ファミリー
藤と別れた帰り道の途中、俺はとある人物に出会った!
いかにも疲れたサラリーマンの瞳が眼鏡の奥にある、三つ揃えのスーツと薄くなった髪が印象的な男。
電車とか乗ってると常に座って寝てて、目的の駅に着くとハッと目を覚まし急いで降りる、可哀そうだなーと思うタイプの社畜である。
ああいう風にはなりたくない、特に頭とか。ぷぷ、禿げ上がってやがる。
「伊津男、か?」
「……親父」
今明かされる衝撃の真実が本日二度目! うちの家族可哀そう過ぎるだろ!
「元気でやっているのか? 母さんは? あと闘華は?」
闘華、とうかとうか……あっ! 姉貴の名前か! 飯野混沌幻魔の方が似合っているよ。
「姉は最近水商売っぽいことしてるよ。母さんは会話くらいならできるけど、相変わらず」
ちなみに息子は彼女が出来、部活動に精を出してます! 十割くらい嘘かな。
「そうか、よかった」
え、話聞いてた? 何がいいの? 名字がいいの?
現状維持は確かにマシか。姉貴が再び犯罪したり母さんが自殺するよかマシだね。
「それよりなんでこんなとこにいんのさ? 金くれんの?」
父と姉がこの辺りに来るのは基本的に仕送りのためである。
「はは、まあ、それもあるけれど」
死んだような空笑いをした後、親父さんはきりっとした表情に変わった。
「伊津男、お前を呼びに来たんだ」
「呼びに?」
「俺達と一緒に暮らさないか?」
言っている意味が分からない。もしかしたら日本語で「俺達と一緒に暮らさないか」と聞こえるタイプの外国語を言っているのかもしれない。
Oh・LayTouchなんとかみたいな? やべー、会話の端々に外国語を織り交ぜるとかグローバルスタンダードとかいうレベルじゃない、これが社会人か……。
「お、おう、今のは日本語に訳すとどういう意味なの?」
考えたネタを直接発言しちゃうのが俺の強いところである。親父の反応が気になる。
「家もちゃんとある、お金も稼ぐし、相手だって……」
Yes、MoreChatAll? 英語なら文法滅茶苦茶だけど、もっと話したい的な意味になりそうだ。
でも、こっちにはもう話すことはない。
「お前なぁ! それ本気で言ってるのか!? 俺がいなくなったら母さんは……」
と、ここで口を噤みました。まあ、怒りすぎるのも真剣になるのも、辛い。
こういう時は無視して帰るに限る、と思ったところで第三者が出現した。
親父の後ろから出てきたのは、ウェーブがかった金髪ロングでセーラー服の女子。
顔面偏差値高いけど、少し肌が浅黒くてなんかヤンキーっていうか、ギャルっていうか、ちょっと派手目な化粧とアクセサリーが一層そんな感じをさせている。
まあ俺とは全く縁のないタイプの美人だね、俺は藤派であり、清純なのが良いのだ。
全く気にせずガン無視くれてやると、急にその女子が俺の腕を掴む。
万引きがバレたのかと驚いたが、万引きしたこともなければここは店内でもないので落ち着いた。
「な、なんですか、急に!?」
全然落ち着いてなかった。なんか痴漢がバレた人みたいだ。でもここは車内でもない。
「あんたが無視するからでしょ!」
「止めないか、火奈」
親父がそのむすめっこを止める。いやあ助けてくれるなんていい親父じゃないか。
しかし、異様に嫌な予感がするのでなおも帰ろうとするも、カナは手を放さない。
「でも挨拶くらい……」
「いや、いいんだ」
いいんだ、じゃなくて、なんかもういろいろと駄目だ。
いや深読みしすぎか? このカナが親父の愛人とか途方もないことばかり考えてたけど、冷静に考えれば愛人の娘とかそんなんだろうか、そうじゃなければ頭おかしい。
「と、とにかく放して」
渋々といった様子でやっと放してくれた。
「お、親父、そ、その子ってさ……」
なんだか嫌だなー、怖いなーって思って、どうして男の背中にぴったり女がくっついてるのかなって考えたら、私気付いちゃったんですよ、愛人じゃないかって。
で親父に向かってカナが顔を赤くして話しているところで背筋がゾーっとして、ああこの子、本当に好きになったんだなぁって。
……もしそうなら、本家の淳二より怖い。
「ああ、伊津男にも紹介しようと思ってたんだ。西橋火奈さん、俺の、パートナーだ」
うわああああああああああああああああああああああああああ!!
おい世の中の目が腐ったサラリーマンの皆さん朗報ですよ! サラリーマンでも恋できる! 女子高生とイチャコラできるってよ! ソースは俺の親父!
いやなんだよこの糞親父、娘が罪人になり妻が狂ったから愛人作って逃げたと思ったらとんだ変態野郎じゃねえか! 息子と同い年くらいだろ!? マジで頭おかしい!
ふえぇ……頭おかしいよぅ……マジでキチガイじみてるから辞めてほしいよぅ……。
いや待てしばし! もしかしたら今の言葉は古代ハム語にて愛人の娘という意味があるのかも、よし落ち着いてきた。いや全然落ち着いてない答えだな。
「パートナーって……まさか、そんな、例の愛人?」
単刀直入に聞いてみました。単刀『釘』とか作ったらおこられるかしらん?
よし調子出てきた! 今の俺ならどんな無慈悲な現実だって逃避してみせるぜ!
「ちょ、ちょっと光男さん……」
飯野光男、我が父のフルネームである。念のため。
まだ大丈夫だよ、いっぱいおっぱい僕元気である、火奈さんは胸薄めである、念のため。
「遅かれ早かれ分かることだろ、隠すことなんかないさ」
ふむふむ、それなりに仲睦まじそうに話す二人を見るとそれっぽくも見えるし、なんかゲロ吐きそうにもなる。
俺さ、確かにあんまり他人のこと言えないよ? だって可愛い男の子が好きな男って変だと思うもん。
思うけどさ、思うけどさすがにこの親父は変だと思う、っていうかこの親父のせいで俺と姉貴があんなんになったんじゃねえの?
あー、なんか無駄にエロイこと考えたくなってきた。現実逃避の方法すら雑っていうね。
「えっと、改めて、西橋火奈です。朝日高校一年です」
カナは態度まで改めて自己紹介をした。年下じゃん。ジャイアントおっぱいプレス。
「親父ぃ、年下じゃねえか、マジか、とは聞かない。変態、と思っても罵らない。けど、それを実の息子に見せるのはちょっと、なんというか、引く」
「はぁ!? あんた何言って……」
「火奈、やめてくれ。仕方がない」
本当に仕方がないと思う。変態とかマジかって言わないだけ全然マシないい息子だと俺は自画自賛するレベル。ミセスエクスタシー。うーん、エロポイント減ったな。
カナはなんか睫毛長い瞳で睨んでくるが、それがなくても死にそうな気分だ。
クレイジーソーン、フレアガール、クリスタルアサシン、今思いついた三つの属性を持つ闘うヒロインである。全部最終的に負けるけど、それで喜ぶ人もいる。いやクリスタルアサシンだけショタにしよう。そういうのもアリだよね? エロポイントの足りない分は想像力で補う。
「とりあえず、家に帰るよ」
「……ああ」
親父はしょんぼりと言った。
カナが滅茶苦茶睨んでくるから正直気が狂いそうだったけれど、まあ元々狂ってるようなものだからどうでもいい。
おマンホール……これは点高いぞ! R規制かかっちゃうかな!? 限界と闘う俺、格好良いね!
家に帰ると、今日は母が出迎えた。
「お帰り、伊津男」
「ただいま」
伊津男と呼ばれるのはなかなか貴重なので日記でもつけたい気分である。
ちなみに父さんのことは何も話しません。母さんがどうにかなっちゃうでしょ?
そういうわけで、本日は波乱万丈だったが、ともかくは平和な日の一つです。
また書き溜めます。




