9話「糸に導かれるかのように」
とても信じられなかった。
こんなことになるなんて思わなくて。
でも……アルフレートがこんなややこしいおふざけをいつまでも継続するとは思えない。彼は騙して楽しむようなことをする人ではないと思っている。その認識が間違っていないのだとすれば……彼は本気で私と結ばれることを望んでいるのかもしれない。
「ぼくと結婚したら、白いふわふわ触り放題だよ?」
「う……。ず、狡いわ、そんなやり方」
「どうして? 狡くなんてないよ、ぼくは本当のことしか言っていないよ」
「う、うう……、ま、まぁ……そうよね」
アルフレートの顔を見ると、彼もまたこちらを見つめていた。
視線が重なる。
真剣な眼差しを向けられると胸が疼く。
「……本当に私でいいの?」
尋ねると。
「もちろん」
彼は迷いなくそう答えた。
きっと嘘じゃない――彼のことは信じても良い気がする。
「魔法が使える女でも良いのよね?」
「それはもちろん! っていうか、ぼくも使うしね」
「後から言わない? 穢れている、とか」
「言わないよ! もしかして、まだ、あの時のこと気にしてる? あの男に色々言われたこと」
私はもう迷わない。そう心を決めてはいるけれど。でも、いざそういう話になると、どうしてもあの時のことを思い出してしまう。歴史は繰り返されると言う、それと同じように、また似たようなことが繰り返されるのではないかと、思ってしまうのだ。たとえ相手が信頼できる人だとしても。
「二度と誰にもあんなことは言わせない!」
アルフレートは調子を強める。
「もしきみを悪く言うような人がいたなら、ぼくが責任をもって片付けるよ」
彼は私の両肩にそっと手のひらを置いた。
「嫌なら嫌と言って。嫌と言われたからって何もしないから」
「……いえ」
嫌、ではない。
「受け入れるわ。……その件」
共に過ごしてきた彼となら、光ある未来を見つめることもできるのかもしれない。
「本当!?」
「えぇ。もちろん。あなたとなら」
改めて顔を見合わせる。
すると少し恥ずかしく。
彼を真っ直ぐ見つめることに恥じらいを感じ、ふいと視線を逸らしてしまう。
「じゃ、じゃあ! 婚約してくれる!?」
「ええ……」
「嫌なら言ってよ? 無理矢理したくはないから」
「嫌じゃないわ! でも……その、少し……恥ずかしいの。そんな風に熱い感情を向けてもらえたのって、初めてで……」
こうして、私とアルフレートは、婚約することとなった。
婚約に関してはすぐには明かされず。あるところまでは水面下で話が進んでいった。準備が整っていないうちから国民にそのことを発表すると混乱が起きかねない、ということでの対応であった。
ただ、近しい人――私であれば両親、には、早くにそのことを伝える形となった。
王子アルフレートと婚約することになったという事実を伝えると両親は大層驚いていた、が、その一方でとても温かく祝福してくれた。
「彼、仕事にも協力してくれていたのでしょう? 理解ある人とならきっと幸せになれるわ! 良かったわね、ルレツィア。驚きはしたけれど……でも、貴女には幸せになってほしいと思うから、反対なんてしないわ。きっと。いえ、絶対に……幸せになるのよ」
「良かったな! おめでとう! 親として、嬉しく思う!」
母も、父も、私の身に起きためでたい出来事を自分のことのように喜んでくれた。




