第1話「呼ばれる神社」
朝。
「蓮、起きなさい!」
「……ん?」
天城蓮はゆっくり目を開けた。
時計を見る。
「やばっ! 遅刻する!」
慌てて制服に着替え、リビングへ駆け込む。
「お兄ちゃん、また寝坊?」
妹の美咲が笑っている。
「朝から言うなよ……」
母親が弁当を渡す。
「忘れ物ない?」
「大丈夫」
「気をつけてね」
「行ってきます!」
蓮は家を出た。
学校では、いつも通りの一日だった。
授業を受け、友達と話し、放課後を迎える。
「じゃあな、蓮!」
「また明日」
友達と別れ、蓮は一人で帰り始めた。
いつもの帰り道。
いつもの景色。
何も変わらないはずだった。
「……ん?」
突然、蓮は足を止めた。
胸の奥が、妙にざわついている。
視線の先には、山へ続く道。
「……なんだ?」
理由は分からない。
だが、なぜかその道が気になって仕方がなかった。
まるで、誰かに呼ばれているような感覚。
「……ちょっとだけなら」
蓮は山道へ入った。
しばらく歩くと、古びた鳥居が見えてきた。
「神社……?」
境内には人の気配がない。
蓮はゆっくり中へ入る。
奥には古い祭壇があり、その中央には一本の刀が置かれていた。
何重もの縄で固定されている。
その前には、一枚の古びた札。
『触れるべからず』
「……刀?」
蓮が近づいた、その瞬間。
ドクンッ。
地面が揺れた。
「え……?」
祭壇の奥に立つ巨大な石碑。
そこに亀裂が走る。
ピシッ……ピシッ……
「何だよ……」
次の瞬間。
バキィィン!
石碑が砕けた。
黒い霧が境内へ一気に広がる。
蓮は思わず後退する。
霧の中から現れたのは、二本の角を持つ巨大な妖怪だった。
赤い瞳が蓮を捉える。
「……人間か」
「お、お前……何者だよ」
妖怪は蓮を見下ろす。
「我は……玄冥」
その名が境内に響く。
「かつて百鬼を率いた者」
そして、玄冥は静かに告げた。
「百鬼の王」
蓮は恐怖で動けない。
玄冥の視線が、祭壇へ向く。
「……まだ残っていたか」
蓮も振り返る。
玄冥が見つめているのは、祭壇に置かれた刀だった。
「それは……?」
「霊刀、天照」
蓮は刀を見る。
なぜか、目を離すことができない。
ゆっくりと手を伸ばす。
「待て」
玄冥の声が響く。
しかし、蓮の指は止まらなかった。
柄に触れた瞬間。
キィィィン――!
天照がまばゆい光を放つ。
「うわっ!」
蓮の身体を光が包み込む。
やがて光が消える。
蓮の手には、天照が握られていた。
玄冥は蓮をじっと見つめる。
「……選ばれたか」
蓮には何が起きたのか分からない。
妖怪の存在すら知らなかった。
それでも、この日を境に蓮の平凡な日常は終わりを迎える。
玄冥の目覚め。
天照の覚醒。
そして、日本各地で眠る妖怪たち。
長きにわたって封じられていた世界が、今動き始める。
第1話 完




