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助けた弟子の『女の子』が執着王子になって帰ってきて逃がしてくれません  作者: 栗原りんご


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3/5

3. それ、全部覚えてますよ

少しでも気に入ってくれたら、

評価、ブクマ、リアクションよろしくお願いします!

感想もぜひぜひお待ちしております<(_ _)>

(……ちょっと待って。落ち着いて、私。記憶を整理しよう?)


朝食の準備をしながら、リヴィエラの脳内では過去の映像が濁流のように押し寄せていた。


(私……ルーシーとずっと一緒に寝てたよね!? 『ベッド2つ買うより1つの方が安上がりだよ』ってルーシーに言われて……。なんなら、お風呂も一緒に入ってたよね!? 『2人で入った方がお湯も薪も節約できるから』ってルーシーに言われて……!!)


当時は「しっかりした合理的な女の子だわぁ」なんて感心していた自分を、今すぐ禁忌の森の底に埋めに行きたい。


(いや、でもあの時は女の子だったから! 魔法でそうなってたんだからセーフ……なわけないでしょ!! 中身は男の子だったんでしょ!? 完全にアウトだよ!! ……いやアウトどころじゃない!!)

「師匠? どうかしましたか。顔が真っ赤ですよ」


背後からかけられた、低く心地よいバリトンボイス。

振り返れば、そこには手際よく野菜を刻むルシウスの姿がある。袖を捲り上げた腕の筋肉、広い背中。チラリと見てしまうたびに、リヴィエラの顔面温度はさらに上昇した。


リヴィエラは「魔法」の才能は皆無に等しい。かまどに火を点けるのも、いつも火打石を使った古典的な方法だ。


「……あ、火、つけなきゃ」

「貸してください。手伝いますよ」


ルシウスが指先を軽く鳴らすと、パチンという乾いた音と共に、一瞬でかまどに勢いよく橙色の火が灯った。


「あ、ありがとう……って、ルーシーが魔法!?」

「あ、そうそう。男に戻った時に、魔法も“戻った”みたいです」

「みたいですって、無詠唱で……? そんなこと可能なの?」

「まぁ……誰にでもできるんじゃないですか?……僕にとっては当たり前ですけど」


ふっと、余裕のある笑みを浮かべるルシウスの見慣れない顔。 かつての「可愛い愛弟子」は、もうどこにもいなかった。


(お、落ち着け私。大丈夫、これはきっと親愛の情とか、師匠への執着を勘違いしてるだけ。私にとって、ルーシーは今でも可愛い女の子……女の子なんだか……らっ!)

「危ない!」

「っ……!?」


考え事に没頭しすぎて、スープの鍋を運ぼうとした足がもつれる。

視界がぐらりと傾いた瞬間、力強い腕がリヴィエラの腰を抱き寄せ、その身体をがっしりと支えた。

至近距離。

鼻先をかすめるのは、朝の森の香りと、彼特有の清涼な体温。

ドクン、と心臓が跳ねた。それは今まで感じたことのない、警鐘のような、甘い鼓動だった。


「師匠……? 大丈夫ですか」


心配そうに覗き込んでくる碧の瞳。まつ毛の長さまで見える距離に、リヴィエラの思考回路は完全にショートした。


「わわわわわたし、ちょっと薬草の様子見に行ってくる!!」

「あ、師匠! まだ火が――」


ルシウスの制止も聞かず、リヴィエラは逃げるように庵を飛び出した。

冷たい朝の空気に当たっても、顔の火照りは一向に引かない。


「あんなの……あんなの反則だよ……心臓がもたない」


森の奥、お気に入りの薬草畑の縁に座り込み、リヴィエラは深くため息をついた。冷たい朝の空気に当たっても、顔の火照りは一向に引かない。


「リヴィー?」


背後から、低く、どこか不機嫌そうな声がした。


「ホロウ」


「なんなのあいつ。……朝から暑苦しいんだけど」


ホロウはリヴィエラの隣にどさりと座り込み、アンバー色の瞳で彼女をじっと見つめる。


「ホロウが来る前に、一緒に住んでた子だよ」

「ふぅん。……で、なんでそんなに動揺してんのさ」

「ど、どど、動揺なんてしてないよ!」

「……ふーーーーーーーん?」


疑わしげな視線に、リヴィエラは肩を落として、膝に顔を埋めた。


「……」

「……女の子だったの」

「うん?」

「男になって戻ってくると思わないじゃん。 しかも、あんな……あんな風に」


そう、ルーシーはとても可愛い女の子だった。

出会ったあの日も、彼女は確かに「女の子」としてリヴィエラの前に現れたのだ。目を閉じれば、四年前、初めてこの森で「彼女」を拾った日のことが鮮明に蘇る。




   *  *  *


「きみ……は?」


森の奥、蒼く光る薬草の輝きの中で、少女はゆっくりと瞳を開けた。


「私はリヴィエラ。あなたは?」

「ルシ……なんだっけ、ル……シ……?」


少女は弱々しく首を振る。その瞳は、何か大切なものを喪失してしまったかのように虚ろだった。


「ルーシー?」

「う、うん。たぶん」

「たぶん?」

「よく、思い出せなくて。自分のことも、これまでのことも……。気づいたら、ここに倒れていたみたいで」

「……そっか」


孤独に震える少女の姿が、家を追われた自分と重なった。リヴィエラは、泥に汚れたその小さな手を、迷わず握りしめた。


「ここは危険だから、私と一緒に来る?」

「いいの?」

「私も家から逃げてきた身だから、これから大変だとは思うけど……」

「行きたい。僕を救ってくれたのは、あなたでしょう? 恩を返したい」

「そんなこと、気にしなくていいのに」

「行こう」


二人の逃亡劇は、そこから始まった。

リヴィエラはトランクから自作の『薬』を取り出した。


「ルーシー、これ飲んで」

「なにこれ?」

「一時的に身体を透明にする『薬』」

「は?」

「自分で実験した時は、手とか足とか部分的にしか透明にならなくて……最近やっと完成したんだ。私から飲むね」

「!?」


ゴク、と喉を鳴らしてリヴィエラが薬を飲み干すと、その姿が霧に溶けるように消えていく。


「み、見えない……!」

「ほら、早く飲んで。私の手を離しちゃだめだよ」


空中から聞こえるリヴィエラの声と、手を繋がれた温かな感触。ルーシーはおそるおそる、差し出された瓶を仰いだ。

禁忌の森を、二人の「透明人間」が駆け抜ける。

傍から見れば、古びたトランクだけが不自然に宙を浮いて飛んでいくという、異様な光景だった。


   *  *  *


(あの時は、あんなに必死で。あんなに可愛かったのに……!)


今のルシウスからは想像もつかない、無垢な瞳を思い出してリヴィエラは再び頭を抱えた。


「……リヴィ。顔、また赤くなってる」

「う、うるさいよ、ホロウ!」

「……やっぱり、あいつ、きらい」


ホロウは不機嫌そうに呟くと、リヴィエラの袖を強く引っ張った。

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