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四十二章 †砕けぬ鎧†

「ちょっといいかしら」

 ハルクスが挙手して言う。

「何じゃ?」

「一回戦は私たち、二回戦はアナタたちが先に選出したけど、ここからは同時に選出するようにできないかしら。公平なゲームでなくちゃつまらないでしょう?」

「くくっ、分かっておる」

 得意げに言って、マウトは前に出ると、三陣営を分断する壁に手のひらを置く。

 すると透明だった壁が波打ち始め、やがて真っ黒に変化した。

「これで誰を選んだかは見えぬ。声までは遮断できぬから、作戦会議は小声でするが良い。制限時間は、そうじゃのう……一分としておくか」

「いいわ。それじゃあ始めましょう」

 と、ハルクスは指を鳴らす。

「うぬが仕切るでない!ゆくぞ、選出開始じゃ!」

 マウトは少し口を尖らせながら、人差し指を高く突き上げて宣言した──そのポーズは黒い壁に遮られて他陣営からは全く見えなかったが。

 すぐにメルトたちは集まって円を作り、話し合う。

「どうする?オレかハルにゃんかクツミカ……」

「実力的にはクツミカだろうな。相手はシガナが出てくるかもしれねえし、さっきの組み手で圧倒してたあんたなら問題なく勝てるはずだ」

 カガリは歯に衣着せずに率直な意見を言った。

「ンフフ、僕もそれで問題ないが……異論はあるかい?」

 クツミカは自信満々な笑みを浮かべつつ、メルトとハルクスの顔を窺う。一応新参者であるという自覚は持っているようだ。

「いや、カガリが言うなら間違いねえさ。頼んだぜクツミカ」

 メルトは笑って言い、拳を突き出す。

「そうね。ちょうど私もアナタの全力が見てみたいと思ってたところよ。さっきの組み手だけじゃ底が見えなかったもの」

 ハルクスも冷静に腕を組んだまま、ウインクして見せた。

 アダーとカガリも同意するように頷く。

「そうか。分かったよ。それじゃあ最強の竜人であるこの僕の本気、とくと魅せてあげるとしよう」

 と、クツミカはサークルへ足を踏み入れた。

「そんじゃしっかりぼくのカタキ、取ってきてよねっ」

 アダーが気合いを入れるように背中をポンと叩いて送り出す。

「ンフフ、任せておきたまえよ」

 クツミカがロン毛を手で払いながら応えたところでちょうど一分が経過し、サークルが光り始める。

 光に包まれたクツミカの姿が消えると同時に、黒く変化していた壁も元に戻った。


「おや?これは予想外……シガナじゃないのか」

 荒野に移動したクツミカが対峙したのは、身長四十センチほどの小人族の女──リヴァスだった。

「ウチはリヴァスや。よろしゅう」

 準備運動がてら右腕を回しながらリヴァスは名乗る。

「君のような小さな子を相手にするのは気が引けるが……チームのためだ。全力で勝たせてもらうよ、ンフフ……」

 と、クツミカは言葉通り、瞳を青く光らせる。

 竜の力が全身に迸り、爪と牙がミシミシと音を立てて鋭く変化していく。

「いきなり"竜憑依ルナ・ゴラド"だ!」

「いいねいいね〜!ホントに速攻で決めちゃう気だね〜!」

 観戦するメルトとアダーもボルテージを上げ、食い入るように前のめりになる。

「あ?子供扱いすんな!ウチはもう十六やっ!」

 リヴァスは怒鳴りながら、仕掛けた。

 強烈な踏み込みで地面を割りながら接近し、クツミカに突き出した右手を槍に変形させる。

 その槍をクツミカは片手で掴み止め。

「十六……?やっぱり子供じゃないか」

 余裕の表情で言う。


「アイツ……シナンの末裔か……!」

 変身能力を見たカガリはすぐにリヴァスの正体に気付いた。

「シナン?」

 きょとんとした顔で訊くメルトと、同じくその隣で眉をハの字にするアダー。

「十勇"シナン・デッドリー"──ほぼ不死身みてえな超再生能力と、あらゆるものに体を作り変える変身能力を持ったヴァンプ族だ。あたしも一度だけ()り合ったことがあるが……クツミカの能力じゃちょっとキツいかもしれねえな……」

 眉を顰めるカガリの言葉に、メルトたちも息を呑んだ。


「アホ、小人族の十六歳は立派な成人やっ!」

 とリヴァスは左手をライフルに変え、即座に銃撃を放つ。

 クツミカは空いている片手でその銃口を掴み、射線をずらしてかわす。

「そうか、それは失礼した。まあ、ただの小人族にも見えないけどね」

 やはり落ち着いた態度でクツミカは言う。すでにクツミカもリヴァスの正体には勘付いているようだ。

 が、直後、リヴァスは右膝に大砲を生やす。

 両腕を抑えて動きを封じた気でいたクツミカは反応できず、膝から放たれた砲弾が腹に直撃した。

「……ンフフ……!本当に全身が凶器のようだね……!」

 クツミカは痛みを堪えるように顔を歪めつつも、一歩も引かず踏ん張っていた。

 ──嘘やろ……この至近距離で大砲パナして、ほぼノーダメかい……!

 リヴァスが驚愕したのも束の間。

 クツミカは掴んだリヴァスの腕を引っ張り上げ、勢いよく地面に叩きつける。

「ぐえっ……!」

 受け身が間に合わず顔面から落ちるリヴァス。

 しかしクツミカは容赦なく再び振り上げ。

「そら!そら!そら!そらぁ!」

 何度も何度も叩きつける。

「ひえ〜……えげつな〜……」

 そう言って水晶から顔を逸らすアダーに。

「いや、あんたもやってることだいぶエグかったぞ……?」

 カガリの冷静なツッコミが刺さる。

「ごぇっ!ぐおっ!ぶえっ!」

 とリヴァスは打ちつけられるたび呻き声を上げながら、ミンチのごとくに血肉を飛び散らせる。

 次第にクツミカの足元には血溜まりが広がっていった。

 そしてやがて、リヴァスの原形が全く分からないほどに変わり果てるとともに、その呻き声すらも聞こえなくなった。

「……ふぅ……外に出られないということは、これでもまだ死んでいないのか。まったく、恐ろしい生命力だね」

 呆れたように苦笑を浮かべるクツミカ。

 攻撃が止んだその一瞬、散乱したリヴァスの肉片全てが、マグナムに変形し。

「!」

 一斉射撃が始まった。

「くははっ、パンチャーを撃ち殺した時と同じじゃのう」

 マウトは見覚えのある光景に笑みを浮かべる。

 だが、同じ結果とはならなかった。


「これだけかい?」


 一斉射撃が終わるとクツミカは、平気な顔で立っていた。

 弾丸は全て皮膚に当たってひしゃげているようだ。多少減り込んでいる弾丸もあるが、大きなダメージには至っていない。

「まるでドレッドノート家だな……」

 その光景を見たカガリは呟く。

 スパイラル家と同じく世界連盟に多く所属する、ドレッドノート家──鋼の肉体を持つ十勇シュウ・ドレッドノートの末裔が頭を()ぎる。

 クツミカが首や腕を回して全身に張り付いた弾丸をポロポロと落としているうちに、リヴァスの肉片も一箇所に集まって体が徐々に修復されていた。

 顔面が再生し、ようやくクツミカの姿を目にしたリヴァスは、一言。

「マジか」

 呆気に取られるリヴァス。

 対してクツミカは髪を掻き上げながら。

「凄い再生力だ。だが殺傷能力が足りない。それでは僕には届かないよ」

 やはり余裕の表情で言う。

 クツミカの言葉に、観戦するレイボンは顎に手を当てながら冷静に思考する。

 ──事実だ。あの時パンチャーを倒せたのも、私の"零煩れいぼん"ですでにダメージを負っていたからこそ……所詮ただの銃撃程度では、真の強者には威力不足……ということなのだろう……。

「とは言えだ。このままじゃあ埒があかない」

 と、クツミカは治りかけのリヴァスの首根っこを掴んで持ち上げる。

「ぐっ……な、何する気や……」

「ンフフ……とっておきを見せてあげよう」

 次の瞬間、仮想空間内が巨大な光に包まれる。


 直後、二人は水晶の外に弾き出された。

「え?な、何したんだ!?」

 突然の幕引きに困惑するメルトたち。

 水晶に映し出されていた景色も光に白く塗り潰され、決着の瞬間は一切見えなかったのだ。

「ンフフ……僕の竜憑依(ルナ・ゴラド)の力を最大まで引き出しただけさ。並の攻撃では彼女は殺し切れないからね」

「今の光……熱か?完全に蒸発させたんだろ」

 とカガリ。

「ああ。僕の放つ熱は君の紅蓮拳にだって負けないよ」

 誇らしげな笑みを浮かべながらクツミカは言う。

「あのなぁ……」

 カガリは眉間に手を当てながら、大きく溜め息を吐いて。

「あたしらは仲間なんだぞ!?仲間に情報隠してどうする!アダー、あんたもだ!後で洗いざらい吐いてもらうからなっ!」

 無関係のような顔でそっぽを向いていたアダーは、悪戯がバレた子供のように振り返ってはにかむ。

「プププ、ごめんちゃ〜い」

「ああ、すまない。まさかこんなところでこれを使わされるとは思ってもみなかったものでね」

「ったく……」

 腕を組んで呆れるカガリを。

「まあまあ、いいじゃねえか勝ったんだから」

 とメルトが純朴な笑みで宥める。

 一方、マウト陣営では。

「すまん、負けてもたわ」

 リヴァスは自分の頭を片手でくしゃくしゃと掻きながら、ぶっきらぼうに謝罪した。

「くく、充分じゃ。面白いものを見せてもらった。彼奴の竜憑依(ルナ・ゴラド)……正体は分からぬが並外れた力を秘めておるようじゃのう」

 マウトは楽しげに笑い。

「して……次の仲間はどちらを選ぶ?」

 とメルト陣営へ問いかける。

「クヤだ」

 答えたのはカガリ。

「あぁ!?」

 自分が選ばれなかったことに憤慨して目を剥くビーツに。

「じゃ、お先に」

 とクヤは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「ほう、理由は?」

「言うまでもねえだろ。魔族と戦うなら炎は有効だ。"熱"は魔力防壁じゃ防げない」

「くくっ……流石、数多の魔人を紅蓮拳で仕留めてきただけのことはあるのう」

 マウトとカガリの問答の後、クヤの足元にサークルが浮かび上がり、メルト陣営へと移動させた。

 目の前に現れたクヤにメルトは手を差し出し、言う。

「よろしくな、クヤ!」

 クヤはその手に応え。

「よろしく」

 と静かに言った。

「さて、では最終試合と行こうかの。まあどうせ余り物じゃ、ここは手短に済ませたいところじゃが……」

「誰が余りもんだコラ!!」

 毎度のごとく声を張り上げるビーツを受け流し。

「一つ、提案がある」

 と人差し指を立ててマウトは言った。

「提案だぁ?」

 カガリは訝しげに睨む。

「奇しくもここまで、全て十勇の末裔同士の戦いが続いたじゃろう?じゃが残った五人は一般人じゃ。はっきり言って見応えがないとは思わぬか?」

「あ?知るか!ゲームを楽しんでんのなんててめえだけだろうが!」

「くくっ、そう声を荒げるなカガリよ。そこで妾は思い付いたのじゃ。最終戦は各チームの"最弱"同士で戦わせようとな」

「はあ……!?」

 その提案に、カガリは困惑混じりに片眉を上げ。

 横目でメルトをちらりと見たが、メルト本人はその意味が分かっていないのかきょとんとしている。

「誰を出したところで、これまで以上の試合など期待できまい……ならば、逆の発想というわけじゃ。レベルの低い児戯のごとき試合を応援するというのもまた一興──運動会を観に来た親の感覚じゃよ。魔族である妾よりも、むしろうぬらの方にこそ分かってもらえると思うたんじゃがのう」

「ん〜……分かるような分かんないような……?」

 アダーは首を傾げ。

「うふふ、そんなこと言われても子持ちがいないから通じないみたいね」

 ハルクスは周りの反応を見た後、残念でしたとばかりに肩を竦ませる。

「いや、僕は娘が一人いるよ」

 と小さく挙手したのは、最後列にいたクツミカ。

「ええ!?クツミカ子供いたのか!?」

 メルトたちは思わず一斉に振り返る。

「ンフフ、まあね……とは言え、これは運動会とは違うからね。悪いが共感はできないかな」

 僅かばかり怒りの乗った声でクツミカは言った。

 愛する子供を危険に晒して喜ぶ親などいない──そう言いたげな雰囲気が瞳に表れている。

「くくっ、そうか、それは残念じゃ。じゃが妾はもう決めたぞ。こちらはこのレイボンを出す」

 と、マウトは手前勝手に話を進めて、後ろに立つレイボンを手で指し示した。

「まあ、最弱と言うなら私になるだろうね」

 レイボンは腕を組んだまま、一歩前に出る。

 そしてマウトはメルトを指差し。

「さあ、そちらはメルトを出してくるが良い」

「おう!望むところだ!」

 メルトは拳を握り締めて熱く応えるが。

「待て待て待て」

 とカガリが呆れ顔で止めに入る。

「こんなもんに乗る必要ねえぞ。"決定結界(サンクチュアリ)"の強制力が働くのは結界を張った時点で付与してたルールだけだ。後付けルールに意味はねえ。それにあのレイボンってのが本当に最弱かどうかもあたしたちには判断できねえしな」

「なるほど……」

 少し残念そうにメルトは引き下がる。

「くくく、妾が騙しておるとでも?ならばうぬらの持つスマホとやらで検索してみるが良い。"ボンたむ"とな」

 マウトはスマホを持つようなジェスチャーをして促す。

「ボンたむ……?」

 ハルクスがぴくりと反応する。

「知ってるのか?ハルにゃん」

「知ってるってほどじゃないけど、聞き覚えはあるわね。たしか、X-TUBER(エックスチューバー)よ」

「違う!私は芸術家だ!」

 ハルクスの言葉に、レイボンは反射的に声を張り上げた。

 そんなやり取りの横でカガリはマウトに言われた通りスマホで確認すると。

「へえ……本名レイボン・ラルバル、十七歳。小人族。職業芸術家、兼X-TUBER。爆発を芸術とし、自分の芸術を表現するためなら手段を選ばないことから、度々炎上する。警察沙汰になったことも数知れず……だってさ。迷惑系ってヤツか?」

 検索サイトの最上位に表示された情報から、怪訝な顔になる。

「誰が迷惑系だ!芸術の分からない愚か者が私の爆破を評価しようなどと、笑止千万!」

「いや評価とかじゃなくて実際……」

 怒りを露わにするレイボンに反論しかけて、思い止まるカガリ。

 こういうタイプの人間は何を言っても聞く耳を持たないだろうことは容易に想像できた。

「……だがまあ、確かにこの情報だけだと特に強い要素はねえな……行ってみるか?メルト」

「え!?いいのか!?」

 メルトの表情がぱあっと明るくなる。

「ああ。実践で魔力を試せるチャンスだ。強くなったあんたの力を見せつけてやれ。いいよな?ハルクス、クヤ」

 とメルトの背中を叩きつつ、後ろの二人に視線を送る。

「うふふ、お好きに。私は元々メルトちゃんが最弱だなんて思ってないもの」

 ハルクスは言う。

 クヤも続いてこくりと頷いた。

「ありがとう!行ってくるぜ!」

 二人の顔を見てメルトは頷き返すと、サークルに足を踏み入れた。

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