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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
四章

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夏の始まり その十六

 東仙一輝とうせん いっきが転移したのは教見津太郎きょうみ しんたろうと別れた後に十分程歩いて移動した公園のすぐ側にある森林だった。

 意図的に植えて作ったのか自然とこうなったのかは分からないが、その森林は公園の入り口以外の三方向を囲うよう広範囲に生い茂っていて、外から中が見える事はない。


 だがそのおかげで一輝が転移魔法を使うのには目立つ事も無く丁度いい場所であった。


 一輝がいつ頃から落ちているか分からない枯れ葉や誰も草刈りをしないせいで好き放題に生えた緑の雑草を踏みながら歩いていると、すぐ近くにある公園へ辿り着く。


 その公園には幾つか子供が遊ぶ為の遊具はあるが、あまり手入れされていないのか全体的に少し汚い。

 一輝にとっては好都合とはいえ公園には誰一人おらず、その光景を見て少しだけ寂しく感じる。


 公園の奥でボーっと立ち止まっていては通行人に怪しい人物と思われそうなので、一輝はすぐに出入り口を抜ける──がそこで足を止め、周りを見渡す。


「あれ? 津太郎君の家ってどっちだっけ……」


 右を向いても左を向いてもそこにあるのは横一面に並んだ家と二車線の道路と歩道だけで何か特徴のある建物や看板は一切無く、両方とも同じような光景が広がっている。 


 ただ、この近辺に津太郎の家があるのは間違いない──それは分かっている為、迷っていても仕方ないと思った一輝は右側の道を行く事にした。


「まぁ違うと思ったら戻ればいいし、とりあえず行ってみよう」


 そう決めると一輝はコンクリートで作られた幅二人分程の歩道を歩き始める。


──数分後、最初の方は少し不安があったが歩いている内に見覚えのある家を幾つか確認出来た一輝は、この道で合っているのを確信した。

 一ヵ月前の夕方、津太郎と離れてから公園へ向かっている最中に見た数々の家。 今は朝なので雰囲気や空気こそ違うものの、前に見た家と変わりなかったからだ。


 安心して気が楽になり足取りがとても軽くなった一輝は更に数分歩くと、ついに『教見』と書かれた表札のある家に辿り着く。


「な、なんか緊張してきた──えっと、確かこれ押すんだよね」


 一輝は自分の心臓の音を聞きながら数年ぶりに表札のすぐ真下にあるインターホンの四角いボタンを押そうとした瞬間、その指が止まってしまった。


(あれ? 今更気付いたけど──そういえば津太郎君って家にいるのかな。 もしかしたらまだ学校にいるんじゃ……」


 その可能性を考えなかった一輝はインターホンから急いで手を遠ざける。 


(いなかったらどうしよう……前は来るのが遅かったから今回は早めに来たのに……)


 前回が夕方頃に対して今回は昼前と時間帯が極端であった。

 だが一輝は時間を確認する手段を用いていない上に津太郎の学校のスケジュールも把握出来ておらず、いつ行けば津太郎が確実にいるのか分からないので仕方ない。


(仕方ないけど、鳴らしてもいなかったらまた今度にしよう……)


 そうしようと覚悟を決めて一輝はインターホンを押すと、家の中から誰か来たという合図を知らせる電子音が聞こえてくる──それから僅か数秒後、インターホンに付いてあるスピーカーから女性の少し甲高い声が流れてきた。


「はい、どちら様でしょうか?」


 この時、一輝の中ではまさかインターホンから声が出てくるとは思わず肩がビクッとしてしまい返事が出来なかった。


「……? すみません、どちら様でしょうか~?」


 一輝が返事をしなかったせいで家側からもう一度呼ばれてしまう。 ここで何か言わなければ切られてしまうと思った一輝は急いで声を出す。


「す、すみません! あの、津太郎君に用があって来たんですが!」


「あら、津太郎のお友達?」


 一輝の若々しさのある高い声と用があるという言葉で、姿は見えなくとも学校の知り合いと判断したのだろうか。 少なくとも顔見知りであるのは合っている。


「──友……あ、はい、そうです!」


 友人かどうかは正直曖昧な所ではあるが、とりあえずここはそういう事にしておこうと決めた。


「でもごめんなさいねぇ、まだ津太郎は帰って来てないのよ~」


「えっ……そうなん……ですか。 あの──いつ頃帰ってくるとかは……?」


 その言葉を聞いて少し焦ったが、ここまで来てあっさり帰る訳にはいかず粘ってみる。


「う~ん……寄り道はしないと思うし、もうすぐ帰って来てもおかしくはないんだけど~」 


「……! でしたらここで少し待っててもよろしいでしょうか? 決して邪魔にならないようにはしますので」


 早すぎたと思いきや完璧なタイミングだった事に嬉しさや驚きといった感情が湧き出る。


「こんな暑いのにずっと外にいたら熱中症になるかもしれないのに駄目よ~。 ちょっと待ってて!」


 そう言うとインターホンのマイクを切ったのか声が一切しなくなった。 一輝はよく分からないが待てと言われたので待つ事にした。


──僅か数秒後、一輝の目の前にあるドアが急に開くと同時に一人の女性が出てきた。


「あれ? 貴方……何処かで見た事があるような──ってそうそう! 前に津太郎と喋ってた……あのー、東仙君──だよね?」


 ドアを開けたまま一輝をじっと見つめた後に名前を言ってきたのは白シャツに青のジーパンを着た教見美咲きょうみ みさきだった。


「前に津太郎が遊ぶ約束したって言ってたけど、もしかして今日だったの?」


「約……束?──あっ、そういう事か……はい、そうなんですよ!」


 どうやら津太郎が事前に遊ぶ約束をしたと言っていたらしい。 それに気づいた一輝はとりあえず違和感が出ないよう合わせる事にする。


「もう、あの子も約束があるのに帰ってくるのが遅いなんて何してるのかしら──あ、遠慮せず入って入って!」


 美咲はそう言いながら笑顔で手を振ってくる。 ここで断れば印象を悪くしそうと思った一輝は素直に従う事にした。


「す、すみません、じゃあ失礼します……」


 ただ、一輝の中では津太郎が一緒にいるという想定だったので、まさか一人で家の中に入るとは思わず尋常じゃない緊張感が襲っていた。





   ◇ ◇ ◇





「お、お邪魔します」


 緊張が抜けないまま一輝が家の中に入ると、他人の家特有の独特な匂いを感じながら廊下を見渡す。

 玄関の右端には靴箱、フローリングの床、白い壁、二階へ続く階段、リビングに繋がる通路──津太郎にとっては見慣れた景色でも、一輝にとっては全てが新鮮だった。


(ここに津太郎君が住んでるんだ──っていつまでものんびりしてちゃ駄目だ。 本当に遊びに来た訳じゃないんだから気を抜かないようにしないと)


 そう、一輝の本当の目的は津太郎の部屋で母親に関する情報を調べる事であり、遊ぶのが目的ではない。 


(やっとここまで来れた──後は部屋に行ってインターネットを使わせてもらえば……)


 一輝の勘ではあるが、恐らく二階に津太郎の部屋があると思って階段の方をじっと見つめる。


「どうしたの東仙君? ささっ、こっちに来て」


 既にスリッパを脱いで廊下に立っていた美咲はボーっとしていた一輝に声を掛けた。


「は、はい……!」


 一輝は黒のブーツを脱ぐと綺麗に並べてから邪魔にならない所に置いて美咲の後ろに付いていくと、そこはリビングだった。


「どうぞ、座って♪」


 美咲が白のソファーを軽く叩き、そこへ座るよう誘導すると一輝は「すみません……」と言った後にゆっくりと座る。


 この後、美咲は壁にあるリモコンを持ちスイッチを押す。 するとリビングの天井際てんじょうぎわに設置してあるエアコンが起動し、強い風と共に冷気が放出された。

 一輝がその冷気に気持ち良さを感じている内に、冷気を逃がさないよう美咲が急いで開いていた窓を閉め始める。


──そして一階にある窓を完全に閉め切って一段落した美咲も、一輝のすぐ隣にあるソファーに座ると一息つく。


「あはは、まさかお客さんが来るとは思ってなかったらエアコンも付けていなかったのよ~。 もうちょっとすれば涼しくなるから待っててね」


「いえいえ! 僕なら全然大丈夫ですから!」


 一輝は突然の訪問にも関わらず気を遣わせ過ぎて申し訳ない気持ちになってしまう。


「──東仙君も一学期お疲れ様。 明日から夏休みだけど何か予定とかあるの?」


 僅かの沈黙の後に口を開いたのは美咲だった。 美咲からは一輝と津太郎は同級生の友達という認識である為、やはり話題として最初に出るのは今日から始まった夏休みに関する事だろう。


(えっ、そうなんだ……夏休みなんて凄い久しぶりに聞いたな~)


 だが一輝がそんな事を把握している訳がなく、そもそも『夏休み』という単語を聞いたのが数年ぶりだった。


「えーっと……まだ決めてないですね~。 もしかしたら何処かに行くかもしれないんですけど」


 先程夏休みと知ったばかりの一輝には曖昧な事しか言えなかった。 


「あ、そうなんだ~。 じゃあ夏休み中に家族みんなで遠出とか出来たらいいね」


「家族ですか……そうですね、いずれ──じゃなくて夏休み中に何か楽しい思い出が作れたらいいなあって思ってます」


 本当にそうなれたらいいなと一輝は心の中で思った。


「うん、きっと作れるよ。 それに東仙君のその言葉をお父さんお母さんが聞いたら凄い喜ぶんじゃないかな」


「──は、はい! 会ったら必ず言います!」


 笑顔で言う美咲の発言を励ましのように感じた一輝は、つい嬉しくなってしまう。


「津太郎も見習って欲しいわ──ってあらやだ! ちょっと待っててね、飲み物持ってくるから」 


 立ち上がった美咲は一輝が断りの言葉を言う間もなく慌てて台所の方へと向かうと、それから一分も経たない内に麦茶の入ったコップを持って戻って来た。


「はい、どうぞ♪」


 そう言った後、美咲はコップを白のテーブルに置く。

 ただ、津太郎がいつまで経っても帰ってこない事に申し訳ないと思った美咲は一輝に謝る。


「ごめんなさいねぇ、津太郎ったらまだ帰ってこないのよ~。 とりあえずこれでも飲んでてね」


「えっ、あっ、すみません……」


 そして一輝が出してもらった麦茶を飲もうとしたその時──廊下から夏服を着た津太郎が姿を現した。

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