【第51話】直感の導きと、何もない辺境の地
禁書庫で「バルタザール魔法集 Vol.15」の失敗記録を読み込んだエルザとクレムの結論は、完全に一致していた。
「これはもう、光と闇の優秀な魔術師を直接訪ねて回るしかないわね」
まぁ、そりゃそうだろう。
残されたわずかな手掛かりを元に、「アトミックブレイクの再現方法(正解の手順)を知っているか?」「何か気づく点はないか?」「誰か知っていそうな有識者はいないか?」と、専門家たちに直接聞いて回るのが一番手っ取り早くて確実だ。
その方針が決まり、二人が「どこから回ろうか」と盛り上がっている中、俺は静かに手を挙げた。
「わりぃ、俺は『サレノ領』に行きたい」
「え? どうしてそんな場所に?」
クレムが、心底意外そうな顔をして聞いてきた。
それもそのはずだ。サレノ領はリディア国の中でも面積こそ広いが、人口はとても少ない。国境沿いに位置する中でも特に田舎であり、一応海に面していて「港がある」という以外は、これといった目ぼしい特徴が全く無い辺境の領地なのだ。
そんな何もない場所に、わざわざ俺が一人で行くと言い出したのだから、疑問に思うのも当然である。
俺は、さっき禁書庫の極秘資料で見つけた「250年前のスタンピードの不自然な進路変更」についての話を二人に聞かせた。
「なるほどね……。カールの直感なら、何か意味がある気がするわ」
「うん、僕もカールの直感は信じるよ」
エルザもクレムも、俺の野生の直感をすんなりと信じて納得してくれた。
(あれ?もしや俺の理論より感の方が信用されてない?なんだか悔しいんだが…)
こうして、俺たちのフィールドワークの行き先が正式に決まった。
エルザは、カルバン領以外で『闇魔術師』が多く集まる領へ。
クレムは、教会の総本山など『光魔術師』が多い領へ。
そして俺は、サレノ領の西端(250年前に消滅した廃村の先)へと向かうことになった。
◇ ◇ ◇
数日後、俺はサレノ領へと足を踏み入れていた。
道中、サレノ領出身で自領へフィールドワークに戻るという5年生の先輩がいたので、ありがたく馬車に同乗させてもらった。
「サレノ領に他領の学生が来るなんて珍しいねー。自分もフィールドワークの調査で戻るけど、正直言って本当に『何も無い』領だよ?」
馬車に揺られながら、先輩は苦笑交じりにサレノ領について詳しく教えてくれた。
そして、俺の目的地である『西端』のエリアについては、250年前のスタンピード以来、人が寄り付かずほぼ手付かずな状態になっているらしい。
「よくあんな何もない場所に行くね? 一体何があるの?」
「……いや、それが俺も一番知りたいんすよね」
先輩の素朴な疑問に、俺は遠い目をして答えるしかなかった。
そして、先輩と別れた後。
実際に足を踏み入れた西端のエリアは、先輩から聞いていた以上に『ガチで何も無かった』。
途中で乗合馬車すら通らなくなり、俺は慣れない一人野宿をしながら、ひたすら歩いて目的地を目指すハメになった。
(これで本当に何も無かったら、もう二度と自分の直感なんか信じないからな……涙)
俺は半泣きになりながら、荒野を進んだ。
そしてついに、スタンピードで壊滅したという村の跡地に着いた……はずなのだが。
予想以上に、見事に何もない。
と言うか、草木が生い茂りすぎていて、どこに村があったのかすら全く分からないレベルだ。さすがに250年も前に壊滅して放置された村など、こんなものなのだろう。
でも、俺の本当の目的は村の跡地ではない。その『村の先』だ。
あの時、モンスターの群れの方向を急激に変えさせた『何か』。それがあるはずなのだ。
だが、ここから先は詳細な地図も情報も何もない。だだっ広い荒野と森を、一人で手探りで探し回るしかないのだ。考えただけで気が遠くなる。
――それから、3日後。
俺は完全に絶望していた。
「な、何も無い……っ!」
乾いた風が吹き抜ける中、俺は膝から崩れ落ちた。
俺の直感のバカ。死ね。いや、こんな何の手掛かりもない場所にノコノコやってきた俺が無能なのだ。もう死にたい。
さすがに心が折れた。もう帰る! どうせ学校に戻ったら、あの腹黒お嬢様に「結局ただの徒労だったじゃない」と鼻で笑われるだけさ!(涙)
俺はあまりの徒労感と自分へのムカつきに任せて、近くにあった自分より大きな岩に向かって、八つ当たりのように拳を叩きつけた。俺の規格外の無属性パンチを受けた大岩は、ドゴォォォン! という轟音とともに粉々に砕け散った。
「あーっ、少しはすっきりし……!!」
土煙が晴れた、次の瞬間。
俺の言葉は、途中でピタリと止まった。
なんと、俺が粉砕した巨大な岩の下(裏側)に、すっぽりと隠されるようにして、古い石造りの『小さな祠』がひっそりと佇んでいたのだ。
「あ……あった……」
俺は振り上げた拳をそのままに、あまりの驚きと信じられない偶然に、ただただ呆然と立ち尽くしてしまうのだった。




