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ボクのアンヌ

連続投稿しています。


***


 ーー約束の日が来てしまった。


 ボクは戸惑った。正直、実現するとは思っていなかったからだ。アンヌにふさわしい婚約者を見つけようとは思っていたけど、ボクがなれるとは本当に考えていなかったのだ。ただ無我夢中で日々を過ごしていただけ。


 ……いや、嘘はやめよう。本当は少しだけ、期待していた。わざと婚約を邪魔するつもりはなかったけど、辛すぎる毎日を生き抜くため、小さな希望は(・)抱いていた。だから今までがんばれた。


 ーー身体を鍛えて、十二歳ごろからは健康になった。


 ーー伯父さんや母に対抗するため、領主教育も学んだ。


 ーーホン先生を筆頭に、多くの人脈も築いた。


 でも、本当にボクでいいのだろうか? こんなに壊れているボクで? もっとふさわしい人はいるはずなのに。


 ーーああ、でも壊れているもの同士、案外お似合いかも知れない。


 それに十八歳になったアンヌは、今まで以上に、この先ろくな婚約者が見つからないだろう。それならばこんなボクでも、まだマシかもしれない。アンヌから預かったものも、そろそろ返したいし、いいよね? ボクの成長に気付かないフリをしているアンヌを、迎えに行こう。

 

 ーーボクは覚悟を決めた。ワガママを言えないアンヌの代わりに、ボクがワガママを言うんだ。


 伯父さんの執務室に向かって、ボクは歩き出した。すると途中……


「にゃ~」

「え?」


 猫の鳴き声が聞こえた気がして立ち止まった。辺りを見渡して見ると、庭の片隅に見覚えのある影が……。


「お前…………まさかミシェルか?」


 こちらの言葉がわかったのだろう。すぐに「にゃ~」と鳴いてボクを見つめてくれた。だいぶ薄汚れていたけど、血眼で探した猫だ、見間違えるはずはない。ミシェルが我が家に戻って来てくれたのだ。しかも。


「ミシェル……戻って来たのか……。それも、お婿さんと子どもたちまで連れて……」


 自分の力で幸せを手に入れてきたらしい。貴族の猫なのに、たくましい限りである。母にバレないようにしてから、アンヌにも後でこっそり教えよう。それよりもまず、ミシェルを見習わないと!


 ボクは執務室の扉を開けた。




***




 ーーボクには、困ったいとこがいる。


「アンヌー! ねえ、アンヌってばー!」


 最初この家にやって来たときは、時が止まっているんだと思った。無表情の伯父さんと、ニコリとも笑わないその娘。でも仲良くなるうちに、自分の気持ちを自覚するのが下手なうえ、自分の気持ちを伝えるのも下手なだけなんだと気づいた。時は止まってなんかいなかった。


「ミシェルの子どもたちの名前、何にする?」

「そうねぇ」


 一時は完全に止まりそうになったけれど。今はもう大丈夫。正式に当主の座を引き継いだボクたちは、保護者たちを領地の外れに作った小さな屋敷に押し込めた。世間的に言えば、ただ隠居させただけである。保護者たちは納得していなかったが、ボクの人脈を使って黙らせた。


「やっぱり、『ミ』で始まる名前にしたいわ」

「うーん……それなら、ボクたちの名前をとって、ミンヌとかミオンは?」

「さすがに、恥ずかしいんじゃない?」

「でも、『お揃い』って感じがして良いと思うよ?」

「……………………そうかな?」


 ーー困ったことに、未だに感情表現は下手だけど。


「ああっ!」

「……? リオン、私の顔がどうかした?」

「アンヌ、今一瞬笑ったよ! え、え、もう一回見せて!」

「……にこにこ」

「また言葉だけになってるー!」


 ーー懐かしい小さな笑顔は見られるようになったから、きっと大丈夫だろう。

 

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