の彼女。

「藤さんチッスチッス! 本日は何の用でございましょうか!?」

 白いレースでおしとやかな雰囲気のドレスみたいな服装で、もう深窓の令嬢のような雰囲気がありありと出てて、挨拶と噛みあわない。

「今日は外に用事があったんだけど、海棠くんがここに来るのが見えたからさ。邪魔だった? 邪魔だったら邪魔せずに帰るけど邪魔だったかな? 邪魔だったら挨拶も済んだしご飯も食べてないから帰るけど帰っていい?」

 どんだけ帰りたいんだよ!?

「いや待って! ご飯作るから食べてってよ! 俺の主夫力を、男子力を見せてやりますよ!」

「三人分、だな」

 後ろから海棠の声が! と俺ははっと振り返ると、また後ろから声が聞こえた。

「三人分、だね」

 再び振り返った。藤、お前もか……。

「……母さんの分合わせて、四人分な」



 男の料理とは、即ち暴力である。

 何事も荒々しく行うのだ。まず野菜を乱雑に切って焼く。ハムとかも乱雑に切って焼く。

 ご飯も切る必要ないけど乱雑に切って焼く……前に、溶いた卵と混ぜておくことでチャーハンがパラパラするのでそうしておく。これ唯一の乙男(オトメン)力。

 男の料理、即ち適当にできるチャーハンである。炒飯とも焼き飯ともいう。

「ほら」

 昼ご飯はこれに慣れ親しんだ。しかし四人分は非常に多い。

 なんてったって休日。普段は弁当箱にこれを突っ込むために、楽にできて栄養もあれだし安上がりだし保存もするしで便利だ。

 海棠と藤と、俺と母さんと、が向かい合って、一斉にスプーンを動かす。

「うまいな」

「普通にね」

 海棠のうまいは、上手いなのか美味いなのか分からない。しかし褒めているに違いない。

 一方の藤の意見の方が正直っぽいね。しかし悪くないなら俺の勝ちみたいなもんだ。

「やればできるもんだろ。もうチャーハンは余裕だ」

「お前は炒めるしか能がないからな」

「じゃあ食うなよ」

「伊津男くん、海棠くんはツンデレなのよ。たぶん私がいなかったら凄く褒めると思う」

 それはそれで藤しか喜びません。俺は嬉しくない。

 とにもかくにも、三十分経たずして食事が終わったくらいだ。

 母さんが海棠をオヤジと、藤を姉貴と勘違いしていると何となく察したが、逆にその方が気持ちを安定させると思うから放置することにした。

「それじゃ私はそろそろ帰るね。その……二人の邪魔しちゃ、悪いし」

「藤、別に邪魔なことなんてないよ。いやむしろ邪魔も何もないから」

「でも! 二人きりの方がこう……私的に捗るっていうか!」

「すぐにゲッツーさんと陸也も来るから!」

「えー……」

 藤は心底ガッカリした風に呟く。えーって言われてもねぇ。

 が、なんとか五人で勉強する流れができつつあるようだ。

 ……あれ?



 チャーハンタイムが終了してざっくり十二時半、早速大きな問題が発覚した。

 藤は勉強しようと思ってなかったから、手ぶらということだ。

「じゃ、私は教科書ないから二人でヌプヌプやっといて」

 藤が早速移動し始めたところ、俺は足を掴んではいつくばってでも止めた。

「あげる! もう教科書とか全部あげちゃうから!」

「い、いきなり必死過ぎるぞ……」

 海棠すら軽く引いていた。無表情の海棠の顔を引きつらせるとは、俺も凄いな。

「どうしようかな?」

 海棠がそこまで俺を心配しているのに、藤は俺に情けをかけるかどうかを悩んですらいる。

「お願いします、何でもしますから」

「ん、今何でもするってえええええええええマジで!? それってマジでいいのよね!?」

 食いつくとは思ったが食いつき方が想像を絶していたために、心臓を鷲掴みにされたような恐怖を感じた。やっぱり何でもするなんて軽はずみに言っちゃいけないんだよ。知ってたよ。

「ね、ねえ、私変だ、なんか胸がどきどきしてきちゃったよ、ちょ、ちょっと深呼吸するね」

 藤は大層色っぽく、艶めいた目で呟く。なにこれ可愛い。

 すーっと、息を吸う音が聞こえる。僅かに揺れる髪がふわりと動く、絵になっている。

 俺はこの人を好きになったのだとありありと思い知らされる。

 忘れてたけど、藤は普通に美少女なんだ。

「じゃまず、服脱いでくれるかな……」

「そんな! 一体何をする気なんですか!?」

「いいから脱げよ! おらおら!」

「きゃ、きゃー!」

 俺と藤は、なんでだろうか、同じタイミングで海棠をちらっと見た。

 海棠はちょっと困った風に顔を反らした。

「……出ていこうか?」

「ギャフゥ! ううん、そのピュアな反応で、もうお腹いっぱいです」

 藤の聞いたことのない叫びを聞いて、ようやく俺は解放された。

 無性に恥ずかしくて辛い。なんだよこの空気は。

「それじゃ、伊津男くんのノートとか教科書借りるね」

「お、おう……」

 俺はしばらく、一人でぼーっと休んだ。


 ……そして、俺は自分の勉強道具を失ってしまったことに気付くのが遅れたのだ。


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