123.式典祭3日目ー久々の飛行ー(途中別視点有り)
(うひぃー⁉︎ 高い怖い高い怖いたーかーいーー‼︎)
前に乗った時はエレベーターのように降りていくのだったけど、今回はほんとにお城の真上。
でも、怖がってるの僕だけのようでクラウはエディオスさんに抱っこされたままきゃっきゃはしゃいでいる。
「時間も限られてっし、ディに乗るぞ」
「うぇ」
「ふーゅぅ!」
抵抗しようにも落ちたらおっ死ぬしかないので大人しくしてるしかない。トントンっと地面を蹴ってからディシャスの鱗も同様に蹴って上を目指し、いつ用意したかわからない手綱のところまで来てからようやく下ろしてもらえました。
「ふぇ……」
「おいおい、まだ飛んでもないんだぜ? そっちにも慣れろよ」
「う」
そうでした、これからが本番。
とりあえずクラウを渡されてしっかり抱っこしてから、エディオスさんの脚の間に座らされました。普通ならときめくとこだろうけど、僕は今から起こる絶叫体験の恐怖でドキドキしかありません!
「ふゅふゅぅ!」
「クラウは初めてだもんな? 面白いぞ?」
「ふゅーーぅ!」
「僕は怖いです!」
なんで僕だけこんな目に⁉︎
でも、二人は全然そっちのけできゃっきゃはしゃいでいるからもう覚悟を決めるしかない。なので、エディオスさんの腕の中でがっくししてまう……。
「おっしゃ、ディ行くぞ! 場所は城下の手前だ」
「ぎゅるるるるぅ‼︎」
ディシャスは獣舎の中と変わらないくらいの咆哮を上げ、翼を広げて飛び立った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(レストラーゼ視点)
マジで儂もキレそうになるわい。
(……じゃが、引き受けてしもうたしな)
孫に凄まれた勢いのせいとは言え、あやつの影武者を演じねばならぬとは。
久しい玉座に腰掛け、態度も口調も姿も何もかも『エディオス』に成りきっている状態。
今は面倒な謁見の真っ最中。話半分に聞き流しとるし、そんな態度こそがあの孫らしいから控えておるもう一人の孫と縁戚の子も全く疑っとらん。
こう言う癖は儂譲りと言うことかエディめ、うまく使い分けておるわい。
「……陛下、聞いているのですか?」
「……ああ」
もう一人の孫、セヴィルが公的にしか使わぬ敬語にエディの声色と王らしい態度で相槌をした。とっくに気づいてもいい頃合いだが、式典最中からか念話すら寄こさずいつもの様子でいる。サイノスもそれは同じだ。もしくは、儂の変幻の質が高過ぎるやもしれぬ。ラディンのためだけに磨いてきたつもりが、こんなとこで役に立ち過ぎるとはの。
(……まあ、儂もエディに頼み事をしたからおあいこじゃな)
それにあやつは一人ではない。
昨日まで二日間共に厨房で働いていた小さな金の髪のお嬢さんにその守護獣も同行させると言っていた。どうも、城から出してないらしく気分転換させてやりたいそうだ。それには、儂もエディが案内に適任だと思った。あれほど儂以上に庶民と馴染める奴は王族でも少ないからな? 息子は温厚過ぎる上に押し売りに弱い。
(じゃが、儂も行きたかったわい‼︎)
しかし、素の『レストラーゼ』のままで城下に向かえば、姿絵が出回り過ぎているこの時期ではすぐに身元がバレて衛兵達に知らされて近衛が来るだろう。エディもきっと途中で何かしらの変幻はするじゃろうからその心配はせぬが。
(仕方ないわい。下町の馳走を土産にすることを条件に許したからの?)
先に提案されては呑まぬわけにはいかないわい。
わざとらしく嘆息してから、少しばかり謁見者達の話に耳を傾けることにした。
◆◇◆
死ぬかと思いました。
「ふーゅぅ?」
リバースしなかっただけ凄いよ。したら抱っこしてるクラウに浴びせちゃうもの。それだけは回避させました……。
「ほんと、ダメだなカティア?」
「ニホンジンハヨワインデス……」
「同じ異邦人だからって、ファルは平気で四凶乗りこなしてるぜ?」
「郷は郷にと言いますが、僕は初心者ですもん……」
今の僕達は豪速ジェットスピード飛行をやめて、ごく普通の速度で上空を飛んでます。ディシャスは久しぶりの外だからじゃ鼻歌のようなものを歌ってすっごくご機嫌さん。僕は一人酔ってぐったり。クラウは初めてなのにへっちゃらさんだ。何故だ。
「もうそろそろ着くが、治癒いるか?」
「……お願いします」
気分悪いまま練り歩きなんて出来ないもの。
素直に頷けば、エディオスさんは僕の頭に手を乗せてきた。
「癒せ、満せ、光孝の恩恵」
ゆっくりとした詠唱と同時に添えられた手からあったかい熱波のようなものが伝わってきて、温泉に浸かった時みたいに染み渡っていく。
それが突き抜けたかと思えば、気持ち悪さもだるさも瞬く間に消えてしまいました。
これはRPGかなんかで言うリカバリーとかの魔法ですか!
「ふぉお!」
「まあ、簡易的なもんだが平気そうだな?」
「ふっ飛んじゃいました!」
「効きやすい体質なのかもな? っと……ディ、降下しろ!」
「ぎゅぅるるぅ!」
合図と共にディシャスはすぐに体をうねらせて下に向かい、僕はクラウを、エディオスさんは僕をしっかり抱っこして落ちないようにします。前の時ほど凄いスピードじゃないから、今度はちゃんと下の風景を見れたよ。
「おっきい街ですね!」
レンガ造りだけど、おっきな塀に囲まれたひとつの都市が眼下に見えていた。
「一番近い、シュレインっつーとこだ。屋台の規模とか他に比べりゃだんトツにここがすげぇぞ?」
「屋台!」
と言うことは、日本のようなものはないけど食べ物の屋台がよりどりみどり……あ、いけない。朝食べてからまだそんなに経ってないのによだれが。
「お前もやっぱ食いもんに弱いか?」
「うー、否定出来ません!」
「だろうな。……よし、ディ止まれ。俺達は下まで転移すっからお前は適当にぶらついてろ。狩りは目立ち過ぎるからあんますんなよ?」
「ぐぅるぅ!」
エディオスさんの言葉にピタッと止まったディシャスは声を上げ、こくこくと頷く。
そして、エディオスさんは手綱を離したら僕とクラウを片手で抱え上げて、反対の手でまた懐から札を一枚取り出した。
「ちぃっと目ぇ瞑ってろ」
「あ、はい」
「ふゅ」
すぐに瞑れば、暗闇越しにも差し込んできた眩しい光に、僕らは包まれたと思う。
収まる頃には、上空で感じたような肌を打ち付ける風の勢いを感じなかった。
「もういいぜ?」
「う?」
「ふゅ」
ぱちっと開ければ、辺り一帯何故か森でした。
「なんで、ここに?」
「俺が何の対策もせずに行けると思うか? お前も目、変幻しとけ」
「あ」
そう言えば、寝る予定だったからいつもの虹眼のままだった。エディオスさんも変装するんだね?
降ろしてもらってからクラウを頭に乗せて魔術を自分にかけている間、後ろからシュバっと音が聞こえてきたのですぐに振り返った。
「…………おぉ」
髪色は前に見た藍色だけど、右目にはモノクルみたいな片眼鏡をつけて、目の色は紫じゃなくて黄色。
他はほとんどエディオスさんなのに、それだけで知的なイケメンさん!になってる!
「あ、この姿ん時はエディにしてくれ。エディオスは一応今の世代つけらんねぇ名前にされてっからな」
「了解しました」
風習ならしょうがないもんね。
まったく違う名前だと間違えそうだけど、愛称なら聞き慣れてるし? 一時的とは言え、最初躊躇った愛称呼びをするとは思わなかったなぁ。
僕達はエディオスさんに伴う親子か兄妹のようにして、シュレインの門に向かうことになりました。
また明日〜ノシノシ