42
読んでいただいてありがとうございます。42を丸で囲おうとしたら変な風に文字化けしたので、丸囲いなしです。
父親に言われるがままにラフィーネの居場所を探ろうとしたデリックだったが、皇宮内にあまり伝手がないので仕方なく、以前冷たい態度を取られた同級生を訪ねた。
皇宮内で捕まえた彼は、少し面倒くさそうな顔をした。
「デリックか、何の用だ?」
「すまないが、ちょっとラフィーネのことで聞きたくて……」
「お前の妹のことを?何で俺が?」
部署も違うし、働いている場所も全く違う。
普段だって、仕事中にちょっと言葉を交わすかな?程度の付き合いだ。
「その、ちょっと色々とあって……。ラフィーネに秘密にしておいてほしいんだ」
「それ、変なことに巻き込むつもりなんじゃないだろうな?」
「違う!違う!ちょっと父に言われて!」
「親に?お前……」
同級生が呆れたような顔でこちらを見たが、この同級生に何と思われようと、デリックはラフィーネのことを知らなくてはいけなかった。そうじゃないと、父に役立たずと言われてしまう。今まで、嫡男として父に甘やかされて育ってきたデリックは、父に見捨てられてしまうかもと思って怖かった。
「……今回の騒動の顛末は聞いている。お前のところは男爵に落ちたらしいな」
「……あぁ、そのことで、ちょっとラフィーネに聞きたいこともあるんだ」
「だったら、ラフィーネ嬢に秘密にすることなんてないだろう?堂々と会いに行けばいいじゃないか」
「それは、家族の」
「家族ねぇ。じゃあ、何でラフィーネ嬢がけっこう前から皇宮で働いてるのに、お前は暢気に留学なんてしてたんだ?帰って来てからも、どこかで働いている様子もなさそうだし」
「家を継ぐから、父に色々と教わっていたんだ」
目を逸らし続けていたことを聞かれて、デリックは目を逸らしてぼそぼそと言った。
父が領地経営の分から出してくれていると思っていた留学費用は、妹が嫁ぐのと引き換えに手に入れたお金で、自分がフレストール王国に留学している間に、妹は皇宮で堅実に働いていて、皇宮内での評判がいい。しかも、妹は皇帝からも信頼されており、リンゼイル伯爵の名はラフィーネが継ぐことになった。
それらは、全てデリックが手に入れたかったものだ。
皇宮内での名声も、皇帝の信頼も、リンゼイル伯爵の名も。
留学から帰ってきて、父から領地のことについて教わったら、皇宮で働くつもりだった。
皇帝の近くで仕事をして、認められたかった。
リンゼイル伯爵の名を継ぐに相応しい人物だと、知らしめたかった。
思い描いていた未来は、自分ではなくて、妹が実現してしまった。
「継ぐ領地だって微々たるものじゃないか。そんなの、子供の頃から勉強していれば、今更父親に聞くことなんてないだろう。ま、どうでもいいか。俺はラフィーネ嬢のことは詳しく知らない」
「どこに住んでいるかだけでもいいから、教えてくれ。そこに会いに行くから」
「馬鹿か!ラフィーネ嬢が住んでいるのは、女性だけが住んでいる官舎だぞ。男のお前が入れるわけないだろうが」
「あ……!」
言われてみればそうだった。中には高位貴族の家の者もいるので、基本的には男性厳禁の場所だ。
「それに、お前は男爵家の者、ラフィーネ嬢は伯爵だ。本来なら、そう簡単に会える方じゃないぞ」
「妹だ!」
「妹と言うが、爵位は向こうの方が上だ!頭を冷やしてよく考えろ。普通に考えて、たかが男爵の息子が、伯爵に急に会えるわけないだろうが」
通常なら確かにその通りだ。先触れを出して日程を調整していたのならともかく、男爵でもなくその息子でしかないデリックが会いたいと思って簡単に会える人物ではない。
「お前はどうも、ラフィーネ嬢が妹だからという理由だけで下に見ているようだな。だが、ラフィーネ嬢は伯爵になった。その時点で、お前とラフィーネ嬢の力関係はラフィーネ嬢の方が上だ」
「それは……」
「お前とラフィーネ嬢、条件は同じ……いや、二人目の子供、しかも女性だった分、ラフィーネ嬢の方が不利な立場で生まれてきたんだ。お前は生まれながらに伯爵を継ぐことが決まっていて、嫡男として父親に甘やかされて育った。ラフィーネ嬢は、早くに母君を亡くされてから誰にも頼れずに、父と兄に振り回されてきた。父と兄の尻拭いをさせられていた彼女が、不憫だと思ったことがあるよ。はは、お前とラフィーネ嬢は正反対だな」
同級生にそう見られていたと知って、デリックはショックを受けた。
当たり前だと思っていたことが、他からは全く違って見えていたのだ。
「一度、ラフィーネ嬢に聞いたことがある。兄と父を恨んでいないのか?って」
「……ラフィーネは何て?」
「とっくの昔に、そんな感覚は麻痺したそうだよ。恨むとかそういう気持ちさえも持てない、って言ってたな。実の妹にそんなことを言わせたお前を、心の底から軽蔑するよ」
「おれ、は……」
「よく考えることだな」
同級生がそう言って去って行っても、しばらくの間、デリックはその場を動けなかった。
ようやくのろのろと動いて、これからどうしようかと思ったら、前から二人の男女が歩いて来たので、咄嗟に物陰に隠れた。
皇宮に勤めているらしい二人は、話をしながら歩いていた。
「ラフィーネ嬢は……」
二人の声が聞こえてきたと思ったら、ラフィーネの名前が出たので、デリックは聞き耳を立てた。
「今日はお休みで、外に出てるんだよな」
「そう。お土産に、メルテの焼き菓子を買って来てくれるって」
「マジで?」
「あそこ、並ぶから大変なのに、せっかく行くからって張り切ってたわよ」
「うらやましい。俺も食べてみたいな」
デリックに気が付くことなくそんな会話をしながら、二人は通り過ぎていった。
「ラフィーネは、外に出てるのか」
それに、メルテという店に行くのならば、そこで待っていれば会える。
デリックはメルテに向かうために、急いで皇宮から出て行った。
そんなデリックのことなど知らない二人は、話の続きをしていた。
「騎士団長も休み取ったらしいぞ。一緒に並ぶのかな?」
「そうじゃない?だって、あの騎士団長がラフィーネの傍を離れるとは思わないわ」
「うーん、周りへの圧が強そう。慣れていない帝都の皆様が可哀想かも」
「一応、街に溶け込める私服姿だから、騎士姿の時よりは緩いのかしら?」
「滲み出るモノが……」
「そうよね。ラフィーネ、よく行けたわよね」
武官じゃない二人は、騎士団長の圧を感じる時が多々ある。
あれに負けずに突っ込んで行ったラフィーネに、改めて感心していたのだった。




