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それでも日常は実に穏やかだった。
隣のクラスの前を通ると見計らったようにサーラが出てきて僕の腕を取る。
そのまま一緒に僕のクラスに入り、僕の席の前に座り
あの夏の続きを話してくれる。
それに橘結も南室綴と小室絢と一緒にその話を聞いて
すぐに宮田杏と栄椿も集まって、遠い国のお伽噺に耳を傾ける。
サーラはそれが男子であれ女子であれ関係なく、ただ人を惹き付ける。
そして秋分の日を迎える9月。
「シュウブンて?」
昼と夜の長さが同じなんだ。実際は昼のが長いようだけどね。
昔は夜とか闇は忌み嫌われていたからそれを祓う行事の名残のお祭り。
エリクは橘結に参加の許しを求めた。
「見学だけでもさせてもらえないかな。」
「何言っているの。参加していただきます。」
橘結は前年のこのお祭りの成功はエリクの協力が大きかったと言った。
「今年もぜひ協力お願いします。」
「判りましたプリンセッサ。それで1つ提案がある。」
「なんでしょう。」
当日、エリクとサーラがリムジンで僕の家まで迎えに来てくれた。
祖父母にも挨拶をしたいと少し早めに現れたのだが
それがきっかけになった。
祖母はサーラを二階の母の部屋に案内する。
僕もエリクも2人が何をしているのか聞かされず、ただ待つだけだ。
30分ほどして降りてくると、サーラは浴衣に身を包んでいた。
見惚れて茫然とする僕の目の前を通り過ぎて、祖母が客室の奥の姿見に案内する。
「ユカタってスースーするのね。落ち着かない感じだけど素敵。」
くるくると回る。笑顔てくるくると。
祖母はサーラの髪を結い束ねて止める。
「ユカタの時は髪を上げるのね。」
公園の駐車場は屋台の関係者で埋まるので
公園までの道は臨時の交通規制で車での乗り入れはできない。
丘の麓で車を降りて、駅から祭りに参加する人達の波に加わった。
面倒かもしれないけど
「いい゛しゃないか。ここからお祭りが始まっているみたいだよ。」
エリクはこの雰囲気も楽しんでいる。
少しずつ、縁日の賑やかな音と光が届く。通りの両端にはたくさんの小さなお店。
2人は揃って振り返り、僕にとても素敵な笑顔を見せてくれた。
もう待ちきれない。そんな顔だ。
でも待って。石段を登って上へ行こう。舞が始まる。
この日に祈りを捧げるのが先だよ。
リンゴ飴を3つ買って2人に渡して境内を目指す。
神楽殿の前には既に人が集まり始めていた。
昨年のような、海外からのお客ではない。殆どが日本人。
でもこの街の人達以外にもたくさん。
これがエリクの提案だった。
彼は夏休み中に旅して回った先で出会った「継ぐ者」達に声をかけ
その殆どが集まっていた。
何の前触れも無く、その時間に橘結と南室綴、小室絢が登場する。
その瞬間、周囲は完全な静寂に。
舞に見惚れているのは僕だけじゃない。
この場の全員が言葉も思考も忘れ、
ただただ3人の舞に心を奪われている。
舞の終わりと同時に鳴り響く拍手。
笑顔で深々とお辞儀をして舞台から下がり「祀り」が終わり、
いよいよ「祭り」の会場へと移動だ。
「兄が目立つから見付けやすいな。」
と宮田杏が2人の妹、宮田桃と宮田柚を引き連れ現れる。
宮田柚の隣には敷島楓も。
すぐに栄椿も合流。
「すげえな妹。」
「その妹っての止めなさいよ。すけえて何?」
「オマエの浴衣が似合い過ぎて凄いって意味。」
「あ、ありがとう。仔猫ちゃん達もカワイイわよ。」
「仔猫って言うなっ。」
どうせなら皆で回ろうと舞を捧げていた3人を待つ事に。
橘結と南室綴がまず現れやはりサーラの浴衣姿を褒める。
「サーラちゃんも凄いけど、負けないくらい凄いの来るわ。」
橘結の言う通り、破壊力では決して劣らない浴衣姿の小室絢。
「ね。」
「ねって何だよ。」
小室絢は浴衣になるのを拒み続け着替えが遅れたらしい。
「普段とは別人ね。」
今までどうして浴衣にならなかったんですか?
「邪魔だろこんなの。動きだって制約あるし。」
それじゃあどうして今日は
その質問には橘結が答えてくれた。
「あ母さんに言われたの。これでキズナ君を倒して来いって。」
「何で姫がそれ知ってるなんだよっ。」
「何でってお母様から直接頼まれたのよ。」
「絢ちゃんの浴衣姿をキズナ君に見せるようにって。」
「あと綴ちゃんをキズナ君に近寄らせないでねって。」
「あら、ワタシは絢ちゃんのお母様から「姫様をキズナに近付けさせないで」って言われたわ。」
「何考えてるんだ。」
そんなこんなを言っていると突然栄椿が
「ぎゃーっもうだめだ。誰から?誰から抱きついていい?浴衣姿の女子高生に抱きつきたいっ。」
この人本当にいつか捕まりそう。
「絢さんがスゲェのは知っていたけどここまでの破壊力とわ。」
宮田桃は何を言っている?
「姫様に綴さんもヤバイがこの美少女は何なんだ?この人もキズナさんのコレか?」
「も」て何だ。その立てた小指にはどんな意味がある?
「腕力か?姉ちゃんが勝てるのは腕力だけなのか?」
栄椿は申し訳なさそうにそれを否定した。
「いやー。多分あの子のが強い。」
「なんだとっそれじゃ姉ちゃんの存在意義は?」
「お前、アタシを何だと思っているんだ?」
宮田杏が妹を小突いていると
「アナタのお姉さんはとても素敵な人よ。自慢していいわ。」
サーラのその目に宮田桃は見惚れて一瞬我を忘れ
「はっっ。このアタシが直撃を受けている?」
などとほざいている。
敷島楓も、僕の袖を掴みながらサーラに見惚れている。
絵本から飛び出したような、映画やアニメの当時用人物のような。
「この子もキズナのガールフレンド?」
妹、かな。
「じゃあ私もアナタのお姉さんになってあげる。」
その笑顔にただ黙って頷くしかできなかった。




