表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元弟子(♀)が王太子(♂)になって帰ってきたので逃げたいのに逃げられません  作者: 栗原りんご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/13

2. 元弟子の正体が重すぎる

少しでも気に入ってくれたら、

評価、ブクマ、リアクションよろしくお願いします!

感想もぜひぜひお待ちしております<(_ _)>


「ちょ、ちょっと近いってば! 一旦離れようか!」


リヴィエラが必死に突き放すと、青年――ルシウスは「……嫌です」と、子供のように不満を漏らす。渋々離れたかと思いきや、今度はソファに座り、自分の逞しくなった膝を掌でポンポンと叩いて「ここに来い」と言わんばかりにこちらを見つめてきた。


「座らないよ!?」

「……」

「……チッ」


(舌打ちしたな、今、確実に舌打ちしたな……!)


かつての可憐な面影はどこへ行ったのか。リヴィエラは冷や汗を拭いながら、震える手でお茶を準備した。


「とにかく、なんでこうなったのか……順を追って説明してちょうだい」


ルシウスはふっと表情を消し、碧の瞳をわずかに伏せて静かに語り始めた。


「話は長くなるのですが……」


一瞬だけ、彼は言葉を選ぶように沈黙した。


「……僕、王家の隠し子だったみたいで」


「…………」


「……は?」


ガシャン、と危うくカップを落としそうになった。


「おうけの……かくしご……?なにそれ新しい魔法の呪文かなにか?」


「違いますよ、現実逃避しないでください。本名はルシウス・アクア・クリスタニア。幼い頃から命を狙われていたようなのですが、母が持たせてくれたこのペンダントの魔道具で、姿と性別を偽り、追手から逃れ――」

「重いし情報の量が多い!」


あまりに壮絶な告白に、リヴィエラが言葉を失っていた、その時。トントン、と眠たげな足音が階段から降りてきた。


「リヴィ……? おはよー、誰か来たの……?」


目を擦りながら現れたのは、十五、六歳ぐらいに見える一人の子ども。

その瞬間、穏やかだった室内の空気が嘘のように、部屋の温度が氷点下まで落ちた気がした。ルシウスの碧い瞳から甘さが消え失せ、本物の獲物を狙う猛禽のような殺気が放たれる。


「……リヴィ……だと? 彼は誰です。僕がいなかった一年の間に、あなたはまた誰かたらしこんで……!」

「ストップストップ! その殺気をしまってちょうだい! あの子はホロウ。私の使い魔よ!」

「使い魔……?」


不審げに目を細めるルシウスに、リヴィエラは慌てて補足した。


「怪我をしていたところを助けたの。ふくろうの獣人なのよ」


ホロウと呼ばれた黒髪の少年は、ルシウスをじろりと見上げると、小馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「……なんか、やな感じ」


そう言って、わざとらしく、リヴィエラの細い腰に腕を回して、ぎゅっと抱きつく。アンバー色の瞳にほんの一瞬だけ鋭い光が宿る


「なっ……! 距離が近くないですか!?僕だってまだ抱きしめてないのに! 離れなさい!」


ルシウスの声が怒りで低く震えるが、リヴィエラは困り顔で首を横に振った。


「何言ってるの。こんなに小さい子に」

「ぐっ……! 小さくても『男』ですよ!」

「は? この子はお……もごもごっ!」


リヴィエラが言いかけた言葉を、ホロウの手が素早く塞いだ。


「リヴィ! そんなことよりお腹すいたよ! ご飯にしよ!」

「そ、そうね。ルーシー……じゃなかった、ルシウス様も何か――」

「ルーシーのままでいいですよ。僕がいいって言ってるんですから。……ね? 師匠」


細められた碧の瞳の奥に、リヴィエラはかつての愛弟子の面影と、それとは決定的に違う「男」の執着を見た。



   *  *  *



一年前、彼は何の前触れもなくリヴィエラの元から姿を消した。


あの日は――リヴィエラとルーシー(ルシウス)の誕生日だった。


「今日はご馳走ね!」


リヴィエラが花のように笑う。その笑顔も、飾り気のない仕草も、彼は心から愛していた。家族以上の感情を抱いていたと、今なら確信できる。

しかし、運命は残酷に割り込んだ。

ルーシーがいつものように森で薬草を摘んでいた時、その男は突然現れたのだ。


「探しましたよ……『王子』」

「あなたは……?王子? 僕を知っているのか」

「はい。ずっと貴方様を探しておりました」


背後に控える騎士団の気配。リヴィエラをこの争いに巻き込むわけにはいかない。


「あの人に手は出さないと誓えるか」

「もちろん、貴方様が大人しく来て下さるなら」


後ろ髪を引かれる思いで、彼は大人しく王宮へ向かう道を選んだ。


――たどり着いた謁見の間。玉座には王と王妃が座り、彼を冷たい目で見下ろしていた。

「あの方が……」「失われた第一王子の……」

貴族たちの騒めきが広間に満ちる。


「よく戻った。ルシウス・アクア・クリスタニア」


「……私はルーシーです」


「はは、そうであったな。我が“娘”として育てられた子よ。――お前はこの国の第一王子だ」


「!?」


王の一言で、広間の空気が凍りついた。

貴族の一人が狼狽えて声を上げる。


「中性的な見た目ではありましたが……まさか、あれが……王子……!?」


「母親によく似ている。……余が唯一、手放せなかった踊り子だ」


「な……あの“例の”……?」


「今に分かる、呪縛が解ける時がな。

さて――真の姿を見せてもらおうか」


従者が掲げた水晶玉が放つ禍々しいまでの光に、ルシウスは激しい頭痛に襲われ膝をついた。


「うっ……ぁ!」


その時、ルシウスの身体に異変が起きた。

華奢だった肩幅が広がり、骨格が逞しく作り替えられていく。可憐だった喉仏はせり出し、声は地響きのように低く沈んだ。


ペンダントの魔力が弾け飛んだ時、そこにいたのは少女ではなく、冷徹な美貌を持つ第一王子だった。水晶玉が放つ強力な魔力は、彼の体躯が逞しくなるのと同時に、王家の威厳を象徴する第一王子の礼服へと、一瞬にして『上書き』していく。


――パサリ。

その変貌の衝撃に弾かれるように、今まで被っていた青い髪のかつらが、静かに床へと落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ