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第18話 動きの日

 五月十三日の朝、書庫の机に、ガロウが二通の書付を並べた。


 第一局からの二通、留置場報告と孤児院観察報告だった。封の蝋は同じ標準色、表紙の日付も五月十三日だった。


 クロイスは留置場の方から封を切った。


 「ヴェロン・カスパル、本日朝の動向。机に指で数字を書く動作が再開された。書いた数字は『七』『四十二』のみ、これまでの五つの並びとは異なる。同じ二つを繰り返し書き続けた。書き終えた時刻は朝の四つ刻。炭粉で写しを取り、別葉に添付」


 別葉が一枚、書付の下に挟まれていた。炭粉で写し取られた「七、四十二」の文字が、ヴェロンの指の動きの順に、何度も並んでいる。十数回は繰り返されている。前に写し取られた五つの並び「五、十三、二十五、七、四十二」とは違い、最後の二つだけが繰り返されていた。


 クロイスは別葉を、机の右端のヴェロン数字写しの隣に置いた。


 二通目を開く。


 「王立第三孤児院、本日朝の観察記録。裏手通用口に黒い外套の男が一名、徒歩で来訪。到着時刻は朝の四つ刻過ぎ、滞在は半刻程度。観察員は二街区距離を維持。男の顔は遠目で確認できず。男は布包みを抱えていた。退出時には包みを持っていなかった。来訪経路と退出経路は別、北東への徒歩で去る」


 クロイスは二通目を、一通目の隣に並べた。


 ◇


 ヴェロンが書き終えた時刻、朝の四つ刻。


 黒い外套の男が孤児院に到着した時刻、朝の四つ刻過ぎ。


 誤差は数分以内に収まっている。二箇所の動きは、偶然では説明がつかない近さだった。


 クロイスは控えの隣の余白に、二行を書き加えた。


 ヴェロン書き終え、朝の四つ刻。孤児院到着、朝の四つ刻過ぎ。並べて書くと、二つの時刻はほぼ同じ位置に落ちた。


 二つの動きが、同じ時刻に起きている。


 ヴェロンは留置場の中で動かないはずだった。指を動かすこと以外は。だが、指が動いた時刻に、外で別の足が動いた。


 ヴェロンの指は計画の時計だった。そこまでは、前の控えで読めていた。だが、その時計を読んでいる者が、留置場の外にもいる。あるいは、同じ計画を共有して、同じ時刻に動かしている。


 留置場の机には、炭粉で写した数字が残る。孤児院の裏手には、布包みを置いて去った足の記録が残る。別々の紙に書かれた二つは、同じ時刻欄に収まった。


 ヴェロンは留置場で記録を続けた。黒い外套の男は外で包みを運んだ。副支部長の死後計画は、声ではなく、時刻で二箇所をつないでいた。


 ◇


 クロイスは机の右端の書付を、もう一度眺めた。


 黒い外套の男、徒歩、馬車の控えなし。三つの要素を、クロイスはもう一度読み返した。


 以前の聖アルマ孤児院応答書付に、同じ身なりの記述が残っていた。三ヶ月前にマリアを引き取った人物の身なりが、これと一致する。


 同一人物と読む材料は三つある。黒い外套。徒歩。馬車の控えなし。副支部長が「信頼する第三者に預ける」と告げた相手かどうかは、まだ書けない。マリアの保護経路を維持している人物かどうかも、同じ欄に保留した。


 断定はしない。だが、絞り込みは進んだ。五月十三日朝に動いた男と、三ヶ月前にマリアを引き取った男が、同じ身なりをしている事実は、紙の上に残る。


 クロイスは新しい羊皮紙を引き寄せた。


 〈第十二指示書〉黒い外套の男の身元追跡


 以下、項目順に書く。


 追跡対象は、本日朝、王立第三孤児院裏手通用口に届け物を運んだ黒い外套の男。追跡項目として、退出経路の追跡、住居の特定、所属組織の有無、副支部長との関係を確認されたい。担当として#11と#22を当てる。


 補足として、男に気付かれないように追跡されたい。二街区距離維持を継続し、五月二十日の先回り保護の前に、身元の確認を完了されたい。


 局印を押し、封筒に納めた。控えは七枚から八枚に増えた。机の上に並ぶ紙の数は、また一枚増えている。


 ◇


 階段を降りてくる足音が、扉の向こうで近づいた。


 局長ハーグレイヴが書庫に入ってきた。机の上の二通の書付を覗き込んだ。


 「動きが二箇所で出たな」


 「同じ時刻で。ヴェロンの指は計画の時計でしたが、時計を読んでいる者が外にもいます」


 局長は何も言わない。机の上の二通を、視線で順に追った。


 ハーグレイヴは、外套の内側で腕を組んだ。


 あいつ、留置場の中の指と、外の足を、紙の上で重ねた。同じ時刻だと分かれば、外の足を読める。


 局長は何も言わずに、扉のほうへ歩いた。途中で振り返らなかった。書庫の扉が閉まる音は、いつもと同じ低さだった。


 ◇


 書庫に残ったのは、二通の書付、ヴェロン数字写し、別葉、控えの余白、第十二指示書の封筒。


 動きは、二箇所で同じ時刻に起きた。


 ヴェロンの指は留置場の中、黒い外套の男の足は孤児院の裏手。


 二つの動きは、紙の上で重なる。五月十三日、朝の四つ刻に、ちょうど。


 次に動く日付は、副支部長が指定した五月二十五日七時四十二分。だが、その欄の前に、五月二十日が一行、書き足されている。


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