第1話『時代の放逐者(アナクロニズム)ー①』
初めて物語を書きます。
稚拙な表現、矛盾した点、読みづらい点等々あると思いますが、ゆるく楽しんでいただけると幸いです。
ありきたりな魔法ファンタジーですが、頑張って面白くしていきたいのでコメント等もらえると泣いて喜びます。
誤字脱字等あったらご指摘いただければすぐに訂正します。
《魔法》。
それは、人々の手にした神授の力。
《ある条件》の下発動し、人々が超然的な力を使用することを可能にする。
火を放ち、水を噴き出し、雷を纏い、氷を創造し――――人は、神になった――、そう錯覚した。
無論、万能ではない。
万能ではないし、無限でもない。当然のことながら、最強でもない。
故に、そこには絶対的な壁が存在する。
実に簡素で、実に残酷な、超えられないもの。
才能。
無能な者と才ある者。その二つの存在が、世界を支える根幹。
全ての者がその二項対立に悩み、踊らされ、あまつさえ人生を狂わされる。
それが、この世界を取り巻く全てだった。
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春。昼下がり。
日差しがこれでもかと照っている。異様な温度と湿気だ。夏が近づいているといっても、この暑さはさすがに異常としかいいようがない。時折吹くそよ風の心地よさだけが春の余韻を僅かに残していた。
うなだれるほどの暑さに、黙っていても汗が頬を伝う。袖は、既に拭った汗で湿っていた。辟易しながら、少年は額に浮かんだ汗を振り払う。
少年を乗せた荷車は、不規則に揺れながら荒野を進んでいた。砂と背の低い雑草しかない、不毛の地。命の恵から見放されたであろうその地を、車輪の跡を残しながら軽快に進む。車輪が小石にぶつかる度に荷車全体が軽く揺れた。
「アンチャン、もう着くぜ。大丈夫かい?」
積み重なった荷の向こう側から、酒焼けした声が聞こえる。丸々と脂肪を蓄えた、ふくよかな男だった。毛の薄い頭が、じっとりと浮かんだ脂汗で光っている。
「あ、はい。わざわざありがとうございます」
「なに、気にするな。助け合ってこその旅だろ?」
男は浮かれているのか、時折鼻歌を響かせる。それを、少年は黙って聞いていた。
「アンチャン、こんな時期にここを渡るってことは、《 時代の放逐者》に加入する魔法使いかい?」
「……はい」
「へぇ~、あんたも変わり者だねぇ。あそこより条件の良いギルドはいっぱいあるのに」
「え、えぇ、まぁ」
少年は、適当に笑って誤魔化した。そこしか行く場所がないなど、言えるはずもない。
「にしても、今期の《 時代の放逐者》は大変だよな。確か、新規加入者が二人だったか?」
「らしいです。マスターも頭を抱えているそうですよ」
「つまり、アンチャンはボランティアなわけだな」
「まぁ、そんなとこです」
「ははっ、良い奴だな、アンチャンは」
男のガハハという笑い声が、少年には少し不愉快だった。男は嫌味なつもりで言ったわけではないのだろうが、少年にとっては閉口したくなる発言だ。
(ボランティア……? ――違う、そんなんじゃない。僕は――――)
口から出かけた侮蔑の言葉を呑み込み、顔をしかめた。
荷台の中を見回していた少年の視線が、ある一点で止まった。目の前の木目に、一匹の虫が止まっていたのだ。前足を擦り合わせ、その場で右往左往している。近くに仲間がいるわけでもなく、その木目の周りを行ったり来たり、まるで彷徨う子供のように動いていた。
「…………君も、一人なの……?」
言ってから、自分は何を言っているんだろうと思った。まさか、こんなところまできて愚痴をこぼすなんて。それも、ちっぽけな虫相手に。つい、自虐的な笑みが浮かんだ。
(馬鹿だな、僕も)
自分で選んだ道なのに、何故か間違っているような気がする。周りからこの道を押し付けられ、自身、その道を是とした。だから、間違っているはずがないのに。こんな場所で思い返す必要もないはずなのに、何故か思い出してしまう。己の、咎を。
(っ――!)
右手を伝う汗が、突然生温かさとぬめりを含んだものに変わった気がした。怖気と戦慄が背筋を走り、慌てて両手を見る。
自身の手を濡らしていたのは、当然のことだが無色透明の汗だった。血である、はずがない。
かぶりを振り、息を吐き、掌を拭う。掌にあった妙な幻覚は、それで消えた。
「くそっ……今更何で……」
少年はそう唾棄すると、もう一度だけ深呼吸をした。今度は、眠りにつくために。
「すいません。着いたら、起こして下さい」
男の返事を待たずに、少年は立てた自身の膝の間に顔を埋めた。
不規則な荷車の揺れが、少年の不快さをより増しているような気がする。眠れる気がしなかった。
△▲△▲
荷車を降り、太った男の笑った横顔を一礼して見送ると、少年はくるりと踵を返した。
目の前には、巨大な建造物が一つ。あしらわれた装飾の数と建物自体の大きさが、それが如何に神聖な場所であるかを物語っている。堅甲で、強固な造りの建物。魔法使いが集うその建物は、《ギルド》と呼ばれた。
ギルドの名は、《 時代の放逐者》。
この大陸の四本柱の一角――王家直属のギルドである。
(これが……王家直属ギルド……)
少年は、ギルドの様相を振り仰いだ。
全体が石造りの外装。立ち並ぶ尖塔のうち、中央のひと際高い尖塔に掲げられた旗には、ギルドを示す懐中時計の紋章。その左右の塔に、《クラガ王家》を示す神剣と、神を表す双頭の鷲。それらが、春風にはためく。
自身がこれから訪れる場所の壮大さを目の当たりにして、少年の心に冷たい何かが走った。恐らくは畏怖の類であるそれを噛み殺し、少年は再度、ギルドの全容を仰ぎ見た。
少年の名は、エレン。今年で十七歳になる。風に靡く黒髪と、端正な顔立ち、細身でいてがっしりとした体躯。その表情には、まだ幼さが垣間見え、あどけなさが残る。だが、温厚そうに見える表情とは一転、眼光は鋭く、鈍い輝きを放っていた。
その双眸には、これから門を叩くギルドの姿が、淡い輝きを放っているように映った。
と、少年の視線が一点で止まった。建物中央の巨大な扉が勢いよく開き、一人の女性がこちらに向かって手を振りながら駆けてくる。長い赤髪が尾を引く、長身の女性だ。遠目からでも美人だと分かる、整った顔立ちだった。
「あなたがエレン君ね? マスターから話は聞いてるわ」
「あっ、はい。えっと、確か……」
女性の顔から視線を逸らし、一度視線を足元にやる。
そうして、全身をさっと見た。
大きく露出した、白磁のような肌、燃えるように情熱的な赤髪、ドレスの胸元を押し上げる柔和な膨らみが目に入り、一瞬ドギマギした。可憐さよりも妖艶さを持っているな、とエレンは場違いな感想を抱く。
「えぇ、このギルドの看板娘――っていうのは冗談で、受付嬢のマリーナよ。マリーナ・アレフォック。よろしくね」
ぺこりとお辞儀をしたマリーナを見て、エレンも慌てて頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします」
「こんな遠くまでよく来たわね、疲れたでしょ」
「あぁいえ、大丈夫ですよ」
「ほんとに? 若いからかな」
クスクスと茶目っ気のある微笑みを浮かべる。その純粋さが、やけに眩しかった。
「こんなところで立ち話するのも何だし、早速だけどギルドの方を案内するわね」
マリーナが視線を後方に向けた。ついてきて、と言っているようだ。
エレンは、黙って彼女のあとを追った。
扉の手前、マリーナは足を止める。一瞬の静寂があり、彼女がこちらに振り返る。
鷹揚に手を広げ、明るい声で言った。
「ようこそ、《 時代の放逐者》へ。歓迎するわ、エレン君」
建物越しの春の陽射しが、異様に眩しかった。エレンの加入を歓迎しているようであり、拒絶しているようでもあった。
(ここから、始めよう……)
一先ずエレンは、その陽光を祝福の来光として捉えることにした――
第1話というよりプロローグ的な位置付けかなと思います。




