#15 五感の檻
「さて――次は何が消えるかな?」
椎尾がゆっくりと歩み寄りながら、低く楽しげに呟く。
足音だけが、コツ、コツ、と無機質に響く。
「や、やめろ……来んな!!」
煌真は恐怖に駆られ、訳も分からず拳を振り回す。視界はまだあるが、距離感も温度も感触も無い。周囲の炎が熱いのか冷たいのかすら分からない。
「ビビって拳ブンブンか。動きが素人以下だな」
椎尾はその場から一歩も動かず、近づく振りだけで圧を与える。煌真の拳が空を切るたび、彼の息は荒くなっていく。
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◼︎観戦ルーム
「……こうなったらもうダメかな」
陽がぽつりと呟いた。諦めというより、冷静な現状判断だった。
夕音が息を呑む。千紗は唇を噛んでいた。
だが、葵生だけは何も言わず、細めた目でモニターを凝視している。
「……」
その表情からは、落胆でも焦燥でもないものが読み取れた。
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◼︎シミュレーター内
「怖いなら這いつくばって泣けよ。無理に立つ必要もねぇ」
椎尾の声は淡々としているのに、言葉だけが鋭く突き刺さる。
煌真は呼吸を荒げながら叫ぶ。
「うるせぇ……!ビビってなんか、ねぇ!!」
「ほう?」
椎尾の足が、炎を踏み越えてさらに近づく。
(触覚も嗅覚もない。次は視覚か聴覚、どっちが消えるか――)
(その前に倒す。そうじゃなきゃ、終わりだ)
拳を握り直すが――自分の指がどれくらい力を込めているのかも分からない。
「――!!」
恐怖を押し殺して飛びかかる。だが、その軌道は甘く、読みやすく、勢いもなかった。
椎尾の腕がふっと動いたかと思えば――
ドンッ
音だけが響く。何をされたのか、どこを打たれたのか、感覚すら分からないまま跪く。
椎尾は無表情のまま呟く。
「――次で終わりにしてやるよ、“班長”さん」
炎の熱も痛みも感じない世界の中――煌真の背筋だけが、ゾクリと凍てついた。




