第3話(本編27話)俺の今わの際の言葉が超絶カッコ悪い件
ようやく茉莉が呼んでくれた警察が来たらしいのだが、もはや俺に意識はなく、目が覚めるとそこは病院のベッドの上であった。
まあ、本当はそこからが大変だったんだけど。警察による厳しい取り調べが続いたんだ。
ジェフはシドニー郊外(といっても自動車で半日以上のレベル)の村の有力者の子息で、フダ付きの不良だった。同様の手口でこれまで何度も卑劣な犯行を重ねていたらしい。
そしてビルは、こちらに来てからの友人というか取り巻きだった。やつらの犯行の動機は、茉莉に何度も交際を申し込んだのにすべからく断られてしまい、何とか自分のモノにしたかったらしい。
モノじゃねえよ、女の子はな。
結局、いくつもの防犯カメラに残されていた動画から、俺の主張が正しいことが認められ、ようやく正当防衛が認められた。
刑事さんは
「 しかし、的をみないであれだけ正確な射撃ができたらプロどころじゃない腕前だなあ。特殊部隊からスカウトがくるほどのね。」
と擁護してくれた。俺のスマホにガンゲー(射撃ゲーム)が 一つも入っていなかったことからも、偶発的なものと勘案されたらしい。
だからといって正当防衛が認められたところで俺が日常生活に復帰できたのはごく最近のことだ。PTSD(心的外傷後ストレス)と診断された俺は、しばらく通学するどころか家からも出られず、結局、出席日数不足がたたって晴れて妹と同級生になったのである。
まあ、俺が立ち直れた、というか何とかここまでたどりつけたのも妹の支えが大きい。
茉莉は毎日学校から帰宅すると俺の部屋に立ち寄り、学校の話をしてくれた。俺は毎日茉莉のにためにスイーツを作り、待っているだけの生活だった。
ほかのことをしようと思っても、だるくて身体が全くと言っていいほど動けない。ただ、スイーツを作ることが、あたかも自分の存在を証明するもの。家族と自分の絆。だったのかもしれない。
それも嫌になって全部投げ捨てたくなる衝動に何度も襲われた。
でも毎日茉莉が
「助けてくれてありがとう。」
と言い続けてくれた。
やがて、訪問カウンセラーを部屋に入れられるようになったり、自分からも出かけられるようになった。
驚異的な回復なんだそうだ。ただ、あの場面と同じ夕暮れ時はどうしようもなく恐ろしくて、体が震えて止まらない。
皆もよく、俺を励まそうとしてか、妹を守った「ヒーロー」だね、といわれることがある。でも俺はヒーローなのだうか。
確かに、戦争は恐ろしい。こんなことをさせるために……いや、誰かを守る結果として人が死ぬ、そう考えないと気が狂いそうだ。
俺が立ち直るきっかけになったのは、茉莉の言葉だった。
無論、茉莉自身の言葉というよりは、誰かの言葉だったんだろう。彼女は俺のためにいろいろカウンセリング関係も勉強してたからだ。
「お兄ちゃんが死んでも償いにはならないんだって。死んだら痛みも苦しみも存在しないから。だったら、苦しみながらも生きて罰をうけようよ。彼の死は私にも原因があるんだし。ね、お兄ちゃんは償う義務と権利と自由があるんだよ。
お兄ちゃんを罰しているのは法律じゃない。お兄ちゃん自身よ。
だったら、お兄ちゃんが自分で判決を言い渡せばいい。受ける罰を決めればいい。-ただし、死刑だけはだめだからね。私も手伝ってあげるから。」
それから俺はボランティア活動を始めた。老人ホームや保育園で、お菓子作りをするようになった。学校にはなかなか足が向かなったが、おいしいものを食べた時の皆の笑顔が俺を癒してくれた。
また、俺もカウンセリングの本などを読むようになった。俺は「一粒の麦」という言葉がとてもすきだった。
「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」
まあ、言ったご本人の意図とは違うのだが。俺はただ自分のためだけに生きようとしても誰も幸せにはできない。死んだつもりでみんなのために働けば、みんなの笑顔、それもたくさんうみだせるかもしれない。そういう意味で考えたのだ。
その話を茉莉にしたら、うなずいてた。少し涙をうかべて。
ありがとう、茉莉。でも俺は人を殺してしまったという十字架を、この先一生背負っていかなければならないのだろう。でもそれは俺一人の仕事だ。お前を巻き込むわけにはいかない。
俺が感謝の気持ちで傍らの妹を見ながら歩いていると、突然強い殺気を感じる。俺は死角からいきなり何者かに激突され、そのはずみで転倒する。
俺にのしかかった男はふらつきながら立ち上がる。逆光で顔はみえないが手には光るものを持っていた。ナイフだ。それも果物の皮どころか獣の皮すら剥ぐことができそうなほどの大きなやつだ。
俺は激痛とともに、下半身に生温かさを感じた。ぶつかったくらいで失禁しちゃうとは、お爺ちゃんか俺は。しかも赤いし。血尿なんて、親父の世代の話… 。血?
「なんじゃあこりゃあ?」
ここで言えたら大うけなんだけどなあ。俺は激痛のあまりのたうつことさえできずに空を仰ぐ。真っ青な空だ。周りは騒然とする。悲鳴があがり、パニックになる。俺は去年以来の脂汗というものをかいていた。
「兄貴の仇だ。」
俺を刺した男は震える声で告げる。彼は俺が昨年殺してしまったビルの弟ロイであった。
「こいつは死んで当然だ。ざまあみろ!」
周囲の人間に取り押さえられながらそう叫んでいた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
妹が俺を抱き上げる。 俺の意識が飛ばないように呼びかけているのか。茉莉は真っ青な顔をしている。
「お願い!誰か救急車呼んで!」
違うな妹よ。そういうときは「衛生兵!!」と叫ぶのだ。きっとうけるにちがいない。現実でなければ、だが。
「茉莉」
俺は血で濡れた手で妹の袖をつかんだ。
「なに、お兄ちゃん。」
茉莉は大きな目から涙をぽたぽた垂らしながらおれを見つめた。
「冷蔵庫の一番上の卵な。あれはプリン用だ。弁当に使わないでくれ」
「バカ、こんな時に何言ってんの?」
あれ、いま一番気になっていることを伝えたらおこられてしまった。女の子は難しいな。
俺の頭は混乱していた。死んだら茉莉や家族や友達ととは二度と会えないという恐怖。そして、やっと罪から解放されるという安堵感。
「俺は一粒の麦に……なれるだろうか。」
俺の意識は急速に遠のいていった。
俺は救急車で搬送された。刺し傷は心臓近くの動脈も傷つけていたらしい。その未明、俺は死亡を宣告された。
すいません。血がドバドバ出ています。次回短編(本編4章)最終回。明日正午配信予定。




