第21話 ある日の海辺の街アーレンとフロイデン伯爵領3
◇◇フロイデン伯爵領3
フロイデン伯爵はいつしかカールの話に引き込まれていた。 当初、フロイデン伯爵領は侵略してくる十万の侵略軍に驚き、不安に思って居た事もカールの話から何とかなりそうだと落ち着き、最終的には不安が払拭されていた。
ここからは具体的な戦略や戦術の話になっていく。 幾ら職業的な軍人の数が少ないとは言え総数では迎え撃つハイランド王国側の方が圧倒的に少数である。
新年早々、降って湧いたような宣戦布告にハイランド王国の首脳陣を交えた会議が深夜にまで及んでいた。 翌日も国王陛下と王国宰相のミューゼル侯爵に近衛騎士団の団長であるリッツ侯爵を除いた王国首脳陣は会議室に集まっていた。
しかし幾ら突発的な事象が起ころうが新春の会議は継続される。 新春の会議が開かれれば国王陛下を筆頭に王国宰相のミューゼル侯爵に近衛騎士団の団長であるリッツ侯爵は国王陛下の左右に控えなければならなかった。
通常は一週間続く、新春の会議も今年は短縮される事に成り四日目と五日目にデビュタントが開かれる事に成った。
今年も少年少女と云われる子供たちが緊張に震えながらデビュタント会場に集まっていた。 何とも初々しいのだが、見守る大人たちは数日前にコーラル連邦の大使が宣言した衝撃から立ち直って居なかった。
そんな何となく重苦しい雰囲気の中、どうにか例年通りデビュタントが開始され 今年も無事にとは云えないまでも王国会議は終了した。
ここからがハイランド王国の首脳陣の本番である。 ハイランド王国、ハンス・フォン・ハイランド国王には一つの気掛かりが有った。 それは第一方面軍の将軍であるバルス・フォン・ スウエー公爵の事である。
そもそもハイランド王国の建国王であるピエール・フォン・ハイランドの命で軍部の指揮官たる将軍には実力を以て就くべしと云う不文律が存在した。
その為、ハイランド王国の武官は基本的に実力主義でその地位を勝ち得ているのだが、その中に於いて例外が一つだけあった。 それが第一方面軍である。
ハイランド王国には元々、方面軍と云う組織は無かったのだ。 ハイランド王国には国王陛下直属として近衛騎士団が存在し、軍務卿の指揮下に第一から第九までの師団が存在した。
数代前に遡る国王の代で一つの事件が起こった。 王国に於いても長子継続が原則だったのだが、彼は武に傾倒し武門の世界で生きたいと申し出たのだ。 その彼が近衛騎士団や各師団長ほどの武才が有れば問題が無かったのだが、残念ながらそこまでの才は無かった。 そこで新たに軍務卿の指揮下に方面軍と云う組織を作り将軍として任命をした。 新たに出来た方面軍は一つだけだったのだが、地方の色々な問題を解決するために組織が拡大され現在の第一方面軍から第十方面軍までに成長していた。
その中で、第一方面軍の将軍だけが世襲で継承され実力とはかけ離れたものと成って居た。 その結果が実力が伴わない各貴族の次男や三男などが集まるようになってしまった。
平時で有れば、第一方面軍はお飾りとして問題が無かったのだが、今回 何故だか第一方面軍の将軍であるバルス・フォン・ スウエー公爵が出陣を望み出ていたのだ。
ハイランド王国であるハンス・フォン・ハイランドは何度も押し止めたのだが最終的には押し切られてしまったのだ。 そこで国王として条件付けで出陣を認める事にした。 その条件とは第二方面軍の将軍であるブルーノ・フォン・ アーシュ子爵と第三方面軍の将軍であるアロイス・フォン・ ランゲルト伯爵と協力する事とし派遣軍の指揮はランゲルト伯爵が取り、作戦に於ける総指揮はアーレンハイト家が取る事を承諾するならと云う条件を付けた。
バルス・フォン・ スウエー公爵も元公爵家であり元大公家で有ったアーレンハイト家の命であれば従う事を承諾した。
こうして四万五千名もの大軍がフロイデン伯爵領に向かって進軍を開始した、 軍列はお世辞にも立派とは言えない、まるで物見遊山のようであった。
その頃、ミケーネ騎士団ではフロイデン伯爵領への派遣として海兵師団とは別に五名の騎士爵と共に一万二千名の騎士団員が準備を行っていた。 その輸送には定員が60人の兵員輸送用のゴーレム馬専用馬車に30名ずつ乗り込み400台を使用する事になっていた。
その兵員輸送用のゴーレム馬専用馬車なのだが、全て支援師団に所属するルミネ・フォン・カシュー女騎士爵とデルタ・フォン・サンデ騎士爵が準備し守護師団に所属するイレーヌ・フォン・ノーツ女騎士爵や新領都ミケーネで魔法師団のアルゴ・フォン・ベナム騎士爵が合流してフロイデン伯爵領に向かった。
更に 今回も複数の調理専用の厨房馬車が随伴し、王都では参謀師団に所属するフレン・フォン・ハイム女騎士爵が指揮官専用のゴーレム馬車を伴って合流する事に成って居た。
王都で合流した五名の騎士爵は早速、指揮官専用のゴーレム馬車内で作戦会議を始めた。 作戦会議はまず 現状の把握から始まる。 この現状把握とは敵であるシーラ王国とケーラン王国の両国の現在位置と兵員の状況で有り、味方の状況である。 今回は海兵師団が別ルートから合流する為に連携を取る事が非常に難しかった。
今回はフロイデン伯爵領方面を上空よりサポートをするのは神鳥メーティスが担当する事に成った。 カールはフラウより報告を受けると神鳥メーティスを即座にフロイデン伯爵領方面に派遣をしフロイデン伯爵領方面の担当としたのだ。
カールとすれば、今回の派遣は騎士爵だけで対応を考えていたのだが、心配したマルガレータからの要請でカールはマルク・フォン・ベストラ男爵にセルベル・フォン・シュターナル男爵とジーン・フォン・ロナード男爵の三名を監督官として派遣する事にした この三名の男爵は王国から派遣される三つの方面軍に対する調整役の意味合いも有った。
◇◇海辺の街アーレン
その一方で海辺の街アーレン方面には神聖皇竜ハイドが担当する事に成った。
その海辺の街アーレン方面なのだが、実際にはシーラ王国の元公爵で有ったジャミン・フォン・シーラから割譲された領地と海辺の街アーレンの両方が対象に成って居た。 このシーラ王国から割譲された領地なのだがミケーネ山脈の外れから海辺の街アーレン方面まで細長く200㎞位あった 元々シーラ王国では余り大きな町は無く小さな町村が点在するだけだった。 そこをカールが大々的に再開発を行ったのだ。 その再開発の噂はシーラ王国中に知れ渡り 続々と人々が集まりだした。 カールや三女帝である母たちの見解ではケーラン王国の企みにシーラ王国が加わったのは、このカールによる再開発が一翼を担っているかもしれないと云う意見が有った。
カールの再開発は両国の国境に沿って大規模な領壁を築く事から始めた。 この領壁は30ⅿを超え厚みにしても10ⅿは有り、今までの城壁を遥かに凌ぐ物で有った。 もし 異世界人が見れば万里の長城かと云うかもしれなかった。
このシーラ王国から割譲された領地をカールは城塞都市ハーメルと名付けた。 この城塞都市ハーメルだが後にハーメル地方と呼ばれるようになり四つの都市が生まれる事に成る。
いま この城塞都市ハーメルを管理しているのはシュワルツ・フォン・アーレンハイトの次男でガトラム・フォン・アーレンハイトだった。 彼は父であるシュワルツから領地である海辺の街アーレンの執政官として兄であるデイビットと共に経営を任せるとの指示で勉強をしていたのだが、突如 三女帝からの指示で城塞都市ハーメルを任される事に成ったのだ 当然の事だがガトラム・フォン・アーレンハイト一人では城塞都市ハーメルを管理する事など出来ない、そこで王都からマルガレータの配下である参謀師団の面々が百人規模で駆り出されていた。
参謀師団の面々はマルガレータやカールの薫陶を受けた天才ばかりである。 彼らはマルガレータやカールから多くの指示を受けていた。 その中で最も優先され重要な事として産業を興し民に対する職の創造だった。
そしてガトラム・フォン・アーレンハイトがマルガレータから受けた命はマルガレータが派遣した参謀師団の面々を使いこなす事だった。 そんな指示に悪戦苦闘をしている時に今回の事件が勃発した。
それは突如 ガトラム・フォン・アーレンハイトは父が治める海辺の街アーレンに呼び出され 他国からの侵略の有無を告げられた。 ガトラムは父のシュワルツと違いアーレンハイト家と云うか三女帝からの無茶振りに免疫が無かった。
三女帝からの言葉にガトラムの頭の中は真っ白になった。 三女帝からの話は数年前に起こった他国からの侵略が近日中に起こるから対処しろと云うものだった。 それも前回の数倍の規模であり陸海の両面で起こると云うものだった。
ガトラムが漸く再起動したのは父のシュワルツから頭を殴られてからだった。 ガトラムとすれば弱り目に祟り目とも云える事なのだが、父のシュワルツは息子のガトラムへ領地を預かる者の心得を話し出した。
まず 自分だけで対処できるかどうかを判断する。 出来なければ、配下の者と相談し適切な判断を下すのだが、時には緊急性を要する場合が有る そしてシュワルツはこのような緊急性が有り危機的な場合には必ず上位者であるアーレンハイト家に報告をしろと教えた。
得てして若くして広大な領地を任されると自分が偉くなったと勘違いし慢心を興す、その慢心が思考の低下を呼び、緊急の時に思考の停止から手遅れを招くのだ。
ガトラムは幸いな事に自分の未熟を知って居た。 その為に素直に援助を求める事が出来た。 その援助とはミケーネ騎士団の派遣要請である。 その願いは即座に了承されミケーネ騎士団が駆けつける事に成った。
それと同時に父のシュワルツに対し海兵師団の派遣要請をだした。 シュワルツは息子からの要請に笑みを浮かべ了承の意を示した。
ここで漸く海辺の街アーレン方面の防衛が動きが出たと云えた。 その日の内に海辺の街アーレン方面に派遣される陣容が発表された。
総勢は三万八千人となり ミケーネ騎士団の総人数である その内八千名は海兵騎士団に所属するため、陸地では三万人の派遣となる。
ミケーネ騎士団に所属するから守護師団からハリー・フォン・バリュー騎士爵が選ばれ魔法師団からはアネット・フォン・アルツ女騎士爵が選ばれた。 更に支援師団からは複数の兵員輸送用のゴーレム馬専用馬車と今回も複数の調理専用の厨房馬車が随伴する事に成り王都から参謀師団としてソティス・フォン・ビスケ女騎士爵とオース・フォン・コロン騎士爵が指揮官専用のゴーレム馬車を伴って合流する事に成って居た。
更にマルガレータの親心なのだが守護師団に所属するグラーフ・フォン・マクレガン男爵と同じく魔法師団に所属するボーレン・フォン・ガスパール男爵の両名が後見として加わる事に成った
この両名の男爵は海辺の街アーレンと城塞都市ハーメルに分かれて五名の騎士爵たちの見守りを行う。




