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さよなら、真夏のメランコリー  作者: 河野美姫
四章 さよなら、真夏のメランコリー
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一 再び傷ついた心①

 十二月に入ると、寒さが一段と厳しくなった。



 共通テストまで一ヶ月を切った三年生の中には、ピリピリしている人もいる。

 反して、推薦で進学先や就職先が決まった生徒たちは、気楽そうに過ごしているように見えた。



 輝先輩も共通テストに向けて頑張っている。

 成績も上がっているようで、模試の結果もすべてB判定だったのだとか。

 彼は、『A判定なら言うことないんだけどな』と苦笑しつつも、確実に伸びた成績のおかげで少しだけ安堵感が芽生えたみたいだった。



 終業式だった今日の放課後は、輝先輩と一緒に過ごす約束をしている。

 家庭教師が休みになったらしく、昨日の朝に彼から誘ってくれた。

 学校では毎日顔は見ているけれど、一緒に帰る時以外で放課後に会うのは久しぶりで、昨夜からずっと楽しみだった。



 彼のおかげで、学校に来るのが億劫じゃなくなった。

 あんなにも憂鬱だった学校生活が、今では普通に楽しめている。



 もちろん、水泳部の話題が出ればまだ胸の奥はひどく痛むし、自分の気持ちにも折り合いがついていないけれど……。ただ、輝先輩に会えると思うと、学校にいるのも前ほど息苦しくない。

 彼に会えるという幸せが、私の心を支えてくれていた。



 意地悪なことを言われたりからかわれたりもするけれど、輝先輩のおかげでちゃんと笑えるようになった。

 あんなにもボロボロだった心が、彼と過ごす時間で少しずつ癒されていっている。



 真菜やバイト仲間のおかげでもあるけれど、やっぱり一番は輝先輩の存在が大きい。

 ただ、彼にはまだこのことを伝えられていないから、いつか言えたらいいな、と思う。



(これ、喜んでくれるかな)



 自然と微笑んでいた私は、スカートのポケットに忍ばせていた白い袋を出す。

 中身は、昨日の放課後に学業にご利益があるという神社に駆け込んで買った、学業成就のお守りだ。



 しっかりお参りもして、輝先輩の受験が上手くいくようにお祈りしてきた。

 もっとも、彼はまだ進路に悩んでいるみたいだけれど。



 人の心配をしている場合じゃないのに、輝先輩の進路のことばかり考えてしまう。



「輝さー、まだ美波ちゃんに話してないんだろ?」



 彼のクラスの前に着くと、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 自分の名前が出てきたことで、反射的にドアの手前で足を止めてしまう。



「……まぁ」


「さすがに言った方がよくないか? このまま話さないわけにはいかないだろ?」



 輝先輩と話しているのは、宮里先輩のようだった。



「何度も言おうとはしたよ。でも、なんていうか……美波は俺のことを同士だって思ってる節があるんだよ。選手生命を絶たれたことで絶望して、将来どうすればいいのかわからないまま立ち直れてないんだって……」


(なに……? なんの話?)



 明るい話題じゃないのは明らかで、不安が芽生えてくる。

 この先を聞くのが怖いのに、足が地面に張り付いたように動かない。

 心臓がドクンッと音を立て、緊張感まで込み上げてきた。



「で?」


「俺と違って、美波はたぶんまだ立ち直れてない。明るく笑うようになったけど、水泳部員を見ると歯がゆそうな顔をしたり悲しそうにするんだ」


「だから、自分はもう新しい目標を見つけてるってことをまだ言わない……って?」


(え……?)



 目を大きく見開いてしまう。

 私が聞き間違えたのか、宮里先輩が勘違いしているのか。

 すぐに現実を受け止められない私は、そんな風に考えてしまった。



「そうじゃないけど……」


「黙ってる方が傷つけるんじゃないか?」


「わかってる……。さすがに冬休み中には話すよ」


「年が明けたらすぐに共通テストだしな。まぁ頑張れ」



 宮里先輩が「もう行くわ」と言い、足音が近づいてきた。

 この場から離れようと思うのに、やっぱり重くなった足が動かない。



「……美波ちゃん?」


「えっ?」



 直後、宮里先輩と輝先輩の声が続けざまに落とされる。

 私は、反射的に肩をビクッと強張らせた。



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