6話「大切なことは忘れずに」
「ありがとうございます……! おかげで娘が助かりました……!」
母親である女性はそう言って丁寧にお辞儀をする。
その目もとには涙が滲んでいるようにも見えた。
そんな女性のすぐ横には状態が回復し立てるようになった女の子が立っている。
「いえいえ」
支払いは完了している。
後は見送るだけ。
「このたびは、本当に、ありがとうございました」
「いえ。お力になれて嬉しく思います」
「しかも……こんな少しのお金で……申し訳なくて、その、もっと払いたいくらいです……」
この力によって生まれた笑顔が好き。
働き始めて思い出せた。
私はずっとこの瞬間が好きだったのだ。
婚約破棄されてからは忘れてしまっていたけれど、私はこの時が何よりも幸せで好きだったのだ。その感情を、忘れるべきでは、失うべきではなかった。一度否定されたくらいで好きなものを捨ててしまっていたなんて愚かだった。
「そのお気持ちが嬉しいのです。ありがとうございました」
「本当に……感謝します」
「ありがとう! おねえさん!」
こうして私は母娘を見送った。
ちょうどそのタイミングで窓から覗いてきたのは、アルフレート――の仮の姿であるうさぎのような生き物だ。
「順調だね!」
窓を開けると白くふわふわなうさぎが建物内に飛び込んできた。
自然とだっこすることとなる。
「何か手伝うことはある?」
「特にはないわよ」
「えー。じゃあぼくはだっこされる係をしようか? マスコット係とか?」
「積極的ね……」
「城にいても暇なんだもん!」
うさぎのような生き物は自慢げに言う。
それは自慢げに言うことではないと思うが……。
「でもあなた、王子なのでしょう? 駄目よ、うろうろしていては。危ないわよ」
「むー。きみまでそういうこと言うの」
「まで、ということは、他の人からもそういうことを言われているの?」
「言われるよ! 王子らしくないとか変だとか! でもさ、そんなの知らないよ。迷惑かけてないだけましだと思ってほしいよ」
この時間は特に予定はない。
それゆえ、こうしてのんびりと、うさぎのような生き物と会話することができる。
――と、その時、彼は急に人の姿になった。
「え!?」
「そんなにびっくりしないでよ」
「ど、どうして……人に!?」
「どうしてって、深い意味はないよ。ただ少し人の姿に戻りたくなったんだ」
人の姿のアルフレートをだっこすることはできない。
さすがにそれは無理だ。
「……お茶でも飲みます?」
「え! いいの!」
「いつもいただいているのでお返しです。あ、でも、城のものほど良質かは分かりませんが……」
「飲む!!」
圧をかけてくるアルフレート。
彼の瞳は純粋な輝きをまとっていた。
「では淹れますね」
「よろしく!」
アルフレートには色々な面で世話になっている。たまにはお返しがしたい。もっとも、高貴な生まれでない私にできることなんて限られているが。それでも、可能な範囲で、何か一つでも返したいのだ。小さなことでもいい、彼が喜んでくれることをしたい。
「楽しみだよ」
「そんなすぐにはできないわよ!?」
「いっいよー」
「待っていて」
「もちろん! 待つ待つ! あー、楽しみだなー」




