124.式典祭3日目ーシュレインの屋台ー
「お、エディじゃないか? 随分久しぶりに来たなぁ?」
門に着いて早々、兵士さんに声をかけられました。どうやら顔見知りのようで、エディオスさんも軽く手を振っていた。
「よっ。街道の混み具合とかどうだ?」
「三日目だが、やっぱり節目のお陰で減るどころか増えるばっかだ。今日も凄いぞ?」
「やっぱか?」
「真昼前だが相当だぜ? けど、行くんだろ?」
「ああ。まあ、今日は一人じゃねぇから、入場料は払うぜ?」
「は? どこに…………お?」
ここで兵士のお兄さん、ようやく僕とクラウに気づいてくれました。まあ、エディオスさんが指向けてくれたからなんだけどね。
「どうしたエディ? いつの間にこんなでっけぇ子が出来てたんだ、前は連れてこなかっただろ?」
「え」
「違うわ! 俺まだ独身だっつの! こいつは今訳あって預かってんだ。聖獣もこいつのだ」
「なーんだ、てっきり隠し子かと」
「お前、殺されてぇのか……?」
兵士さんの勘違いを即否定したエディオスさんは、隠し子ってさらに質の悪い冗談に過剰に反応してキレそうになる寸前までに。怖い、この間の差し入れの時に見たくらい怖いよ……。
「悪りぃ悪りぃ。んで、屋台とかの見物か? 坊……いや、お嬢ちゃんか?」
「あ、カティアって言います」
「カティアちゃんか? 小さいのにしっかりしてそうだな? エディにちゃんと着いてけよ? でねぇと人混みに潰されっからな」
「は、はい」
こくこく頷けば、兵士さんの手が僕の頭に置かれてなでなでしてくれました。
「ほら、800ライン」
「おう」
多分懐から出したらしいお財布からお金を出してくれました。僕無一文だからここは甘えるしかないからね?
ただ、お金の使い方はあとで教えてもらおう。使わないとは限らないから。ラインは硬貨らしく、僕の位置からは全然見えないんで音くらいしかわかんない。
「ふーゅぅ?」
「クラウもいい子にしなきゃダメだよ?」
「ふゅ!」
お金以外にも手続きが多少必要なようで待っていると、抱っこしていたクラウには何が何だかなので首を傾げた。そう言えば、お祭りだし屋台多いからこの子が飛び出しかねない……絶対離さないようにしなきゃと意気込んだ。
「ん、これで全部か?」
「カティアちゃんの登録は本部に届けておくから、次回からは出入り自由だ。あの白い聖獣もな」
「ああ。カティア、待たせたな。行くぞ?」
「あ、はーい」
「ふゅぅ!」
手を差し出されたので、素直に自分も手を出した。
普通なら恥ずかしいけど、迷子になる方が迷惑をかけるだけですまないんでそうも言ってられない!
いざ、城下街に繰り出します!
「ふわぁああ!」
「ふゅゆゆゆ!」
メインストリートに着くなり、クラウと一緒になって声を上げてしまう。
だって、この世界に来てからずっとお城の中で過ごしてたもんで、都会並みな人混みに遭うなんてなかったもの。食堂のごった返しの時は僕厨房にいたからね。
とにかく、映画のワンシーンみたいにお店に屋台に人に活気溢れてる界隈に来たら興奮しないわけがないもの!
「ふゅふゅぅ!」
「すげぇだろ? 美味いもんもいっぱいあんぜ?」
「ふゅゆゆゆ!」
男?同士の会話にクラウの興奮度はMAX。食べ物につられてどっかに行きやしないかとやっぱり心配になっちゃう。抱っこしてる方の手でお腹をぽんぽん撫でてあげた。
「ところで、用事ってなんなんですか?」
「あ? この屋台とかの飯買ってこいってさ」
「……それだけ?」
王様に頼むって一体誰が?
全然想像がつかない。そんな豪胆な持ち主なんて……と言うところでピンときた。
「ユティリウスさんですか?」
「あ? 違げぇよ。あいつなら自分で来るぜ? それとカティア、全員もあだ名で呼んどけここにいる間は」
「あ、はい? えっと……サイノスさんは?」
「アナが呼んでるみてぇにしとけ」
いけないいけない。王様達の名前を敬称付けとかしないで会話に持ち込んだらダメだね。けど、ユティリウスさんじゃないなら本当に誰なんだろう? 他の人って、僕ほとんどお会い出来てないからわからなくて無理ないよね。でも、屋台の食べ物買って来いってなんか家族のお使いみいたい……。
(アナさんやセヴィルさんじゃないし……?)
そう言えば、エディオスさん達のお父さんお母さんにはお会い出来てない。フィーさんにちらっと聞いた程度だけど、普段はお城でも離れた建物で過ごしてるようだから。だからって、式典最中に息子にわざわざ頼む程だろうか? 余計に頭が混乱していく。
「おい、カティア。止まったら流されるぞ?」
「うえ、はい!」
いつの間にか立ち止まってたらしく、くんと手を引かれたのに慌てて足を動かした。だけど、今度はエディオスさんが立ち止まったので何事?と顔を上げたらひょいっと彼の肩に乗せられてしまった。
「ぴょ⁉︎」
「この方がいいだろ。行くぞ」
「どーゆー納得の仕方なんですか!」
「買ったもんは腰の魔法袋に入れれるしお前を見失わずに済むなら片手くらいどうってことないから」
「一気に言わないでください」
そしてこれは決定ですか。
たしかに、背の高いエディオスさんの目線より高くなれば上から屋台は見下ろせる。ちょっと安定しないけど、利点はこっちの方があるのは違いない。
「あら親子かしら?」
「それにしては若いわね。お使いかもしれないわ」
「金の髪って珍しいわね。抱っこしてるのは聖獣? 可愛いわねぇ」
「お兄さんお嬢ちゃん、出来立てのジュースとかどーだい?」
「ふゅぅ!」
すれ違うお姉さんやおばちゃん達からそんな風に言われてしまってたけど、呼び込みのお兄さんに声をかけられたらクラウが過剰に反応しました。
「お、可愛い聖獣じゃないか? 飲みたいかい?」
「ふゅゆゆゆ!」
「く、クラウ! 勝手に行っちゃダメ!」
君の場合お店の商品全部平らげる可能性があるんだから!
「あー、喉乾いたしな。カティアも飲むか?」
「……お世話かけます」
エディオスさんのご厚意でジュースを飲むことに。僕とクラウはブドウのような味がするポワゾンって果肉入りのを。エディオスさんはそれの炭酸割り。グレープソーダってあったんだと関心。
「しっかし、迷子対策だからってほんとにそうしてんのお兄さんくらいですよ?」
「まあ、やわな鍛え方してねぇしな?」
「それは自慢することじゃ……」
「ははっ! 怒られましたね?」
「あ、ご馳走さまでした」
「ふゅ!」
カップは当然紙製じゃなくて金属製だったから返却システム。エディオスさんが一気に煽ってから自分の分と僕達のを返してくれました。
「今年の名物になりそうなもんは出来たのか?」
「ああ、それがお使いですか?」
「まあ、そんなとこだ」
実際はお城抜け出してきた王様だなんて言えません!
お使いは本当らしいけど。
「うーん……何故か肉とかよりはデザートが流行ってきましたね。まだ数日程度ですが」
「「デザート?」」
普通は塩っぱい系とかが多いのに、デザートが?
どう言うきっかけなんだろう?
「なんでも、宮城内で無茶苦茶美味いデザートが流行ってたんで真似してみたら当たりだったらしいんですよ。人だかりが凄くて、俺も行けてないですねー」
「……宮城内、か」
表面上は考えてる振りされてますが、内心は酷く焦っていることでしょう。広めた張本人の僕でさえ、冷や汗だーだーだもの!
また明日〜〜ノシノシ