#14 感じない恐怖
炎の熱を背に受けながら、煌真は瞬時に状況を判断する。
(逃げ道を切られてる……なら、飛び越えるだけだ!)
雷を脚に集中させ、床を蹴る。
バチッ――!
紫電と共に跳躍――しようとした、その瞬間。
「遅ぇよ、ガキ」
背後から声。――いや、「背後にいた」。
「ッ――!?」
振り返るより早く、椎尾の蹴りが脇腹を抉った。
ドゴッ!
全身が横に吹き飛び、積み上げられていた資材の山に激突する。鉄骨と木箱がガラガラと崩れ、雪崩のように覆いかぶさる。
「ぐっ……!」
――はず、だった。
(……あれ?)
音は派手に鳴った。――でも、痛みがまるで無い。
腕も脚も打っているはずなのに。骨が軋む感覚も、擦れた皮膚のヒリつきもない。
(……痛く、ねぇ?)
瓦礫を払いのけようとした手も――感触が、ない。
「……ようやく気づいたか」
椎尾が歩み寄りながら、淡々と口を開く。
「俺の能力は炎でも幻でもねぇ。“感覚を消す”能力だ」
煌真は目を見開く。
「お前に触れた瞬間――五感の中からランダムで一つを消す。さっき嗅覚を奪った。今ので触覚も死んだ」
椎尾は炎の揺らぎを背に、ニヤリともせず告げる。
「今のお前は――痛みも、熱さも、臭いも、何も感じねぇ。これはまだ序の口だ」
一歩一歩、足音だけが響く。
「目が見えなくなるかもしれねぇし、音が聞こえなくなるかもしれねぇ。味覚が死んだら、飯も毒も区別つかねぇな」
煌真は歯を食いしばる。
「……ふざけんなよ。ガキ扱いしといて、結局チート能力かよ!」
椎尾は、鼻で小さく笑った。
「チート? ――いや、“処刑手段”って言ってほしいなぁ」
炎の迷路ごと、じりじりと距離が詰まってくる。
「さあ、班長さん。今の自分の“状態”を理解した上で――まだ立てるか?」
その挑発に。
雷鳴が、煌真の体内でバチッと跳ねた。
痛みは感じない。熱も冷たさも分からない。
――だが、プライドだけは燃えていた。




