↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショタコンと腐女子のシリーズ  作者: 陽田城寺
激闘・水泳部編!
44/84

ちょっとやそっとじゃ揺るがない

 さて帰宅途中の道にあるコンビニ。

 いい加減夕焼けは赤く照り、ともすれば目を開くことすらままならないほど眩しくなったが、それでも光に向かい合わねばならない。

 立ち読みのためである。

 毎週木曜に入荷するゲーム雑誌ファミ痛、これを読まねば俺の月曜は始まらない。

 コンビニに置かれる木曜は部活が休みの日、ならその日に読むと普通は思う。

 だが、安定して木曜が同じ時間に帰れるという現実、もっと有効活用できる。

 毎週木曜は、マンション下の公園でけんとくん(11歳)遊ぶ約束をしているのである。

 久しぶりのショタネタがまさか三次とは誰も思うまい。しかも現実的にも法的にもセーフかアウトか微妙なやつ。

 しかし最近は友達を紹介してくれるだの、一緒にデュエルしようだの、どんどん仲を深くしている。その話はおいおいするか、とこしえに隠すかのどちらかである。

 ともかく今日はファミ痛を読んで帰るというだけ。

 でも本当に読んで帰るだけならわざわざこんな話はしないわけで。


「あ、伊津男くんじゃん」

 いい加減声だけで誰かなんとなく分かる、しかし話し方がちょっと違うので返事に迷った。

「あたしあたし、西橋火奈よ」

「ああ、やっぱりそうでしたか。気付きませんでしたよ」

 渋々ファミ痛を閉じた。まだイナイレの記事見てる途中だったのに、と悔いは残る。

「名前が覚えられないのなら、飯野さん、って呼んでもいいのよ、うふふ」

 穏やかな笑顔を見せているが、全部偽りのものだと一目でわかる。

 たぶん、親父となんか話して、お淑やかにしろとか言われたんだろ。確かに普段の態度はその胸くらい淑やかにした方が良いと思う。

 と、ここでがちゃんと音が聞こえた。一体何事か、なんて野次馬精神は俺にはないので引き続きカナの顔を見据える。

「大変ですねー、あんまり無理はしない方がいいですよー」

 かっこ棒と書かれても仕方ないレベルの気の入らなさ。しかし彼女は全く気にせず、むしろ真面目な感じ。

「平気平気、これでも、私の人生は変わったの、全部が良い方向に……」

 どこか遠い目をして語るカナは、その瞬間だけは母にも似た老成した雰囲気があった。でも人と話すときは目を見て話した方が良いと思う。

 と、ここでどこかで見たことのある顔が出てきた。

 黒い髪の普通の男、うん普通、何の特徴もないね、誰だっけこいつ?

「お、おいお前! 一体どういうことだ!?」

 どういうことだ、と言われても……とカナも俺も小首を傾げた。

「て、てめぇ……許さねぇ!!」

 突然飛び掛ってきた男は俺の頬を殴り、そのまま馬乗りになった。

 いや、まるで落ち着いている風にしてるけど、本当に意味が分からなさ過ぎて夢かと思ったのだ。いや流石に夢は言いすぎかもしれない。

 まあその後、店員さんが騒いだりいろいろあったら俺の方が逃げ出したり、カナもそいつも叫んでたり、なんか怖かったけれど家まで逃げ帰った。

 家の事情的に目立つことを嫌った俺は家でのんびり過ごして、現実逃避と日々の楽しみを兼ね備えたアニメを観ようとダラダラしていた。

 で、あの男が藤の兄だと思い出したのだ! いやぁ納得、光ね、あいつも俺も全然家から出ないからすっかり忘れていた。仮にも義兄になるというのにね。

 で、だ。

 今がどんな状況かさっぱり分からないのだが、かなり勘違いされているに違いない。

 一体あの後どうなったのかさっぱり分からないのだが、ひとまず再び部屋で寝転がった。

 今は、とにかくアニメ見よう。ガンダムを作ってバトルする例のあれである、ガンダムファイトではない。

 まあ、光がカナを俺の彼女か何かと勘違いしたのであろうな。暴行事件まがいの出来事だから警察か何かに言うかもしれないが、何事もないかもしれない。

 そんだら、藤にそのこと報告するじゃん、俺が浮気してるってなるじゃん、藤がキヨに取られる、俺が死ぬ、終わる。

 あれあれー? なんかこれ、おかしいぞー?

 いや、ちょっと待って、これガンダムをビルドしてる場合じゃない、ましてやファイトなんて言ってらんない。あ、ガンダムファイトではないです、念のためもう一度。

 どうしようか、光が勘違いに気付く可能性もあるし、藤がそれを聞いて笑ってないないと判断する可能性もある。別にそれほどの問題ではないと感じる。

 でも万が一全部が悪い方に進めば、アイ! ウィル! ダーイ! つまり死ぬ。

 どうしようか、もう後十分くらいで始まっちゃうよ。藤の家まで行くのにそれより少しかかるくらいだから……電話? 番号知らないんだよね。携帯はあるけど。

「どうしたの? なんか悩んだ顔して」

「母さんには関係ないだろ!」

 出ました、母親に対して強気に出るタイプの男。屑と罵られたって構わないさ!

 チャイムが鳴った。

 ぴんぽーん、ぴんぽーん、と二度鳴るタイプの我が家のチャイムは、昔から嫌な感じのお客さんばかり入れてきたものだが……。

 まだ精神的にも肉体的にも大きな不安はない。明日雨が降るかも、そんな程度の不安。

 チャイムが鳴ったにも関わらず母、微動だにせず。気付かなかったのだろう。

 というわけで、俺が出る。

「はい、どなたでしょう?」

「藤です」

 ドッキュンハートが疼きました。わざわざ離れた家に直接来るなんて尋常じゃない。藤もアニメ見るだろうに。

「え、ええっと、なんでしょうか?」

「こっち来て」

 インターフォン越しに聞こえる藤の声は普段通り淑やかで、耳に心地よい声である。

 それでも、不思議と恐怖を感じざるをえなかった。


 引き戸、我が家のは擦りガラスにプラスチックっぽい木製の縦のみ格子で成り立っている変なドアなのだが、そのガラス越しに藤の陰が見える。

「あ、あの」

「こっちに来ないで!」

 扉に手をかけかけた俺の動きはビクンと止まる。そりゃね、藤らしくない怖さですもの。

 ガチャガチャと音が鳴ると扉が少し開く。

 そこから出たのは藤の両手だけ、藤の手の甲同士が合わさって、扉に挟まっている。

 で、何をしたかと思うと、まるで見えない力で閉じてしまう扉を開けるようにその手のままで扉を持っている。

 しかし誰も触っていない扉をどうしてそんな、必死に手の甲を当てながらも持っているのか。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 この病は間違いなく五レベル。鉈とか持ってきてそう。てかこの小ネタ、する意味ある?

 藤はその手をがちゃがちゃやってまるで自分の手が扉に、俺に押し潰されているようにしていたのだ。っていうか怖いんだけど俺、どうしたらいいの?

「ふ、藤?」

 手の動きは止まった。

「伊津男くん、この間、私に向かってちゃんと愛してるって言って、とか言ったよね?」

「また、そんな恥ずかしい話を持ち出さないで……」

「伊津男くんはいえるの? 私に向かって、目を見て、愛してるって」

 手だけの藤はなおも言う。怖い怖い、病んでるの? ヤンデレなの? 属性多すぎる!

 まあジョークもいちいち言ってられないし、ガンダムも始まるし、ささっと済まそう。

 言う事はなにも変わらないし、俺の気持ちも一切変わらないから。

 俺は、どうどうとドアを開いた。

「藤、俺は」

 藤は、すっごいにやにやしていた。

 厳密に言うと目は悪巧みをする狐のように狡猾で、口元も口角がかなり上がってにっこり、鼻歌でも歌ってんのってくらい平然と、いやむしろうきうきと、お花が飛ぶような陽気さを醸し出している。

 なんのこっちゃない、藤にハメられていたのだ。

「ぅおいぃ」

 怒ろうとしたけど、変な声が漏れるのみ。しかし藤はそれをちゃんと笑ってくれたのか、気まずそうに笑った。

「あ、あははは……」

 流石丹罰が悪いようだ。そりゃそうだ。真剣な話だと思って俺はここまで赴いたのに、意地悪が過ぎるだろう。

 一つ二つ文句でも言ってやろうと思うと、藤が先んじた。

「それで、俺は、なんなの?」

 答えは求めているのだろうか。でもまあここらでハッキリさせるのも悪くない。

 藤の表情はまださっきのまま、人を小ばかにしたような明るい笑顔のままだ、けれど、俺は俺の言葉でそれを変えてみせたい。

「俺は、世界で一番、何よりも誰よりも藤が好きだ。例えるのは難しいけど、空気より大地よりも大切だ。ないと生きていけない、というか藤がいないとマジで死ぬ」

「重い重い、怖いよ、伊津男くん」

 藤は笑ったままだった。あいも変わらず、楽しそうに。

 ……なんか少し泣きそうです。真面目に受け答えしてくれているのだろうか?

「ま、その度胸に免じて今回の件は許してもらおう。なんかお兄ちゃんが先走ったんだよね? ……あれ? 伊津男くんのせいでお兄ちゃんが先走った……? ふむ」

「いやいや、ふむじゃなくて」

 確かにその問題は解決すべきだろうが、俺と藤がどうにかできることだろうか。

 藤が急に距離を詰めた。

「でもまあ今日は、告白記念に二人の距離を縮めましょうか」

 二人の距離は僅か五センチメートル! 近い近い近い近い!! キスですか!? キスですか!? 大切なことなので二回以上言わせてください! キスしましょうか!?

「家、入っていいかな?」

 泊まりですか!? 我が家に泊まって、おおっといけない、ここはあくまで紳士的に。

 さあ、ベッドはこっちですよ。あ、お風呂はあっちで……。

「ガンダム見ていい?」

 ですよねー。

 ただ、淡々と始まりたてのガンダムを二人で見ただけである。

 それはそれで楽しいから、まあいいかと思う自分も確かにいるのだが、なんか悲しい。

 その後、藤は帰った。いや談議も弾んだんだけど、視点が違うからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。