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10 リオ・カルトー

何度目かの...お久しぶりです

ナディが退職するその日、今までの感謝も込めて彼女には花束を渡した

ピンクの薔薇やガーベラ、白のダリアやスイートピーなど「門出」や「感謝」などの花言葉を持つ花を中心にブーケにしてもらって贈るとナディアは涙をながして、ありがとうございました、またいつかお会いしたいです、と繰り返して王宮を去った


ナディが退職してから、私は一人でいることが多くなった

専属メイドや侍女が決まっていなくて、従者や執事もそばにいない現段階ではお供なしに独り歩きすることは出来ず、隣の書斎と自室を往復し、たまにガーデンへと散歩に出るくらいしかしなくなってしまった

このままでは体がなまる...とは思うもののどうすることも出来ず時間が過ぎていき、あっという間に専属となった2人、リオ・カルトーとレイク・アクアが配属される時期となった




――コンコンコン


少しずつ日差しが強くなり日本で言う夏のような季節が近づいてきたある日、やることも特にない私は書斎から引っ張り出してきた分厚い本を読んでいたのだが、ドアのノック音を聞いて本から顔を上げた

時計を見るとまだ昼の10時過ぎだ

今日も例に漏れず予定がないためロイがなにかを伝えに来たのだろう...と適当に当たりをつけて入室の許可を出す


「失礼します...」

「どうしたのロイ?何かあっt...」


ガチャりと開いたドアの方に顔を向けながら話していたのだが入ってきた人物を見て変に言葉が途切れてしまった


「...」

「...えーっと...リオ・カルトー伯爵令息?」

「はい。本日よりノアウェル殿下の専属としてお傍で仕えさせていただきます。カルトー伯爵家次男のリオ・カルトーと申します。よろしくお願いいたします。」


隙のない完璧な笑顔と綺麗な所作で頭を下げたリオ・カルトー君は笑みをキープしたまま、どこか探るような目でこちらを見ていた

どこか既視感を覚えるその目つきに思わず苦笑してしまう。前世で関わったあの子たちも私に慣れるまではよくこんな感じの目で私を追っていた

自分に危害を加える人間かどうか、慎重に見極めなければならなかったあの子たちと伯爵家子息の彼がなぜ同じ目をしているのか、引っかかる部分はあるが、わざわざ突っ込む必要もない

私は彼から身の上話を聞けるほどの関係にないのだから

まぁ、ただ1つ言えることがあるとすれば...


「...そんなに警戒しないで、少なくとも君の敵にはならないよ。」

気休めにしかならないかもしれないけど...

と付け足して笑顔を向ければ、リオ・カルトー君は一瞬だけ驚いたように瞳を揺らしたがすぐに先程のような貼り付けの笑顔に戻ってしまった


なんとも先は長そうだが気にしない

こういう精神的な問題は時間が解決することもある...多分

私にできることは彼自身と向き合って、敵では無いと示すことだろう...たぶん


自信はないけど間違ってないと信じたい


「よし、それじゃあリオ...君?カルトー君?」

「リオとお呼びください」

「リオだね、わかった。リオには今日1日僕に付き添ってもらおうかな、と言ってもやることあんまりないけどね」


とぼけるような仕草で言ってみたが、リオの表情は全く変わらない

少しさみしく思いつつも、歳不相応のポーカーフェイスに逆に感心もしてしまった。精神年齢はずっと上のはずの私よりきっと上手だろう





その後、リオを伴って部屋つづきになっている書斎やガーデンへ足を運んだりしたが、やることが早々に無くなってしまった

付き添ってもらおうかな、なんて言った割に私の行動範囲が狭すぎて申し訳ない...情けなくて涙が出そうである

やることがなくなって遠い目をし始めた私に気づいたのか、半歩後ろから戸惑いの雰囲気を感じる...よし、こうなったら



「リオはどこか行きたいところない?」


丸投げだ

主としてどうかとは思うが、仕方がない

だって行く場所思いつかないんだもの...

誰かへの言い訳を心の中で唱えながら後ろを振り向くと


「え...」


非常に困った顔をしたリオと目があった

まぁそうだよね、戸惑うよね、付き添ってって言われたもんね

でも、何気に初めて笑顔以外の表情を見れて私は嬉しいよ...

そんなことを思いながら続きの言葉を待つ


「...っ僕より、殿下の行きたい場所へ行かれるのがいいのでは...?」

「僕は行こうと思えばいつでもどこでも行けちゃうから、それよりもリオの行きたいところに行こう、今なら僕がいるし基本どこでも入れてお得だよ?」


どこ行きたい?ともう一度問いかけたがリオは答えない

戸惑いが滲むその様子は、遠慮しているとか警戒してるとかそんなんじゃなくて、わからない問題を前にした子供のようだった


「じゃあ、3択にしよう!王宮図書館、温室、あとは〜...展示室!この3つだったらどれがいい?」


比較的案内しやすい3つを選択肢として提示する

まだ戸惑いの様子が消えないリオは、何度もこちらを確認し目を泳がせ...やがて意を決したように、視線を私に定めた



「...では、温室に...行きたいです」


蚊の鳴くような小さな声ではあったがしっかり聞こえたリオの意見に、私は笑顔を返して頷いた


「いいね、じゃあ温室に行こう!今の時期は何が咲いてるかな...僕、カスミソウが好きなんだけどあるかな...リオはなんの花が好き?」


温室を選んだということはもしかしたら植物が好きなのだろうかと思い、ほんの興味でリオに問いかける


「えっと...そう、ですね...特定の花が好きとかは...あまり、ない、、です」

「そうなんだ。じゃあ、リオの好きな花、一緒に見つけよう」


リオの返事がつっかえつっかえになったことは気づいたが特に気にせず言葉を返した

温室とは言っても万能ではないしオールシーズンの植物が見られる訳ではない

それでも多少はリオが気に入るものが見つかるといいな、という軽い気持ちで歩き出したのだが、リオの気配がついてこない

後ろを振り向けば何故かリオは固まってしまっていた


「...?リオ、行くよ?」


と声をかければ、ハッとしたように笑顔を浮かべ、申し訳ありません、と言ってから私の半歩後ろに付く

どうしたんだろう、とは思ったが、リオの浮かべている笑顔が最初よりも少し...本当に少しだけ柔らかいものになっているように見えたから、悪いことじゃないならなんでもいいや、と私は気にせず温室へ向かうことにした




実はあんまり精神的な問題の対処法には詳しくないノアウェル。ノアウェルの寄り添い方は人によって相性ありそう...



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