最終話(本編28話)一粒の麦
死亡の宣告。といっても俺はまだ完全に死んだわけじゃない。 人工心肺につながれてかろうじて生かされている状態だ。そんな修羅場に、両親や妹のもとにとある政府機関の人間が面会を求めてきたのだ。
「親御さんは『鞍馬光平法』をご存知ですか?」
鞍馬光平法とは生体型コンピュータの進歩のために脳を提供した少年の名に因んだ法律で、家族か本人が希望すれば生体脳を生体型コンピュータの研究のために献体できるという法律だそうだ。
「お兄ちゃんが言ったの。僕は『一粒の麦』になりたいって。」
俺の言った意味と茉莉の取った意味はきっと違うと思う。
これを盾に茉莉は、渋る両親を説き伏せた。きっと俺が、たとえ一部だけでもどかで生きてい て欲しい、という気持ちがそうさせたのだろう。こうして俺は、いや俺の脳は生体コンピューター「オモイカネ」のパーツとして移民宇宙船イザナギに載せられ宇宙へと旅立ったのだ。
目覚まし時計の音のような電子音で俺は目が覚める。目を開けるとそこには、金髪の長身の男が横たわる俺を見おろしていた。
「ここは?」
病院ですか、と尋ねようとして俺は止めた。なぜかえらくアンティークな部屋にいたからだ。
「天国ですか?」
と尋ねて俺は後悔した。俺にはそこへ行く資格はない。
「宮廷魔導士マーリン」と名乗る男は、俺の脳がイザナギに載せられたいきさつと、俺を含むシステムがジャスティンという統合人格プログラムの暴走によって危険にさらされ、移民宇宙船のクルーたちの命が危ないことをつげた。そして、その暴走をくいとめ、人類を守るための新たなコンピュータ統治システム「キング・アーサーと円卓の騎士」(King Arthur AND Knights of Roundtable)が必要であることを告げた。これは12の人格による合議制によってコンピューターを統括するというものだった。いわゆる、コンピューター制民主主義とでもいうのだろうか。
「あなたには円卓の騎士の一人となって人類の未来を守っていただきたいのです。」
マーリンの話はどこぞのマンガかアニメの話にしか聞こえなかった。
「自分の身一つ守れなかった俺が?」
俺は自嘲的に尋ねた、というよりはできない、と断ろうとしたのである。
「もう一度チャンスがほしいとは思いませんか?不知火尊君。」
マーリンはたたみかける。
「あなたは妹さんを守れたじゃないですか。りっぱなお兄さんですよ、あなたは。たとえ世界のすべてを敵にまわしてもあなたは茉莉さんのために戦ったでしょう。あなたは人を殺したことを悔やんでいます。それは正しいことです。でもあなたが今やらなければもっと多くの人が死ぬことになります。そして、その責任の一端ははあなたにも生じることになります。いったいあなたはあと何人の命を殺めたいのですか?」
そうか。俺には罪を償う権利と義務、そして自由がある。後悔はそのあとでいい。
「わかったよ。対して役に立ちはしないぞ。期待外れとかいうなよな。」
俺は立ち上がった。すると俺の体は青で縁取られた白銀の西洋甲冑で包まれた。
「尊、今日からあなたはパーシヴァルと呼ばれるでしょう。」
マーリンが俺に剣を渡す。
「円卓の間にご案内します。こちらへどうぞ」
歩き出した俺はふっと笑みをこぼした。
「どうかしましたか?」
マーリンが怪訝そうに尋ねる。
「いや、展開がほら、中二だな、って。」
俺の答えに
「あなた、高2でしょ?」
マーリンがまじめな顔で切り返す。俺は笑いながら
「その通りだ。俺は高2だ。ただし、二度目のな。」
俺は剣を手にする。誰かを殺すためではなく、そう、まもるために。
かつて昔の救世主はこう云ったという。
「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」
俺は死んだ。そして俺の死はだれかの救いにつながっている、ということなのか。そうであれば、俺は自分のすべてを人のために活かそうと思う。それがこれから俺が背負う十字架だというのであれば。
いかがでしたか?明日から本編にて第5章に突入します。エルフの嫁が近日登場!
配信は明日の正午に予定しています。




