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魔術師たちの匣庭  作者: こたちょ
5章 魔物編
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30. 望んだ終わり

 

 何度も叫んで叫んで、らしくもなく祈って、暗闇にぶつかり、転がり、全速力で飛行した。亀裂という光の線はいつしか暗闇全体に走り、もう少しで脱出できるのではないかと期待した。

 ファリャは閉じ込められたのだ、と遅れて気づいた。世界の進行に邪魔だから眠らせられたし、閉じ込められた。一人の人間の手によって、手も足も出ない状況に陥る。そこがなんとも悔しく、不甲斐ない。


「    !     !!」


 何度叫んだかわからない。現実世界ではないというのに、叫びすぎて喉が切れたらしい。声帯が損傷し、声が出なくなっている。

 嫌な想像は焦燥を掻き立てるのに十分で、危機感が身を焦がす。

 今まで、適当に、ヘラヘラと、自分の思い通りに事を進めてきたが、これは流石にまずい。リセットに胡座をかき、責任感のない選択を繰り返し、全方位に迷惑をかけ続けた。

 今に至るまで、それなりの反省はあったが、あくまでもそれなりで。今この時ほど焦ったことはないのではないか。過去何千年の報いを一気に受けている気分だ。


 永遠とも思う間飛び続け、突然暗闇から抜けた。


 夢から覚めたような、狐に抓まれたような、魔物に化かされたような。突然、現実の世界が目の前に広がり、ファリャは絶句する。

 ファリャを閉じ込めていた魔術陣が足元に光る。夜が深いのか、辺りは真っ暗で、その中に人影が静かに動く。


「サーシャ。待たせたな。説明もなく閉じ込めてすまなかった」


 弟だ。呆然とするファリャの頭を撫で、浅く呼吸を吐き出した。その後ろで大柄な男が立ち上がり、ファリャを抱き上げる。


「ファリャ。……ふふ、随分呆けておるな。心配するでない。そなたにもわかるよう、全てを説明しよう」

「ファリャちゃん〜! ミッションクリアよ〜! 私たち、頑張ったんだから〜」

「…………(コクコク)」

「ナカナカニ ホネガ オレタノウ」


 安堵と安寧の空気。暗闇でもわかる、彼らの上機嫌な笑顔や声色を聞いて、ファリャは血の気が引いた。

 異次元に閉じ込められ、暇を持て余し、ただ悪い妄想に取り憑かれただけ。……そうだったら良かったのに。

 見渡す限り、森がない。むき出しの大地の上に立ち、どこまでも平野が続く。水源の気配もない。風も吹かない。誰も火を灯さない。魔物とのキメラになってしまったファリャですらわかった。今まで近くにいた精霊の存在を感じない。


「…………」

「……サーシャ」

「…………」

「もしかして、気づいたのか? 私たちが、何をしていたのか」


 ギクシャクと頷く。頷いたが、否定して欲しかった。しかし希望はあっさりと打ち砕かれる。「やはり、君はサーシャではなく、ファリャだな」と、若干のため息をついて。


「想像した通りだ。全ての神が寿命により消えた。神であるから、相当に手強かった。君を守ることに精一杯で、何の手も出せなかった」

「人間は、でしょ〜? アマデウスちゃんは世界中の魔物をかき集めて、神様一人、やっつけたんだからねん♪ 本当に素敵だったわ〜♡」

「そうだったな」

「だからアマデウスちゃんが一番偉いのよ? 何が言いたいか、わかるわよね?」

「いや、わからんな」

「……ワカットルジャロウ。ツギノ オウハ……」

「そうそう! アマデウスちゃんが王様になるに一択〜!」


 夢魔が何かを言い、わっと歓声が上がった。気づかなかったが、自分たち以外にも相当な人間がいる。ミーティーの民だけでなく、他の国の人間も。人間を取り囲むように動物たちも静かに様子を見守っていた。


「サーシャが『みんな』というから、可能な限り、『みんな』を守った」

「攻撃対象がファリャさんでしたから。自然災害からのシェルターを作り、『みんな』を、そこに押し込めただけです。そんなに大変じゃなかったですよ」


 ルートヴィヒの言葉を補足したのは、少し前に会ったアンリとルネだ。どうしてここに、と、そんな疑問も今はどうでもいい。

 たった一年。たった一年もの間でこんなにも世界が結束している。来たる世界の崩壊に備えてそれぞれがそれぞれの最善を選んだ。


 喜びの声、祝杯を上げる拳、止まることを知らない希望の渦。ファリャはずっとその空気に混じれない。知られていない計画や、仲間はずれのせいではない。もっと、根本的に、いなくなってしまった存在が台風のように心を揺らす。


「もうすぐ、0時を回る。……未来だな。サーシャ?」

「ファリャ。そう落ち込むな。風も水も火も、我らが生み出す。世界は再構築できるのじゃ」

「今は辛いだろうが、傷はいつか癒える。私がずっと共にいる」


 労わるように背中を叩かれ、「未来に進め」と言われた気がした。

 けれどもファリャの望んだ世界ではない未来。とても進める気にならない。絶望という囲いに囚われ、けれども檻の外は希望で溢れている。この温度差が気色悪い。


 自分で自分の首に手をかける。この責任感のなさが我ながら困る。弟も、親友も、自分のことを思って、安全なレールを敷いてくれたのに。そんな気持ちを踏みにじり、またも巻き戻ろうとしている。

 ルートヴィヒもアマデウスも、一瞬自分を見てギョッとしたが、こちらの動きを止めはせず、悲しそうに笑みを浮かべるだけだった。……そうだ、自分は今、フェニックスと同化していて、死ぬに死ねないのだ。


 自分のことですらままならない。

 思わず天を仰いだ時、星々が輝きを放った。


『「助けて」って、言ったでしょ』


 その声が耳を通過するやいなや、無数の隕石が大地に降ってきた。


5章登場人物まとめを活動報告に記しました。

6章へ続きます。

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