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読んでいただいてありがとうございます。「侯爵家の次女は姿を隠す」のコミックス二巻が5/8に発売されました。よろしくお願いします。
「出ないつもりだったのか?」
「はぁ。その、いつも通り仕事を……」
「真面目なのはいいが、今回は出ろ」
「……はい」
皇帝陛下から呼び出しをくらったラフィーネが恐る恐る執務室を訪ねると、五日後に開かれる皇宮で催される夜会の出欠を確認された。
今までだといつも給仕をしたり、他国や遠方から来る貴族たちのために部屋を整えたりと仕事をしていたので、今回もその予定だと答えたら呆れられた。
「今回はお前が伯爵になってから初めての夜会だ。しかも婚約者として堂々とヴァッシュと一緒に出られるな。自分こそがリンゼイル伯爵でヴァッシュの婚約者だと、しっかり周囲に見せつけろ」
「見せつけるのですか」
「そうだ。出来たばかりの婚約者であるお前が不在だと知れば、女性陣がヴァッシュを放ってはおかないぞ」
「え?あ、そうですね」
ヴァッシュの妻の座を狙う女性は多い。
昔は、自分には全く関係のない方だと思っていたので、遠くから大勢の女性に囲まれているヴァッシュを見て大変そうだなと思って仕事をしていた。
あの頃の自分に言ってあげたい。その方と思いっきり関わることになりますよ、と。
「前日の午後から休みにするように女官長には言っておくから、ヴァッシュと一緒に来いよ」
「はい。ご配慮ありがとうございます」
嬉しさ半分、夜会から逃れられなくなったという面倒くささ半分という複雑な気持ちでラフィーネは皇帝の部屋を出た。
「……以前の私なら、ドレスをどうしよう、とか悩むところなんだけど……」
多分、おそらく、絶対、ヴァッシュ様が用意してくれている。
「うーん、私、だいぶ素直に甘えられるようになってきたよねー」
意気込んで自分で何とかしなくては、という気持ちはだいぶ薄れてきたと思う。
意外と婚約者を甘やかすことが好きなヴァッシュを、頼るようになってきた。
頼っても、裏切られないって分かったから。
ちゃんと約束を守ってくれる人だって、信じてるから。
「ラフィーネ、どうかしたのか?」
一人でにやにやしながら歩いていたら、ヴァッシュが不思議そうな顔をして声をかけてきた。
「ふふ、何でもありませんよ、ヴァッシュ様。ところで、五日後の夜会のことなのですが……」
「あぁ、陛下から、ラフィーネが出ないつもりかもしれないと言われたんだが」
「先ほど、陛下から出るように言われました。ヴァッシュ様の婚約者として堂々としていろ、と」
「いつも仕事をしていたのか?」
「はい。いつもは、遠くからヴァッシュ様のことを拝見させていただいていました」
「助けてくれてもよかったんだぞ?」
「そう簡単に公爵閣下に話しかけられませんよ」
「そういうことにしておこう。一緒に出るつもりだったから、ドレスの用意はしてある」
「はい。ありがとうございます。前日の午後からお休みをいただきました」
「なら、うちに泊まっていけばいい。うちの侍女たちが、前日から念入りにエステをしてくれるさ」
「悔しいですけど、皆さんに揉みくちゃにされた翌日のお肌の調子の良さには、本当に驚いています」
公爵家の侍女の皆さんの腕前はものすごかった。
エステの翌日は朝からお肌はふっくら艶々で、触り心地もツルツルしていて信じられないくらいだ。
一度、その感触を知ってしまったら虜になること間違いなしの腕前なのだ。
「婚約してから、初めての夜会だな」
「はい。陛下から、私こそがリンゼイル伯爵でヴァッシュ様の婚約者なのだと見せつけろ、と言われました」
「そうだな。当然だが、俺たちは貴族の中では最後に広間に入る。堂々と行こう」
「はい」
皇宮での夜会には、基本的に全ての貴族が出席することになっている。
おそらく、父と兄もいるだろう。
男爵家の二人は最初の方の入場だし、ヴァッシュと一緒にいれば声をかけられることもないだろう。
もし、何か言ってきても、優雅に微笑んで嫌みの一つや二つ……この際、出来る限り言ってやろう。
「そっか、巷で噂の小説に出てくる悪役令嬢をすればいいのね!」
「まてラフィーネ、何だ、その悪役令嬢とやらは?」
「人気の小説に出てくる令嬢で、堂々とした態度と貴族らしく嫌みたっぷりの台詞を言うプライドが高くて自己中心的な女性のことです」
言葉に出すだけでも、相当な令嬢だと思う。
けれど、父や兄が出てきた時は、相手をするのにそれくらいがちょうどいい感じがする。
「その令嬢はラフィーネとは正反対のような女性だから、ラフィーネには似合わないな」
「そうですか?意外と似合うと思うんですが」
ちょっと派手な扇子を持って上から見下げる感じでやれば、いける気がする。
「似合わなくていい。そもそも、どうして公爵の婚約者が悪役令嬢をするつもりでいるんだ?」
正直、似合わないと言ってはみたものの、ラフィーネはそういう姿も似合いすぎて困るくらいに似合うと思う。
だが、ヴァッシュは、ラフィーネの中身が案外天然であることを知っている。
「お兄様やお父様が近付いてきたら、そんな感じでちょっと突き放そうかと……」
「突き放すのは俺の役目だから、わざわざラフィーネがそんな小芝居をすることはない」
「え?そうですか?」
「あぁ、それに伯爵として表に出る初めての夜会で、そんな変な女を演じる必要はない」
危なかった。
危うく、いつものラフィーネの斜め上の暴走が始まるところだった。
ラフィーネを守るのはヴァッシュの役目なのだから、わざわざ小説に出てくる悪役令嬢とやらになんかならなくていい。
「そのままのラフィーネでいてくれ。陛下やオルフェたちもいるから、いつも通りのラフィーネでいい」
「そうですか?ヴァッシュ様がそうおっしゃるなら……」
「あぁ。だが、そうだな、その悪役令嬢とやらを今度俺の前でやってみてくれ」
ちょっと上から目線のラフィーネも見てみたい。
ちょっとした好奇心からそんな風に頼んだのだが、後日、ノリに乗った侍女たちの手によって正統派悪役令嬢の姿があまりにも似合い過ぎていたラフィーネに、ヴァッシュは「他人にはその姿を見せるな」とだけ言った。
ラフィーネはというと、どうやって髪の毛を縦ドリルにしたんだろ?色んな液体を付けられたけど、それのせいかな?などと暢気に思っていたのだった。




