109.式典祭1日目ー流行る流行るー(途中別視点有り)
予想はしてたけど、甘くみてました。
「ティラミスまた一瞬でなくなりましたーーっ」
「ちょっと、整理券作って渡したんでしょう? どうして100個以上持ってったのに一瞬で無くなるの!」
「その整理券順があっという間に……」
「しょうがないから、次は200個ね。これ以降は一旦打ち切りよ!」
「は、はい!」
「俺手伝うよ」
「マジで助かる!」
とまあ、一般開放されてからティラミスの売れ行きが激しいこと激しいこと。
他のお料理も売れ行きはいい方ですがティラミスの比ではない模様。イシャールさんはキレそうになりながらもフライパン振って頑張ってお料理作ってます。
クラウが時々応援行ってる時は、ちょこっと落ち着いているよ。
僕はシャルロッタさんの指示を仰ぎながらも、出来るだけスピーディにティラミス製造しまくってます。子供の体だからハイスピードで作業しちゃうとバテやすくなるから適度にね?
「カティアちゃん、リモ二入りのお水飲んで! 少し前から何も飲んでないでしょ? この後昼餉の交代だけど」
「僕まだ大丈夫ですよ?」
むしろ、ここからが本番タイムに突入なのにティラミス担当が抜けちゃう方がまずいんじゃないでしょうか?
とは言っても、僕はコーヒーシロップやチーズクリームを作る以外だと盛り付けばっかりだけど。
でも、その加減が難しいらしい模様。
分量はシャルロッタさんにも教えたけど、十分美味しく出来ても本人は納得いかないみたい。
「あら、ダメよ。つい頼りがちになってしまってたけど、君はまだ子供だし正式な調理人じゃないもの。ごはんいっぱい食べて体力つけるのも仕事よ?」
「……はーい」
そうだね、僕外見はお子ちゃまだから。
「それにしても手際が良過ぎるわ。ここに来る前はどこかで勤めてたの?」
「え、あははは……」
僕の目の前には小分けしたティラミスが200個程出来上がっている。レストランとかでたまに貸切バイキングやることあったから慣れてただけなんで、こう言うのは割と任されてたんだよね……。
それが異世界のことなんて言えますか? 絶対に言えない!
「リュシェイム副料理長! ティラミスの考案者を出して来いとかまで問い合わせが!」
とここで、若いコックさんが乱入。
ちなみにリュシェイムとはシャルロッタさんの家名。
「はぁ? そこは無理って昨日も一昨日も言ったのにまた?」
「今回は国民側の方です! しつこくてここまで入ってきそうなんですよ!」
「誰よ、そんな馬鹿は……っ」
考案者って当然僕のことなんだろうけど、僕のことを聞いてくる問い合わせする側もなんでだろ?
クリームチーズを除けば、材料はそこまで難しくないしお手軽なのに?
「シェイルとかを今ぶん殴りたい気分だわ……っ」
「おおお、落ち着いてください!」
「カティアちゃんのことは絶対守るから! 何かあっては閣下が絶対お怒りするだけですまないもの!」
「セヴィルさんが?」
あ、セヴィルさんのお怒りモードは予想出来ちゃう。この間みたいな阿修羅ばりの形相は勘弁です!
「うっせぇ! 文句あんなら入って来いや!」
「は?」
「え?」
「ぴょ?」
何事とイシャールさんの方に振り向けば、関係者出入り口の方に向かって叫んでいた。眉間には青筋が……。
「じゃ、遠慮なく入らせてもらうよ」
誰かわかんないけど、入ってきちゃった!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(???視点)
ふむ。相変わらず、この辺りは賑わっているな。
念入りに変幻した甲斐があり、誰も儂を『誰か』と判別出来もせぬようだ。
何せ、年齢詐欺する程偽っておるからのぉ。無理もない。
だが、今の姿での知人がいないわけでもないぞ?
「あれ? ラディンやん!」
「ん?」
ちょうど考えておったら、その知人の一人が声をかけてきおった。
相変わらず独特の言葉遣いじゃな?
職務中じゃろうが、かなり久しいこの姿との会合じゃからな。無理もなかろうて。
「やぁ、シェイル。職務中なのに言葉遣い戻ってるよ?」
「おっと、しまった。って、そっちが急に姿見せたからでしょう? ここ5年くらいまともに見かけなかったんだから、また旅に出てたの?」
「まあ、そんなとこだね」
近衛騎士団の一員のシェイルことシェイリティーヌ=フラスト=ハインケスティス。山吹色の毛艶の良い髪に水色の瞳が特徴の優秀な女騎士の一人だ。
自身の能力を鼻にかけず気さくで男女問わず交友関係が深いことでかなり顔が広い。そのおかげか多方面の情報を仕入れることが可能らしく、そこを見込んで今の『ラディン』の姿で近づいたのがきっかけだ。
もう、60年前か。儂もまた歳をとったのぉ。
シェイルが儂に"旅"と聞いてきたのは、変幻しない間の期間をそう誤魔化しているからじゃ。
実際旅はよくするので嘘ではない。奥さんにはよく怒られるがの。
「どこ行ってきてたの?」
「シェイル、今いいのかい?」
「この区画は私だけだから、ちょっとくらいいいわよ。てか、なんでこんなとこにいるの? ここ中層食堂の近くよ?」
「久しぶりにイシャール料理長のところに顔出そうかと思ってね?」
噂の真偽を是非とも確かめたくてな。
かったるい祭典の儀など嫌じゃわい。
エディにはすまんがの?
まだたったの50年目じゃ、慣れじゃよ慣れ。
「イシャール料理長のとこ? 今無理だと思うよ」
「なんで?」
これは態とじゃ。シェイルからもいくらか情報をもらいたいからのぉ。
「噂知らないと思うけど。一昨日くらいから出した新作のデザートのせいで人混みがいつもくらいじゃ済まないらしいの。さっき交代前に見に行ったけど、国民側にもやっぱ伝わってたらしくって地獄絵図だったわ」
「じ、地獄絵図?」
儂の情報ではまだそこまではなかったが、何やら大変のひと言で済まぬようじゃのぉ。
「ありゃ、例のティラミスってお菓子のせいよ。私だってまだ食べれてないのに、幸せのお菓子だーっとかで食べれた近衛騎士の間でもリピーター続出よ!」
「そんなに美味しいの?」
「味の感想だけは聞いたわ。なんでもほとんど生クリームなのにさっぱりしていて、間に挟まってる甘くしたコフィーをたっぷり浸した卵ケーキっぽいのが層になってて……何度お代わりしても飽きないって伝説化してるわ!」
「へぇ、伝説?」
そこまでの逸品か。
やはり、自分の目で確かめたいのぉ。
それともう一つ。
「そのお菓子をわずか80歳のお嬢さんが考案したのよ? 信じられる?」
「その様子だと会ったことあるの?」
「ええ。今朝久しぶりに会えたわ」
「久しぶり?」
「最初は閣下とご一緒に城内を歩かれていた時にたまたま」
「クレスタイト宰相?」
ふむ、あの者に聞いた話と一致してきたな。
シェイルが一部の近衛騎士らとゼルを尾行したことはこれではっきりとした。儂は別に咎めぬぞ? もうその職務にはついていないからのぉ。
「女性もだけど、子供が不得手なはずの宰相殿が珍しいね?」
「ラディン、それ絶対閣下の前で言うたらあかんあかんあかん‼︎」
「シェ、シェイル、揺らさないで!」
この身体、構造まではそこまで弄っておらんぞ!
儂が鍛えていなければ、女性と言えど近衛騎士団の腕力では普通失神ものじゃわい!
「あ、ごめん」
「はー……でも、そんな小ちゃな子供が本当に作ったの?」
「シャルから直接聞いたんで間違いない!」
「……それなら、頷けそうだね」
ラディンの数少ない知人の一人からもそう聞けているのなら、確証は持てる。彼女達はお互いに学園からの親友じゃからな。
「だったら、余計に僕が手伝いに行った方がいいんじゃないかな?」
「止めても行くでしょ?」
「まあね?」
今の儂は、流浪の料理人ラディンだからの!
儂料理出来るんじゃよ。奥さんにもしょっちゅう振る舞うくらいの! 子供らが小さい頃にもよく作ったわい。
ひとまず、シェイルとはそこで別れて中層の食堂に向かうことにした。今は昼餉近いが、例のお菓子のためにわざわざ来るとは皆凄いのぉ。儂も一応その一人じゃが。
(……………凄いで片付けれんのぉ)
儂、一瞬式典にいた方が良かったと思いかけたわい。
それくらいの人だかり。ここ一応宮城内じゃよな?
「また売り切れだって!」
「整理券配ってて順番待ちしてても半刻待ったよ!」
「あたし、昨日も一昨日も食べれなかったんだから絶対待つ!」
「今日は考案者本人がいるらしいから、昨日までとは段違いに美味しいんだって!」
「「「『なら待つ!』」」」」
儂も食べたいがこの様子じゃ簡単には無理そうじゃな?
半刻もと言うことは他を放ってまでここに来る価値はあって正解じゃの。儂ほどではないが変幻してまで紛れておる国内外の大臣もおるからな。
よっぽど美味いのじゃな。是非とも伝授してもらいたいものじゃ。
「ごめん、通して」
長蛇の列とは逆の方向に進み、久しく訪れていない厨房の入口へと目指した。
「だーから、考案者にちょっとだけ会わせてくれって!」
「困ります! 彼女も仕事中ですし!」
「いいじゃないちょっとくらい!」
ふむ、どこの国民かは遠目で見えんが、例の子に会わせろと厨房の者に問い詰めておるな。
これは見過ごせんのぉ。
儂は気づかれぬよう其奴らの背後まで近づき、わめき散らしている男の肩を掴んで捻り上げた。
「いててて⁉︎」
「な、何⁉︎」
「ここは中層とは言え。神王国の国王陛下のお膝元だよ? まして、問い詰めようとしている調理人は陛下の御客人との噂だ。下手なことはしない方がいいと思うよ?」
「は⁉︎」
「か、関係者なの、あんた?」
「正確には、ここの料理長達の方だけどね。あ、久しぶりだねハルンスト君」
「ラディンさんですか!」
対応していたのは見知った調理人の一人じゃったな。
これならイシャールに会わせてもらえそうじゃの?
また明日〜ノシノシ