078
誰よりも騒がしくなると思っていたルーは殆ど喋らなかつた。
彼はただ噛み締めていた。
僕にはよく判らない。
彼の言う半分も理解できない。
日本語と英語とノルウェー語が混ざっている。
「闇夜に生きる者の救い」
そんなような事だと思う。
心の底から感動したと言った。
気付いたら泣いていたとも言った。
動作の意味なんて判らないけど、込められた祈りや願いは伝わるのだろう。
「全部ボスのおかげですヨ。」
僕は何もしていない。
「きっちり礼はさせてもらうからよ。」
と脅されてしまった。
いよいよ屋台の並ぶ縁日へと。
エリクとルーは多くの「継ぐ者」達から声をかけられる。
彼らが旅先で出会った招待客。
2人が橘結を紹介し、彼女はそれに丁寧に応える。
そして何故か僕を紹介する。
「トモダチのキズナだ。」
「我らのボスですよー。」
ボスって止めて。我らって止めて。
招待客だけではない。
すれ違う誰もが振り返り、この集団を注目する。
その中に自分が紛れてしまっている事が、とても恥ずかしかった。
宮田杏が先陣切ってサーラに縁日の楽しみを教えている。
彼女を楽しませる自身が全く無かったので有り難い。
「ほれキズナ。」
小室絢から渡されたのは風船。
「お前はこれさえあればご満悦だもんな。」
「ちょっと違うわ。キズナが風船を持っていると姫がご機嫌なのよ。」
「ああそうか。」
「ああそうか。じゃないわよっ。キズナ君も何か言った方がいいわよ。」
「そのうち毎日風船持たされるから。」
それはさすがに困ります。
「そんな面倒な事するかっ。」
「絢ちゃんはしないかも知れないけど綴ちゃんかしそう。」
「しないわよ。ちょっと面白そうとは思ったけど。」
思ったのか。
橘結は何も言わずに、そうすることが当たり前のように僕の持つ風船に手を伸ばした。
「あ」
と小さい声が後ろから聞こえた。
立ち止まったのは小室絢。
「どうしたの?」
「今姫とキズナ見てたら胸の奥でキュンて鳴った。」
「は?何それ。乙女なのは格好だけにしなさいよ。」
「煩いっ。今何か姫の話を急に思い出して。2人が子供の頃の」
言いかけて目を潤ませ言葉を詰まらせてしまった。
「何で今なのよっ。夏祭りの時に思い出しなさいよっ。」
「だってあの時は気を使えって綴が」
「それ言ったらダメでしょっ。」
僕と橘結はそれを聞いて同じことを考えていた。
橘結は風船を離して小室絢に、僕は南室綴に手を伸ばす。
2人でそれぞれの手を取って4人で繋がろうとしたのだが
水風船と綿菓子を手に持ち、お面を頭に乗せたサーラが駆け寄り僕の腕を奪った。
「キズナっちょっと来てっ。」
連れ去られた先は射的の屋台。
屋台のお兄さんは僕を見るなり
「ひぃ」
と悲鳴にも似た驚きの声を上げる。
「ダメダメっ。1つだけ。な?1つだけなら好きなのやる。持ってけ。だから勘弁してくれ。な?な?」
ちょっとチンピラ風のお兄さんに泣きつかれてしまった。
そうだった。僕のこの界隈の異名は
「5発撃ったら6つの景品を落とす男改め、1発で4つの景品を落とす男」
どうやら彼はそれを覚えていたのだろう。
僕はサーラに1つ選ばせると遠慮なく大きな熊のぬいぐるみを要求する。
申し訳ないので1回分の料金を払った。
「何であの人キズナ見て「ひいっ」とか言ったの?」
あの時柏木梢もお腹を抱えて笑っていた。
追って来た皆にサーラがその大きな熊を自慢している。
去年の夏祭りに、こんな事があってね。
それで、それってその時に落としたぬいぐるみなんだ。
彼女は1年越しの因縁とか偶然を
「運命だったのよ。」
と強い繋がりを感じて、ぬいぐるみを強く抱きしめながら
「ありがと。キズナ。」
その笑顔に危うく倒れそうになった。
「ずるいぞっ何だよ1年越しのフラグ回収ってっ。」
栄椿の言い掛かり。
「さすが熊殺し。」
宮田杏がどうしてそれを知っている。
「クマゴロシって何?」
「おう。コイツとうとう本物の熊と戦って殴り倒したんだぜ。」
「マジすか?マジすかボスさんっアンタすげぇよっ。」
「兄もニコニコと微笑ましいなぁて面してるけど本当だからな。」
「いやボクはキズナならやるだろうなって考えていただけだよ。」
なんでだ
桃ちゃんが僕の手を取り
「ダメだろ。反則だよアレ。凶器じゃん。」
凶器?
「皆振り返ってるよ?何なんだよアンタマジで。どうやってあんなの落としたんだよ。」
たまたまだよ。今回は撃ってもいないし。
「熊の話じゃねえよっ。」
「あの天使だよっ。何だ。オマエは何だ。神か?神なのか?」
「どう考えたってアッチの兄ちゃんズのが上だろっ。」
エリクとルーの事か。だよね。僕もそう思う。
「だよねーって呑気なツラして言ってんじゃねぇっ。」
何だって桃ちゃんはこんなにもエキサイトしているのや?
「納得いかねえ。気付いてるかキズナ兄ちゃん。あの天使達はあのイケメン達に全く目もくれてない。」
「だけどキズナ兄ちゃんを見る目はあ・き・ら・かに乙女の目だ。」
あーいやそれはアレだ。桃ちゃんの勘違いだよ。
「勘違いって何だ。」
皆は僕を「出来の悪い弟」くらいにしか見てないんだよ。
乙女の目と言うより姉の目なんじゃないかな。ほっといたら危なっかしいみたいな。
だからその滲み出る慈しみが彼女達を天使に見せ
ぐはっ
な、なんでボディブロー。
「兄ちゃんは何も判ってねぇ。」
そう言い放って桃ちゃんは走り去った。何だったんだ一体。
桃ちゃんはサーラの元に走って何やら話をしている。
結構興奮しているようだがサーラはニコニコしながら対応している。
何がどうなってそうしたのか判らないが、2人はガッチリ握手した。
何なんだろうか。




