罰ではなくてご褒美ですわ!
雷が鳴らないと離さないという伝説のすっぽん令嬢に食いつかれて、アディラは小さい頃のメグレンの話を洗いざらい吐き出したのである。
と言っても、アディラは引きこもりの魔女であり、帝国人は森に近寄らない。
儀式の時にしか来ないので、メグレンと会った回数は非常に少ないのだ。
生まれた時に、祝福を授けた。
皇帝皇后両陛下から、美貌も武勇も知性も受け継いだメグレンに何を与えればいいのやら、と思ったものだ。
だから、孤高である王を癒すための永遠の愛を授けようかと思っていたのだが。
魔女の祝福は、呪いでもある。
うっかり使い方を間違えれば、悲惨な結果になってしまうものだ。
だから、堅実に「不屈」という加護を与えた。
苦難に負けない男であれば、いずれ自らの手で運命を切り開き、愛する女性を手に入れられるだろう。
「それで、メグレンが手に入れたのがリリたんってわけ」
にこにこと無邪気に笑うアディラに、リリアヴェルは幸せそうに微笑んだ。
「ふふっ、今のメグレン様があるのは、魔女様の偉大なる御加護あってでございますのね」
「……でも、会った回数は少ないの。皇太子になったのもここ二、三年の話だし」
「左様でございましたか。とても親し気にされていたので、仲良しだとばかり…」
「貴女とリーシア程行き来している人達は、本当に稀なのよ」
リリアヴェルとリーシアは、リリアヴェルが十二歳の時に会って以来、月に一度は会っている。
頻繁過ぎると、アディラは驚いたものだ。
「リリアヴェルお嬢様も、そろそろ、お戻りになりませんとカイン様や公爵様が心配されます」
メツィアが気づかわし気にそう言えば、リリアヴェルもハッと思い出した。
魔女達からも根掘り葉掘りメグレン情報を掘り起こして、需要を満たしていたのである。
根っこどころか、周囲の土も掻き出す勢いだ。
「そうでしたわね!いけませんわ。……でも、あの、一つだけ茨の魔女様にお願い事があるのですが」
「良いだろう」
「ちょっと!何でアンタが勝手に返事をするのよ!」
もじもじと身体をくねらせたリリアヴェルのお願いを、リーシアが速攻で許可した。
キャスリーは文句を言ったものの。
「まあ、いいけど……何?」
「メグレン様が王国にお戻りになる迄の間で良いのですが」
「………嫌な予感しかしないんだけど」
そしてそれは当たっていた。
リーシアはニヤリとして、アディラも同じくニヤリとする。
「中身は違うといえども、大変よく似ておいででしたので、メグレン様の御姿になって、お側に居て頂ければと存じますの!」
「……そうきたか」
大した事ではないけれど。
労力だって少ないけれど。
何でほんの少しの間だけでも好きだった男の姿になって。
何でその男の婚約者に侍らなくてはならないのか。
とんだ罰である。
「ちょうど良い罰ではないか。行っておいでキャスリー」
「そうよそうよ、名案だわ!」
外野の魔女二人に囃し立てられて、キャスリーは渋々リリアヴェルのとんでもない申し出を受け入れたのである。
「仕方ないわね……やればいいんでしょ、やれば!」
そして、魔女達との別れを惜しんでから、リリアヴェルは偽メグレンの手を取って、森の外へと急いだのである。
「リリアヴェル嬢、よくぞ戻られ……え?」
「「!?」」
ラウレンツが声をかけて、リリアヴェルの隣にいる偽メグレンを見て、驚愕の表情を浮かべる。
「あれ……大分前に皇太子殿下は帝国に向かわれた筈ですが……」
「ええ、こちらは魔女様でございますの。安心なさってくださいませ」
何を安心しろというのか。
皆はさすがにどう反応して良いのか分からずにいた。
いつも斜め上に勢いよく飛ぶお嬢様なのである。




