初戦初観戦
インターハイへの地区予選、ハヤトが所属する私立天神高等学校はシード枠でスタートする。
一回戦を勝ち上がってきた相手も決して弱くは無いのだが下馬評通りなら九割勝てる相手とされる、ハヤトはこの風評が嫌いだった。
勿論選手としてチームとして実績と事実の見え方として評される事も、勝ち負けのあるスポーツでは必ず起こりうるものだと受け止めてはいるが。
(ジュニアユースの時から試合の度に言われるんだよな、勝てる相手だって……絶対なんてないのに)
ストレッチをしながらハヤトは息を吐く。
「ハヤトどうした難しい顔して、お前が珍しい」
話しかけて来たマサルを見て「俺も考える事はあるぞ」とだけ告げておく。
「なんだよ変な奴だな、そうだもうすぐスタメン発表だけどハヤトは温存らしいぞ」
「え?」
「なんかキャプテンが秘密兵器は隠しておくって明言したらしい、監督も頷いたって」
「え〜サッカー出来ないのか……」
「いやいや後半じゃないか?」
「集合!」
轟監督の号令に部員が集まる。
「今日が初戦、ここから負け無しで初めて優勝に手が届く、皆気合い入れて行け!」
「はい!」
「ではスタメンとベンチだが——」
話は先に聞いた通りだった、ハヤトはベンチスタートとなりスタメンはキャプテンの須藤を中心とした三年で固められた始まりになる。
ハヤトの目から見ても安定感あるチームだし個々のスキルは高いと思う、しかし尖った要素が無く良くも悪くも無難なサッカースタイルになる傾向の学年であった。
マサルはスタメン、ベンチ共に外れ応援団に周る。
それでもそれが今自分の出来る事だと受け入れていた、一年の試合登録は自分だけとなり後半に出番が来るかを楽しみにしていた。
「ハヤト……頑張ってね」
観客席はまだ予選の為かまばらな観客数、その中に母文香は大きな帽子を被り気品漂う姿勢でハヤトの出番を待っていた。
今日出るかは分からない、それは前日ハヤトとの会話で知っていた事なので構わない、息子の大会の様子を観に来ただけで元気ならスタメンでもベンチでも応援団でも良い。
文香はベンチに座るハヤトを遠目で見て微笑み、隣の女性に声を掛ける。
「アンナさんは試合観戦は初めてかしら?」
声を掛けられたのはアンナだった。
学校のグラウンドとは違って観客席が有り夏の暑さが試合の熱気を高めている、ついついキョロキョロしてしまう。
「は、はい……良いんですか?私なんかも観戦に来ちゃって」
「うふふ、きっと私より貴女に見てもらう方がハヤトは喜ぶわ」
そう言うと文香はヒラヒラと遠くに手を振った、その先にはじっとこちらを見ているハヤトの姿が見えた。
なんだか軽く悶えてるようだが恥ずかしがってるんだろう、そう言うところは年頃の子らしさを感じる。
ピッ!
試合が始まった、白のユニフォームでボールをコントロールする私立天神高等学校の統率力から始まる。
「文香さんはサッカーお詳しいんですか?」
「小さな頃からハヤトを見たりしてましたが、これでも女子フットサルもやってましたので人並みには知識ありますのよ」
なんでも聞いてねと言った感じで胸に手を当て笑いながら詰め寄られる、対してアンナは試合観戦は初めてだしゴールキーパー以外手を使ってはいけないと言うぐらいしかルールも知らない。
「あ、最初のチャンスですわよ」
「え?」
天神高校が隙を突いて仕掛ける、左右に揺さぶって空いたスペースにボールを送り込んで選手が走り込んだ!
バン!
少し態勢が悪かったかゴールの遥か上を通り過ぎてしまった。
「わぁ……縦横無尽にボール動かして最後決めるんだ……」
アンナに取っての初体験は見る全てが刺激的だった、ボールを蹴る反発音が以外に青空に響いたり選手の指示が行き交ったり、応援団の応援の一体感が大きく感じたり。
「うふふ、アンナさんいかがです?」
「凄い……観戦楽しいですね!これでハヤト君が出て来たら……!」
すっかり虜となったアンナはハヤトに期待を寄せる、今日出るかは分からないが。
試合がすすんでついに拮抗が破れた。
相手チームに与えたファウルがまずかった、ゴールキーパーと一対一になるPKと言うやつだ。
キッカーとキーパーの睨み合いにアンナの胸まで高鳴る……ドン!と振り抜かれた足元の音はシュルルとゴールネットを揺らしていた。
「あぁ……」
天神高校は前半先制を許してしまった。
「力量差は天神高校が圧倒的に上ですけどサッカーはこの一点で勝負が決まりますわ、ここから天神高校の底力が見えるかもですね」
文香は点を取られた事には然程驚きが無いようだった、むしろここからの逆転を見ているような口ぶりで笑みすら浮かべてる。
そして間も無く前半が終わってハーフタイムを挟む、そして後半……。
グラウンドに飛び出す選手の中にハヤトが見えた。




