遠目から見れば婚約者同士ですわ!
満足してにこにこするリリアヴェルの代わりに偽メグレンが端的に説明をした。
「今回の騒動を起こした罰として、メグレン皇太子が戻るまでの期間、リリアヴェルと一緒にいる事になった。それだけだ。敬意ははらわずとも良い」
とは言われても、見た目は皇太子。
しかも中身は魔女とくれば、それなりの対応をしなくてはならない。
「分かりました……が、暫く共に過ごすのですから、魔女様に対する敬意は払わせて頂きます。何か必要な事があれば、お申し付けを」
「分かった」
「では帰りましょう」
二人の話が落ち着いたところで、リリアヴェルは来た時と同じように愛馬に跨った。
その後ろにひらりと偽メグレンも乗る。
「あっ!どういたしましょう!メグレン様以外の方と同じ馬に乗ってしまいましたわ!!」
慌てたようなリリアヴェルに、周囲の目が生温かく注がれる。
偽メグレンは、気にした風もない。
「中身は女だから、異性ではないし、問題ない」
「……そ、そうでございますわね。それに、遠目から見ればメグレン様とわたくしですものね」
わざわざ遠目って言う必要ある??と思ったがキャスリーは静かにしていた。
だって、周囲の人間から見れば、メグレンもメグレンであり、メグレンその人にしか見えないのだから。
見破れるのはリリアヴェルくらいなのである。
暴れ馬に蹴り上げられた上に、口にくわえられて連れ去られるが如く、キャスリーは偽メグレンとして王国に連れ帰られたのであった。
帰るとなれば、行きと同じく脇目も振らないリリアヴェルである。
半日かけて、王城に辿り着いた。
夜更けに城を出て、国境に着いたのが深夜、森に着いたのは夜明け前。
森からメグレンが脱出したのが朝である。
リリアヴェルは昼頃に森を出立して、今王城は夜の闇に包まれていた。
僅か一日の出来事だったのが、夢のようである。
ラウレンツにとっては。
だが、目の前には目を疑うような光景が広がっている。
面倒臭そうな顔をした偽メグレンを、キラキラと見上げるリリアヴェルは時折、「まあ、新しいお顔ですわ!」と楽しそうに笑っていた。
この令嬢、寝ていない筈なのである。
何故もこんなに元気なのだろうか。
活力に満ち溢れすぎている。
色々とおかしい。
見た目は可憐で美しく可愛らしい、ふわふわの妖精のようなのに。
仮眠をとった騎士達ですら疲れを隠せていない。
城に着いたら交代要員と交代して帰宅して行ったが、リリアヴェルは元気よく城を闊歩している。
疲れているのに無理をしている……体ではない。
元気溌溂だ。
何かそういう栄養を摂っているのだろうか。
半眼で観察をしていると、出がけにリリアヴェルを足止めしようとしていたヒューゲルトがやって来た。
その顔は非常に……非常に残念そうに眉根を寄せている。
「ああ、戻ったのかメグレン」
その途端、何とも言えないニヤァというえげつない表情を、偽メグレンがした。
さすがにそれはリリアヴェルとて失望するだろう、と思いきや。
「まああ……!メグレン様が絶対しそうにないお顔ですわっ!」
……うん。
傍らの天使は大絶賛である。
少し様子がおかしい。
恋は盲目と言うが、盲目を軽く通り過ぎている。
「ん?メグレンが、絶対にしそうにない顔?」
「ええ、メグレン様ではございませんので」
はっきりくっきりそう言って、笑顔を向けるリリアヴェルに、問いかけた方のヒューゲルトが絶句する。
そりゃそうだ、とラウレンツも思うし、視線を向けられて頷いた。
だって、森の外で理由を聞かされた騎士やラウレンツも、吃驚したのだから。
魔女をそんな風に使役する令嬢なんて世界広しといえども、目の前の女性しかいないだろう。




