072
三原先生から連絡があったのはその日の夜だった。
車で迎えに来て、向かった先は橘家。
車内で説明はなく、珍しくずっと神妙な顔だった。
迷っているような。
橘家の客間には橘さんと父親、そして小室家と南室家の全員が揃っていた。
「何処まで話たんだ?」
橘さんの父親の問いに、三原先生は首を振った。
「あまり時間がない。」
「とにかく出発しよう。詳細は現地で。」
着いた早々出発。一体何がどうなっている?
橘親子は南室、小室それぞれに、僕は三原先生の車に同乗。
「すまない。」
走り出してすぐに口を開いたものの、それは迷っているのではなく
後悔のように感じた。
謝らないでください。何だってしますよ。何でも言ってください。
「お前がそう言うのは判ってる。だから。ゴメン。」
謝らないでくださいって言ってるんです。
前に言った筈ですよ。三原先生の役に立てるならどんなことだってするって。
それにホラ
弟をコキ使うのは姉の特権でしょ。
「・・・判った。だけどいいか。お前は私の言うことだけを聞けよ。」
「他の奴らの言うことに反応しなくていいからな。」
奴らって。
「約束しろよ。私が「やめろ」と言ったらやめろよ。」
そんなな約束は出来ません。
「おいっ。冗談で言ってるんじゃないぞ。」
判ってますよ。だから約束なんてしません。
「祓う」
僕にも詳しい事は判らない。
橘家ではその「祓う」技術が代々受け継がれている。
それは遺伝や血脈による「能力」ではなく、
伝承され続けている「技術」でしかない。
なのにどうして僕が?
「今は考えなくていい。」
訓練も受けずに「人ならざる者」を見抜き
その正体を文字通り「掴む」
原因ではなく、ただその事実のみが重要たがら僕が呼ばれたのだろう。
「私は反対したんだ。」
「いいか。今回はレアケースなんだ。こんな事あってはならないんた。」
長い事車に揺られながら三原先生はその「レアケース」の内容を教えてくれた。
詳細は面倒なので省く。簡単に説明すると
山が穢れたので浄化する。
何がどうなって「穢れた」のかなんて知らない。
ただ通常(って言葉が適切かも判らないが)は
「名のある山には浄化装置が設置されている。神社とか祠とか。」
装置て。
それが長い事放置されていたりで機能が低下すると
「不浄」が集まり「穢れる」。らしい。
「俗な言い方すると、悪霊とか集まりやすくなるって事。」
悪霊?
「呼び方は何だってイイんだ。お前にも見えているんだろ?」
あの黒い影みたいなの。
僕が「何か」とか「正体」とか言っているアレ。
でも宮田さんに見えたアレは猫丸出しでした。
「形態や状態によって呼び方は変わるって事。」
そこに悪意があれば悪霊になる。それだけ。
あの
「何だ?」
それを意図的に、と言うか自在に操れる人もいますか?
「勿論。もっと言えばそいつらは悪霊を作り出す事もできる。」
ああやっぱり。
それが可能なのは「呪われた一族」
生業としてその技術を極めた者。
復讐とか報復とか制裁とか。その代理。
それでその、僕はその山へ行って何をすれば?
到着したのは真夜中過ぎだった。
登山道脇の整備された大きな駐車場。
この時点で違和感があったのだが
素人の僕が口を出すわけにもいかない。
僕達の他にも数台の車。
「時間的にも限界だろう。」
どうやら橘家と同じような事のできる人達を呼んだのか。
程度に思っていたが僕が浅はかだった。
橘親子が車から降り、他の人達と話す姿を見ると
全員が橘親子に頭を下げていた。
「祓う事ができるのは極々限られた一族なんだよ。」
その技術が特異であること。
現代社会ではその使用頻度が減少していること。
身の危険もあり継承を拒む者。
そして悪用されかねないこと。
実際、集まった人たちの中に「祓う」事が出来る者はいなかった。
南室さんや小室さんにしても
その存在を確認し、その実体の動きを封じる術しか知らない。
橘さんの父親が僕を呼ぶ。
三原先生に背中を押され、大人達が話をしている中へ。
「私がこの子のサポートを務める。」
?逆じゃないか?
「君、名前は?」
え?はい。マカベキズナです。
「真壁君。君は本当に「それ」が見えて掴めるんだね?」
あなたの言う「それ」が僕の見える「何か」なら。
「大丈夫ですよ。実際に見ましたから。三度もね。」
南室綴が保証してくれた。
犬と、センドゥ・ロゼ、それに体育祭かな。
「本当ですか結様。」
「・・・はい。」
「結様もご確認されたのですね?」
「・・・はい。私も三度この目で見ています。」
橘結はずっと俯いたままでいる。
大人達は僕の事で言い合っている。
「何の訓練も」「素人」「どうして」「信じられん」等々
否定的な発言しか聞き取れないが
「私がこの子のサポートを務める。」
もう一度橘さんの父親が強く言った事で全てが収まった。
「簡単に説明するよ。」
「君と結は各々二か所の祠に向かう。」
「おそらくはどちらかの、もしくは両方の祠が「穢れ」ている。」
「君と結はそれを「祓う」。」
「他の皆は神社の修復と周辺の野生動物や「それ」の影響を調査する。」
「祠の「浄化」が済み次第、影響のあった「それ」を祓う」。」
橘結には南室家と小室家。僕には橘父と知らない大人3人。
僕なんかより三原先生のが役に立ちそうなに頭数にない。
「魔女は入山できないんだ。」
魔女は「穢れた存在」。
そんなの名前だけじゃ
「待て待て。それに関しては憤りはないよ。」
それは「文化」だと言った。
「同じようなしきたりは魔女にだってある。」
「バカらしいと思わなくはないがその意思は尊重されるべきなんだよ。」
「それで歴史とか、もっと言うと誰かの存在意義が守られるんだ。」
「お前が魔女ならこんな目に合わせずに済んだんだ。」
僕は男ですよ?




