四 さよなら、真夏のメランコリー①
冬を超えて桜が咲き誇り、また夏がやってきた。
雪が降るほど寒かった日々がうそみたいに、毎日暑い日が続いている。
私は進級して受験生。
輝先輩は、無事に志望校だったF大に合格して、理学療法士を目指している。
高校生と大学生という別々の環境に身を置いて、早三ヶ月半。
「美波!」
時にはくだらない喧嘩をしながらも、付き合ってもうすぐ一年を迎えようとしていた。
彼の髪は、また明るくなった。
今度は金髪まではいかない色だけれど、それでもほとんど金髪に近かった。
「先輩、遅刻だよ」
「悪い!」
膨れる私に、輝先輩が顔の前で両手を合わせる。
「教授に質問しに行ったら、資料整理させられてさ。お詫びになんか奢るから」
「じゃあ、パッションフルーツフラペチーノ」
「新作のやつな。いいよ、ベンティにする?」
「そんなに飲めないから」
本当は怒ってなかったけれど、彼が優しく笑ってくれるのが嬉しくて、もう少しだけ拗ねたふりを続けようと思った。
コーヒーショップは、涼みに来た学生たちでいっぱいだった。
なんとか空いていた席を確保して、ベンティサイズのパッションフルーツフラペチーノを仲良く飲む。
「そういえば、来月行きたいとこ決まった?」
程なくして飛んできた質問に、私は笑顔で頷く。
「うん。遊園地がいい」
「暑いのに遊園地? 水族館じゃなくて」
「いいの。付き合った記念日だから、今度はカップルとして行くんだもん」
私がつっけんどんに返すと、輝先輩は嬉しそうにしていた。
「わかった。じゃあ、遊園地な。でも、勉強もしっかりしろよ」
「わかってるもん」
「来年から同じ大学に通えるの、楽しみにしてるんだからな」
「ご心配なく。この間の模試の結果、オールAだったし」
「え、マジ?」
「マジ。めちゃくちゃ頑張ったもん」
模試の結果をドヤ顔で見せれば、輝先輩は心底驚いていた。
それもそのはず。
今年の春に受けた時には、C判定とD判定ばかりだったんだから。
勉強は苦手だけれど、予備校に通うようになって身が入るようになったし、なによりも目標ができたからしっかりと頑張れるようになった。
もっとも、彼と同じ大学に通いたいというのが一番のモチベーションになっているのは内緒だけれど。
「……去年の俺より成績いいな」
「だって、ほとんど遊ばずに頑張ってるし」
「なんか悔しいわ」
「ふふん」
「でも、美波の成績が上がってくれた方が、俺としても安心だしな。一緒の大学に通えるつもりで待ってるし」
ドヤ顔でいた私に反し、輝先輩が甘い笑顔になった。
「っ……」
急にそんな表情をされると、ドキッとするからやめてほしい。
それに、胸を張っていた私が子どもみたいだ。
「よし、美波の大好物のチーズケーキも奢ってやろう」
「わーい、お父さんありがとう!」
「誰がお父さんだ!」
ドキドキしていることをごまかすために大袈裟に喜ぶと、彼が私の頬を軽くつねってからカウンターの方に行った。
(っていうか、未だにこんなにドキドキするってどうなんだろ……)
輝先輩は知らないだろうけれど、私は付き合った頃から変わらず……もしかしたら、その時よりも今の方がドキドキする回数が増えているかもしれない。
彼が大学生になってから会える日が減っているせいだろうか。
輝先輩に会うたびにドキドキしすぎて、胸が苦しくなる。
会えて嬉しいのに、こういう時はどうすればいいのかわからなくなる。
余裕そうな彼を余所に、私ばかり困っているに違いない。




