ある伯爵令嬢の場合
最近、一部の乙女たちの間で密かに流行っている噂がある。
困ったことがあれば、聖女様にお会いしなさい。
そうすれば必ず災いを祓ってくださる、と。
これはそんな噂を聞きつけた乙女たちのほんの一例である。
Щ爪爪爪爪爪爪爪爪Щ
ある伯爵令嬢の場合
レティシアは婚約者のアレン侯爵令息とその幼馴染の子爵令嬢マリアンヌと対峙していた。
マリアンヌはその薄桃色のつぶらな瞳に涙を溜めて切々と言い募る。
「レティシア様ごめんなさい!私が病弱なばっかりに幼馴染のアレンをいつも頼ってしまって……でも、本当にお二人の婚姻関係を壊そうだなんてこれっぽっちも思ってないんです!!」
大きな声を出したことでふらりと目眩を起こしたように体を傾けたマリアンヌに、隣に寄り添うアレンがたまらず肩を抱き寄せ支えてみせる。
「マリィ!無理をするな、また寝込んでしまっては大変だろう?」
「で、でもアレン……このままじゃ、あなたたちが結婚出来なくなるって」
「馬鹿な事を!単なるレティシアの独りよがりで、誰も認める訳ないよ!」
「でも、今日のこの場はレティシア様にアレンが謝らなきゃいけないっておじさま達がセッティングしたんでしょ!?それなら私もレティシア様に謝らなくちゃって」
「マリィってばホント……それで寝込んでたのに無理やりここまで来ちゃったのか?どこまで優しい天使みたいな子なんだ君は」
「アレン……」
延々と続きそうな茶番をレティシアは沈んだ瞳で見つめていた。
(どうせこのような展開になると思っていましたわ)
レティシアは疲れていた。それはもう心の底から。
家同士の取り決めで結ばれたアレンとの婚約関係。
最初の頃は品行方正で見目麗しいアレンの優しく誠実な対応に人並みに胸をときめかせ、彼との将来に思いを馳せたりもしていたが。
婚約者らしい交流がまともにできたのは、おそらく両手の指でも余るほど。
婚約者となって三年の間、何度この病弱な幼馴染とやらが原因ですっぽかしを食らったことか。
定期的な二人でのお茶会も、デートも夜会も。
“マリィが急に熱を出して行けなくなった”
“マリィが倒れて側にいなければ”
“マリィは僕がいないと寂しくて眠れないそうなんだ”
そんな断りの文言がいつも代理の従者から申し訳なさそうに伝えられる。約束事の前日の日もあれば、当日馬車に乗り出発する寸前なんてことも。
何度か続いた頃にレティシアはただ純粋に疑問を抱き、なんの嫌味でも皮肉でもなく尋ねたことがある。
“お医者様でもないアレン様がお側にいて何をなさるのですか?”
と。
いつもは穏やかなアレンが途端に憤怒に顔を歪めて叫んだ。
“君に人の心はないのか!そんな冷たい女だとは思わなかった!”
アレンからそのような罵倒を受けたのは初めてで、レティシアは深いショックを受けると同時に少し失望した。
問いに対する明確な回答ではない、論点をズラして感情に任せた罵りでレティシアを押さえつけようとする、そのひどく短絡的で浅慮な言動を取るアレンに。
恋愛感情から始まった婚約関係ではない。
アレンの事を婚約者として想う気持ちは確かにあるが、何がなんでもアレンと結婚したいとかいう強い感情は欠片もない。現状、この婚約期間でレティシアが何よりも重要視しているのは、アレンが将来の伴侶として望ましい人間であるか、伯爵家の将来を託していい人物であるか、見定めの期間であると言う認識だ。それはもちろんアレンからレティシアに対してもだろう。
それが契機とでもなったのか、ますますアレンはレティシアの約束を疎かにして病弱な幼馴染に寄り添うようになった。
約束が直前で反故になる事が増え、次に会ったときアレンは表面上は真摯に謝罪するが、言葉や態度の端々にどこかレティシアを嘲る空気を感じるようになった。
“細やかな心の機微は、君にはわからないかもしれないが”
“健康な君にはわからない苦労もあるんだよ”
“情熱的なのはいいけど、あんまり女性が悋気を露わにしては見てられないな”
別段二人の仲が深まる交流は出来ていない。物理的にも精神的にも。
にもかかわらずアレンにはレティシアがどんな人物として見えているというのか。
婚約者らしく互いの事をもっと詳細に知ろうとしただけ。
大きな病を一度も経験したことがないと話題に上がっただけ。
病弱な幼馴染の姿を先日街角で見かけたと報告しただけ。
レティシアにとってどんどんアレンが得体の知れない不気味な存在に思えてきた。
まともな会話が成立せず、彼がレティシアを訪ねてくるのは約束をすっぽかしたことへの謝罪の時のみ。
その時交わすわずかな会話ですら、そんな理解し難い皮肉だか飛躍した妄言を織り交ぜられて、アレンに対して寄り添う気持ちだとか誠実であろうと努める心持ちだとかがすり減っていくのを感じていた。
父である伯爵家当主にはその都度報告は上がっているし、レティシア自身もアレンの人となりはともかく、家同士の決めた婚約関係を蔑ろにするような態度はどうかと伝えはしたのだ。だが父の反応はイマイチ。
何でも父と侯爵は学生時代から旧知の仲で、貴族学院時代は侯爵が生徒会長を務め、父の伯爵が副会長をしていたのが今でも自慢だとか。いつまで過ぎ去った青春を引き摺っているのだ、と母は呆れ果てていたが。
両家が行う新規での事業提携など益のある話があるとはいえ、元より格上の侯爵家が熱心に勧めてきた婚約でもある。
裕福な伯爵家の一人娘で才女として幼い頃から評判であったレティシアに、三男のアレンをその入婿として迎えてほしいと。
また、病弱な幼馴染である子爵令嬢マリアンヌは、侯爵夫人の無二の親友であった子爵夫人の忘れ形見であるそうで。
マリアンヌが幼い頃に母である子爵夫人は病で亡くなり、父の子爵は家のためにすぐに後妻を迎え翌年男児が生まれたことにより、マリアンヌは子爵家で立場を無くして、それを聞きつけ不憫に思った侯爵夫人が侯爵邸へ病気療養の名目で引き取った。
以来、侯爵家の一員として暮らすマリアンヌの存在に、侯爵家へ抗議や苦情を入れようとも、のらりくらりとはぐらかされてしまう始末。
“結婚するまでの辛抱よ”
マリアンヌにつきっきりで看病するアレンの代わりと現れた侯爵夫人からそう嗜めるように言われた時、レティシアは抗えきれないほどの虚無感を覚えた。
父も侯爵夫妻もレティシアが我慢すれば全てが丸く収まると考えている。
レティシアさえ目を瞑れば、上手くいくと踏んでいる。レティシアさえ辛抱すれば。
(まともな会話も成立しない方と支え合えと?私を粗雑に扱う方を敬えと?私が全てを殺して結婚すれば両家は安泰と、本当にそう思っていらっしゃるの?)
何度訂正しても、彼らはレティシアがまるでアレンが自分を構ってくれないことに腹を立てている思っている。
婚約者の自分を差し置いて、可憐で儚げで病弱な幼馴染を大切にすることが許せないのだと。
本質を読み誤っているにも程がある。
レティシアはただ、政略的とはいえ将来伴侶となる婚約者と適切な交流を持てない現状を不安視しているのだ。
婚約期間も三年となり、その間にアレンの当主教育も遅々として進まずにいる事を危惧し、互いの能力も、長所も短所も、伯爵家当主としての適性すら見極める機会を与えられない状況を改善したいと訴えているのだ。
これでは何のための婚約期間か。互いの心情も能力も度外視していいならすぐさま婚姻でも何でも結べばいい。
(貴族令嬢が家の道具であることなど百も承知。何故それだけの話がそこらの低俗な醜聞話とすげ替えられなくてはいけないの)
近頃、レティシアとアレン、そして彼の病弱な幼馴染の歪な関係が面白おかしく社交界を賑わせている。
先日訪れた同格の令嬢たちとのお茶会においても、同情するように複数の令嬢から話を切り出された。
「レティシア様もお辛いですね」と。
本来想い合うアレンとマリアンヌ。しかし、マリアンヌは病弱で何より子爵令嬢で、アレンと結ばれる運命にはない。
レティシアとは家同士の婚約を強いられているが、病弱なマリアンヌを放っておけないアレンは度々レティシアとの約束を反故にしてまで“真実の愛”に寄り添い、レティシアはマリアンヌへの妬心を燃やしていると。
レティシアは何もかもが嫌になった。
レティシアは一度たりともアレンにマリアンヌの元へ行くななど言ったことはない。まして嫉妬など、ろくに知りもしない上にすっぽかしだけはするアレンに抱ける道理もないと言うのに。
誰に何を言っても理解されることのない苦痛。
そんな時、とある噂を耳にした。
“本当にどうにも出来ない困難があれば、王都の大神殿を……聖女様に面会してみては?”
聖女様がきっと救いの道を示してくださる、と。
「聞いているのかレティシア!」
「!」
アレンの乱暴な問いかけにレティシアはハッとした。
そうだ。現在レティシアは侯爵邸に招かれていたのだ。
いよいよ我慢も限界となったレティシアは、父の伯爵家当主にアレンとの婚約を解消することを提言した。
アレンと婚約者としての交流をまともに持てない現状を主観を交えず客観的に訴え、現在レティシアとアレンとマリアンヌの噂が面白おかしく社交界を賑わせている事も伝えた。
自分一人では頼りないから、母の伯爵夫人や親戚筋にも根回しをして、次の婚約者候補の目星までつけて。
本当にこのままアレンを次期伯爵家当主として認めていいのか、と。
侯爵家に対して及び腰だった父も、ようやく重い腰を上げてレティシアの話を聞いてくれた、かに思われたが。
結果は、レティシアの提言がただの悋気のように侯爵家へ伝わり、アレン本人から謝罪したいという名目で今日のこの場を設けられたが、アレンはマリアンヌを伴い現れ、レティシアの婚約解消の申し出を独りよがりと断じた。
侯爵夫妻においても、冗談半分とでも思っているのだろう。邸内にいると聞いているのに顔を出す素振りもない。
やれやれ、とまるで頑是ない子供の相手をするような態度でアレンはレティシアへ口を開いた。
「レティシア、確かに何度か君との約束を反故にしてしまったことは認めるよ。だが、決してそれはわざとじゃないんだ。マリィの容態の急変は誰のせいでもないだろう?なのにこんなことでまさか、婚約解消だなんて……前々から思っていたけど、君は少し冷たすぎる。いや、僕への気持ちが強すぎるのかな?どうして事をそんな大きくしたいんだ」
「アレン様…何度も申し上げた通り、これは私の感情や、まして貴方様に対しての私情でお伝えしているのではありません。私たちが婚約して三年を迎えましたが、その間にまともに交流を持てたことが何度ありましたか?当主教育のため伯爵領に訪れたことが一度でもございましたか?このような状況で婚姻に至るのは、当家の将来を見据えれば否と申し上げる他ございません。ですから」
「それらしい言い訳で逃げるのはやめてくれ!要は君は僕が君よりもマリィを優先するのが気に食わないんだろう?君より幼馴染のマリィを大切にしているように感じて許せないんだ。どうせ僕は君の夫となり伯爵家当主になってあげるんだから、何をそんな賢しいふりをして」
「お言葉ですが、そうした俗物的な感情ではなくあくまで事実として」
「もうやめてください!レティシア様!素直になってください!本当はただアレンが好きなだけなんですよね?わかります、私だって……ううん!そんなことは今はどうでもよくてっ、レティシア様は間違えてるだけ!そんなことしてもアレンは振り向いてくれないのに意固地になってるんですよね?」
(もう……否定するのも馬鹿らしくなる、この方達は)
浮かれた思考回路は好きにすればいいが、誰もがみなそうした理屈で動いているわけではない。
アレンの優先順位の一番がマリアンヌであるように、レティシアの優先順位の一番は伯爵家のため。将来の婿としてふさわしい人間を選びたいだけ。アレンは残念ながら不適格と判断したから婚約解消を申し出たと言うのに。
けれど、そう内心で思いが溢れそうになってはいても、最早口にするのすら無駄に思えてくる。
何をどう言っても伝わらない。理解されない。会話が成立しない。
目の前の存在がどんどんと、自分と同じ生物とは思えなくなってくる。
まるで言葉を喋る怪物のようだ。
(結局、藁にも縋る思いで聖女様にもお会いしたけれど、効果などあるはずもないし)
元よりそこまで期待していたわけではない。実際に聖女様と間近で会って話をして、勇気をもらえた側面もある。
アレンとの婚約解消を提言できたのもそのおかげ。それだけでも十分だ。
(ああ、それと…お守りも)
ふと胸元にしまった存在を思い出して、そっと服の上から手のひらを当てる。
聖女様がお仕えする創世神である女神様の眷属。三柱獣の一角、聖獣フェンリルの勇壮な姿絵だ。
純白の毛並みが風に靡き、凛々しい顔つきで悪虐を尽くした怪物をその雄々しい前足で踏みつけている。鋭く大きな爪を立てられた矮小な怪物は醜く顔を歪めて地面にへばりついていることしか出来ない。その哀れな様がどこか滑稽でコミカルにも映る。
鮮やかに脳裏に蘇るお守りの絵の構図。レティシアは何だか肩の力が抜けた気がして伏していた瞼を上げてみると、そこには不可思議な光景が広がっていた。
「あ゛あ゛あ゛あっっ、なん、やめ、やめてくれ!!痛い痛いいたい!!!」
「なにこれ何これ何これぇぇぇ!さ、さって、刺さってるぅ!痛いいやめて助けてぇ!!」
目の前で寄り添っていたはずのアレンとマリアンヌがそれぞれ床の上で不恰好にも這いつくばっている。
まるで何か強大なものに押さえつけられているように、醜い悲鳴をあげて醜く顔を歪めて。
「?」
レティシアは首を傾げた。背後に控える従者にも問いかけるように顔を見合わせたが、こちらも何が何だかという様子。
併せて周囲も何だか慌ただしい。隅に控えていたはずの執事が慌てた様子で何事かを告げに来た使用人に連れられどこかに行ってしまうし、おそらく階上の方から誰かしらの悲鳴がくぐもって聞こえてくるし。ちょうど、目の前の二人のような。
意味がわからなすぎて直接助け起こす気には到底なれないが(後に残った使用人たちも何故だか腰を抜かしたように座り込んでいたし)、レティシアは義務的な思いで二人に声をかける。
「あの、どうされましたか?大丈夫ですか?お二方とも」
「っ!?なんで君は何ともな……は!?まさか君のせいかレティシア!!よくもこんな奇怪なイタタタタタタっっ!!?ち、違う??!あ、あ゛あ゛あ゛っすいませんすいません違いますよねごめんなさい申し訳ございませんんん!!!」
「?アレン様?一体何を」
「あっ、は、ハッそうです!わかってました、本当はわかってました!今まで僕が全部悪いのもレティシアが僕のこと何とも思ってないのも当主教育から逃げるための口実にしてたのも全部ぜんぶ!!!それだとまずいから全部レティシアの悋気ってことで乗り切ろうとしてえ゛ぇぇマリィは別にただの妹くらいの感覚でただレティシアに嫉妬してほしくてあ伯爵当主にはなりたいんですけど面倒だからこのままレティシアに任せてたらいいかなって……イダだだあだだあダァぁぁごめんなさいごめんなさいごめんなさいレティシア有耶無耶に丸め込もうとしてましたごめんなざい゛ぃぃぃ!!!」
「あ、あの」
何とも無様に涙やら鼻水やら垂れ流しながらアレンが床に貼り付けた顔面を器用にも更に醜く歪めつつ(何やら上から圧迫されているようにも見える)、支離滅裂な事を喚き始めた。
しかし、支離滅裂とはいえ今アレンの言った言葉はこれまでの事を思い返せば辻褄が合う。
レティシアはもしもの為と用意していた魔道具を起動するため急いで準備に取り掛かった。
その間に横で惨めに這いつくばっていただけのマリアンヌが、これまでの彼女から出るとは到底思えないような嗄れた怒声でアレンを詰る。
「はあ゛あ゛ぁぁっ!??何それ妹??!レティシアなんてただの伯爵当主なるための駒だってあんな可愛げのない女好きじゃないって結婚したら愛人にしてやるってキスしてきたくせに私が一番可愛いっていつも言ってたくせに!!体だっていっぱい触ってきたくせにぃい゛い゛だだだだだあああああっ!??」
「まあ、アレン様がそんな事を?」
無事起動し終えたのは、先日貴族司法院から借り出してきていた音声録音が可能な魔導器具だ。声帯で個人を識別して雑音などを適宜除去し、距離による声の強弱の調整も可能な最新式である。
大事な取り決めの際に使用が許可されているそれを、レティシアは婚約解消の場に使用したいと正式に申し出ていた。
成人した者本人が使用登録を行い、数十ある不正利用項目などに該当しない場合に限るなど複雑な条件が付けられているが、これにより正式な筆記記録のない口約束や当人同士の言った言わないなどといった水掛論が無用となる。この魔道具で録音された音声は公式記録として認められるのだ。
かくして何故か悶絶して床に這いつくばるままのアレンとマリアンヌから、再度事の顛末を詳細に聞き出すことに成功したレティシア(悲鳴やら嗚咽やらに混じって大層聞き取りづらかったが)は、締めくくるようにアレンへ問いかけた。
「では、私とアレン様の婚約はアレン様の有責にて、解消ではなく破棄すると言うことで異論はございませんわね?」
「う゛う゛う゛じま゛ずじま゛ず!!婚約破棄ずる゛がら゛だがら゛もう踏゛み゛づげる゛や゛め゛でぐだざ」
「?それはよくわかりませんが、ではこれにて話し合いは成立ということで」
奇妙な状態になっているアレンたちと無駄に関わるのも面倒なので、そそくさと帰り支度を済ませる。
レティシアは信じられない気持ちでいっぱいだった。
まさか、こんなスムーズにアレンとの婚約を取りやめることが出来たなんて。しかもアレン本人が非を認めて婚約破棄すると明言した。
何よりもまずレティシアの瑕疵となる事を案じていた母も、これで少しは安心させられるだろうか。
その後、慌ただしい侯爵邸を後にし、レティシアは晴れやかな気分で帰路を進む馬車の中にいた。
アレンとマリアンヌがいつまでも床に這いつくばって泣き叫んでいたのが不思議であったが。
何なら侯爵邸の廊下で同じように無様に這いつくばっている侯爵夫妻から絶叫のような謝罪をされたのにも不可解さはあったが、その時侯爵本人からもアレン有責での婚約破棄の言質は取れたので(もちろん魔道具で録音済だ)よしとしよう。訳のわからぬ厄介ごとに首を突っ込んでも碌なことはない。何よりレティシアは、今後アレンとは婚約者でも何でもない関係となるのだから。
レティシアは懐から取り出して広げたお守りを見下ろし、久しぶりに心からの笑みを浮かべた。
「何だか、フェンリル様に踏みつけられているこの醜悪な怪物のようでしたわね……ふふふ」




