↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王立軍士官学校の聴講生  作者: ナナダイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

第一話 騶強龍弱の学舎(1)

 1



 その学校は峻険な山が聳える最果ての地にあった。人々を寄せ付けまいとする濃い瘴気(ミアズマ)が重く垂れ込めた呪われた土地である。美しい湖は毒沼となり、湖畔を鳥たちの白い屍が埋める。森の木々は枯れ果て、生気のない枝を天空へと虚に伸ばしている。大いなる邪神に助命を乞うような姿に旅する者たちは思い出すのだ。ここがかつて勇者と魔王が世界の命運を賭けて死闘を繰り広げた場所だということに。


 そして、勇者が敗北した場所だということに。


 世界は魔王の手に堕ちた。


 最初は多少の混乱があったものの、すぐに落ち着きを取り戻し、平穏な暮らしが戻ってきた。魔王は世界統治に勤しみ、人心掌握に努めた。この学校もその一環である。最先端の学問はもとより、魔術、剣術、武術なども学べる魔王立軍士官学校は人々の憧れであった。世界中から集まった優秀な若者が数々の難試験を潜り抜け、一級品の原石と認められた者だけが入学を許される超絶エリート校。全寮制であり、衣食住医と授業費は完全無料。その上、将来の就職先まで保障されているとなれば、親世代までもが魅了されてしまうのは当然のことであろう。


 森の入り口に古びた荷馬車が停まる。幌のない大八荷車だ。御者と荷台にふたつの人影が見える。座板からひとりの少年が飛び降りた。色素の薄い肌に鳶色の瞳。か細い手足の小柄な少年は大きく膨らんだボロボロのショルダーバッグを斜めがけにすると、御者の老人と座板の老婆に「いってきます」と頭を下げる。

「しっかり学ぶのですよ、チップ。聴講生とはいえ誉れ高き魔王様の生徒なのですから」

「そうだぞ、チップ。おまえが奮闘すればセラの村にゃ傑物が眠ってるって評判になってよ、弟分のバントや妹分のエバース姉妹が受験の時、優位になるかもしんねぇ。なんでも成績順位で一位に輝きゃ魔王軍の幹部にもなれるって話じゃねぇか。しっかりやるんだぞ」

「ははは⋯⋯がんばります」

 頼りない苦笑で激励を受け流すと、改めてふたりに「いってきます」と挨拶をする。ふたつの笑顔に見送られ、チップは銀色の髪を揺らしながら森の奥へ向かって駆け出した。


 聴講生はすべての授業に参加できるわけではない。


 修学殿で座学を終えた一年生が群を成して歩いていた。次の授業に備え、濃霧に煙る木立の間を錬士場に向けて移動しているのだ。幼年期の頃から神童ともてはやされ、親の期待と実績に裏打ちされた溢れんばかりの自信でギラギラと輝いていた一ヶ月前とは別人のように皆の顔は憔悴しきっていた。慣れない寮生活と厳しい上下関係。キャパオーバーの勉強量と課題の数々。限界をとうに超えた者たちは、気力のみで定められた日課を機械的にこなすゾンビと化していた。


 うごめくゾンビのひとりが誰にともなく呟いた。

「次の魔法実技の授業に聴講生も参加するってな」

 その言葉が回復魔法の呪文であったかのか、ゾンビたちの目にわずかながら生気が戻る。

「やったぜ。溜まりに溜まったうっぷんを存分に晴らさせてもうおう」

「あたしもイライラが止まらなくて夜も眠れなくなってたのよね。思いっきりやらせてもらうわよ!」

「聴講生って前にも来てたあの図体だけデカいオッサン?」

「あいつは前にオレらにボコられて、すぐに辞めたって聞いたぜ?」

「じゃあ、新しい人か。かわいそうに」

「かわいそうなもんか! 聴講生に選ばれたってだけでデカいツラしてんだぜ。就職に有利ってんで適正なしの慮外者が気軽に応募しすぎなんだよ」


 森の奥に向かって駆けるチップと森の中を急ぐ一年生。ふたつの運命が今、錬士場で交錯する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。