第2話
青白い光に包まれたかと思えば、気がつけば別の空間にヴィクターは転送されていた。
色塗りを忘れたような風景が360度広がっている。
ヴィクターは、その見たことのない世界を、食い入るように見ていた。
「ハッハッハ!ようやくお前の順番か!!まあ、そうしたんだがな。」
「な、なんだ!?」
ヴィクターはとっさに耳を塞いだ。頭に直接声が飛んできたような感覚がしたからだ。
「無駄だ。塞いだところで聞こえるようにしているからな。」
目の前に巨大な椅子、そこに座る存在が一瞬にして現れた。ゲームの処理が後から追いついたときを思い出す。こんな登場をする奴はただ者ではない。
真っ白な巨体を持ち、生殖器が見当たらない。顔には三つの点があり、逆さ三角の頂点を結ぶように点がうたれている。
「やあ、ヴィクター。君をずっと待っていたのだよ。」
「......、スペキュラオスだ、本物だ!漫画とそっくりそのままの見た目だ!!」
ヴィクターは目の前の憧れた存在に目を輝かせた。
「フフフ.....、ファンサービスは後だ。面接をしに来たのだろう?さあ.....、掛けたまえ。」
スペキュラオスはこちらに手をかざした。
「な、いつの間に....」
背後にはさっきまで無かった椅子が用意されていた。
ヴィクターは席についた。
「よろしくお願いします.....。」
ヴィクターは軽く会釈をした。
「ハッハッハ!まあ、結果なんて端から決まっている。ヴィクター、君は合格だよ。」
スペキュラオスは手で大きく丸を作った。どこからかピンポンという音が聞こえてきた気がした。
「ワタクシがルクスガーディアンを志望し.......、え......ご、合格!?それは一体......、」
ヴィクターはメモ用紙を広げて、読み上げようとしているところだった。長々と志望理由を書いてきたようだが、その頑張りも良い意味で無駄となった。
「君が合格した理由......、それは......」
「それは.....、??」
どこかでドラムを叩く音が聞こえた気がした。
「完全に私の好みだ!!」
スペキュラオスは指パッチンをした。
「え、......こ、好み??.......、え??」
気まぐれな神様のお告げによって、ヴィクターは困惑していた。友達に車になってほしいとお願いされたときのような動揺だった。
「そうだ。ヴィクターよ。君は、プリズムを見ているだろう??」
スペキュラオスはヴィクターの部屋のビジョンを映し出した。
「あ、ああ。大好きだよ。漫画も映画も、アニメだって......」
ヴィクターは指で数を数えている。
「そこだよ。そこだ、ヴィクター。このプリズムという作品は私がモチーフとなっている。」
スペキュラオスはヴィクターに顔を近づけた。
「残念ながら、この作品の面白さは、他の人間どもに理解されない......、だが君は読んでくれた。見てくれた。話が掴めてきただろう?ヴィクターよ。」
ヴィクターはやはりまだ分からないといった顔で立ち尽くしていた。
「これはプリズムを愛した君への心からのファンサービスだ。ヴィクター、私と契約をしよう。」
「な、なるほど.......、プリズムのモチーフがお前で、だからそれを好きな俺が....、って事か??」
ヴィクターは自分と相手を交互に指さした。
「ああ、そうだ。正確にはもう少し複雑だ。私の人生そのものがプリズムという作品、君が熱心に読むのを見たとき.....、私は報われた気がしたのだよ。」
スペキュラオスは天を拝むように合掌をし、再度こちらに顔を向けた。
「なるほど.....、そこまでは分かった。それで.....、契約っていうのはどういうことだ??」
「私と契約することで、君は超人的な力を得る。身体能力は向上するし、体力も増える。そして......、ここが君からしたら大本命だろう。君には"プリズム"になってもらーー」
「や、やる......、絶対に引き受けた!!」
ヴィクターは興奮のあまり、先ほどまでの混乱は消し飛んでしまっている。
スペキュラオスはキョトンとしたように黙った。流石の神様もこの即答ぶりには驚きを隠せていない。
「.....、ハッハッハ!そうだ、それでこそというものだ!!」
スペキュラオスは目を黄色に光らせた。
黄色い光がヴィクターを集中的に当たり続けた。
「.....、眩しすぎるだろ!!」
ヴィクターは目を手で塞いでいる。
「すまないな!だが、これで完了だ。ヴィクター、君には"プリズム"の称号を与えよう。アンブラは底が知れない。健闘を祈るーーー」
目を覚ますと、そこには先ほどの大きなライトがあり、博士やスーツ集団が待ち構えていた。
「やはり....、君だったか。」
博士は少しニヤついたように言った。
「あ、あの.....、なんか合格って言われて.....」
ヴィクターはまだ意識が朦朧としているようだった。先ほどまでの出来事が夢なのか現実なのかすら分かっていないのだろう。
「ああ、君は合格だ。さあ、立てるか?」
博士は手を差し出した。
「ありがとうございます。」
ヴィクターは手を取り立ち上がった。
辺りを見回していると、博士が言った。
「皆、帰ってしまったよ。君で最後だったからな。」
「ああ、そうだった。俺が最後だった。」
博士は部屋の扉を開けた。
「ついてきたまえ、色々話すことがある。」
二人は廊下を歩いている。ヴィクターと博士の身長差はかなりあった。博士はヴィクターからしてみれば、かわいい弟ぐらいの大きさだ。
「さて、君は合格したわけだが.....、君にはこれから入団手続きと、新人研修と、訓練......、色々やることがある。その後に晴れて実戦というわけだ。......、なにか質問は??」
博士はヴィクターの方を見た。
「ああ、そういうのも含めてやっとプリズムになれるんだよな??」
「ああ、その後に君は、ルクスのスーツを着て.......ん??........、今何と言った!?」
博士は二度見した。しっかり二回見直していた。
「え、だから、あの神様が言ってたぞ?契約してプリズムになってもらうって。俺が。」
ヴィクターは何がおかしいのだという口調で淡々と事実を並べて喋った。
「........、あの.....あのバカ神がぁぁぁぁぁ!!なんてことを!!一般人に契約しおったのか!」
博士は人が変わったように発狂し、頭を掻きむしっている。
「あ、あの.....何か問題があるんですか??」
「いや.......、君が悪いというわけではない......、あの神がいけないのだ.....。それはそれとして、体調は?大丈夫か??」
博士は深呼吸をして、聞いてきた。
「あ、ああ。大丈夫......、だと思います....。正常かな....?」
「そ、それはそれで凄いな......。全く......、本当はこんなはずではなかったが......、そうか。契約を.....、それもプリズム.....よりによってプリズム......。君が頑丈そうでよかった.....、いや本当に.....。その肉体でなければ耐えられんだろうからな。あの、衝撃.....。」
博士の取り乱し具合から察するに、あの神はノリで結構な事をやらかしたらしい。
「では、そうなると話は変わってくるな......。向かう場所も変わってくる.....、こっちだ。」
博士は右へ方向転換をした。研究室と書かれた大きな扉が待ち構えている。
その大きな扉を開けながら、博士は振り向きざまに言い放った。
「今から君に、スーツを選んでもらう。君専用、特別なスーツをな。」




