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さよなら、真夏のメランコリー  作者: 河野美姫
三章 夏の匂い
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一 知らなかった夏休みの幸せ➁

 ゴンドラに乗って進むシューティングアトラクションは、下手すぎた私のスコアを見た輝先輩がお腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。

 回転するジェットコースターは予想以上にスリルがあって、素で思い切り叫んでしまった。



 コーヒーカップは容赦なくグルグル回して、ふたりしてフラフラになった。

 お化け屋敷だけは避けたかったのに、彼に引っ張られて半泣きになりそうだった。



 だけど、輝先輩と一緒にいると、自然と笑っている私がいる。

 怒っていても本気でムカつくことはなくて、拗ねているのは〝ふり〟でしかない。

 本当はちっとも拗ねてなんかいなくて、楽しそうにしている彼を見ていると不思議と本気で怒る気にはなれなかった。



「腹減らない?」


「うん、空いた」


「ちょっと休憩するかー」


「チュロス食べたい」


「それより昼ご飯が先だろ」


「チュロスがご飯でもいいよ」


「却下。スイーツはご飯に入りません」


「おやつにバナナは入りますか? って質問となんか似てるね」


「美波はどっちだと思う? バナナはおやつかどうかってやつ」


「私にとって、バナナって栄養補助食品的な感じだったんだよね」


「あー、わかる。レース前とかに手っ取り早く食べられるしな」


「そうそう。消化にいいもので、エネルギーになりやすいって感じ」



 選手だった時、普段はもちろん、特に試合前には食べ物にも気を遣った。

 食べる時間、口にするもの、その量やタイミングまで、随分と指導された。

 私は、白米が好きだからおにぎりがいいと思うこともあったけれど、中でも栄養補助食品とバナナはよく食べていた。



「ゼリーとかバナナより、俺はおにぎりとかパンが食べたかったんだけどなー」


「うん、わかる。バナナも嫌いじゃないんだけど、おにぎりの方が好きだった」


「そうそう。あと、バナナは頻繁に食べるから飽きてた。だいたい、レース前に腹減ったら、バナナなんかじゃ足りないって」



 ふふっと笑ったところで、ハッと気づく。

 選手だった時のことを自然と話している――ということに。



 もう二度と選手として戻れないとわかった日から、私は故意に当時の話を避けていた。

 まだ受け入れるほど前には進めてなくて、どうしたって苦しくてつらくて……。現実だとわかっているのに、自ら口にすることはできなかった。



 家族や真菜、私の周囲にいる人たちも、私の前では話すことはなかった。

 だけど、今は普通に話せている。まるで思い出話のひとつみたいに……。



 そういえば、さっきからプールに向かう人たちとすれ違っているけれど、あまり気に留めていなかった。

 この遊園地には、夏だけ営業しているプールがある。

 夏休みの今は家族連れや学生らしき人たちが、プールに行くんだとわかる姿で歩いている。



 子どもが浮き輪やゴーグルを持っていたり、フリーパスを持たずにプールの方面に向かっていたり。そういう人たちがとても多い。

 この猛暑日の中、むしろアトラクションで遊んでいる人の方が少数派だろう。



 もう選手としては泳げないとわかった時には、水着やゴーグル、浮き輪を見ることすら嫌で、テレビでプールが映っただけでも過剰に反応していた。

 にもかかわらず、今日は笑ってばかりでちっとも気になっていない。



 もしかしたら、これも輝先輩と一緒にいるからなんだろうか……。


「美波?」


 なんて考えていると、彼に顔を覗き込まれた。



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