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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
三章

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遭遇 その27

 教見津太郎きょうみ しんたろう東仙一輝とうせん いっきが手に持っているペットボトルを軽く当てた後、同じタイミングで飲み始める。


 全世界の子供から大人まで好まれる独特な味、丁度いい甘味、そして眠気も覚ます炭酸の刺激は飲んでいる最中だけでも日差しの暑さも忘れてしまいそうだ。


 しかし、まだ飲み始めたばかりにも関わらず一輝は突然苦しそうにむせ始める。

 ジュースを吐き出してはいないが中腰の姿勢になった後、何度も大きく咳をして目からは涙が零れそうになっていた。


「だ、大丈夫か!?」


 その様子を見た津太郎は心配になって背中を空いている手で優しく擦りながら声を掛けた。


「ゴホッゴホッ……!──ご、ごめん……こ、こういう飲み物を飲む……の数年ぶりだった……から、久しぶり過ぎてちょっと──ビックリしちゃった……」


 中腰のまま一輝は苦しそうに話す──それから少し時間が経つと落ち着いたのか一度深呼吸をして息を整えた後、姿勢を元に戻した。


「──ありがとう。 津太郎君のおかげで楽になったよ」


 一輝は礼をすると、反省を生かして今度は勢いをつけず慎重に飲み始める。


「落ち着いてくれて安心したけど……数年ぶりって──」


 もしかして苦手だった?と聞こうとしたが今は躊躇ためらいも無く美味しそうに飲んでいて、苦手というわけではなさそうだ。

 数年ぶりに飲んだせいで、久しぶりの炭酸の刺激に身体が変な反応でもしたのかもしれない──ただ、別に嫌いでもなさそうなのに炭酸飲料を数年間飲まなかったのかは謎だが。


「え?……あ──それは……」


 一輝は自分でも無意識の内に言ってしまった事にどうしようか最初は困っていたが、まだ半端に残っているペットボトルのキャップを閉めると津太郎の方へ真面目な表情で見つめて口を開く。


「僕が数年ぶりに炭酸飲料を飲んだのは──」


 何かを言おうとしたが、途中で言葉が詰まる。言うか言わないか、心の中で葛藤しているのかもしれない。


「その……何があったかは分からないけど無理して言わなくてもいいよ?」


 津太郎なりに気を遣う。このまま気まずい雰囲気が続けば、ようやく縮めれたこの心の距離がまた離れてしまうと思ったからだ。


「いえ、言わせて下さい──じゃなかった、言わせて……いや、違う……今、言わなきゃいけないんだ」


 津太郎には何の事か分からないが、一輝の言葉には凄まじい重みを感じる。

 つい先程まで何に対しても不安そうにし、自信も無さげだった青年が今はまるで別人のようだ。


 道行みちゆく人も二人を見つめはするものの、重苦しい空気を察してか何も言わず通り過ぎる。


──時間にして三十秒ぐらいの沈黙の後、二人以外誰もいない通り道で一輝がついに口を開く。


「炭酸飲料を数年ぶりに飲んだのも……津太郎君の目の前に急に姿を現す事が出来るのも……僕が──こことは全く違う別の世界にいたから……なんだ」


「へっ?」


 津太郎も、前から頭の中では可能性の一つとして一輝が異世界から来たという考えも確かにあった。

 だが実際に目の前で打ち明けられた時の衝撃度は予想を遥かに上回り、脳が現実逃避をさせようと頭が真っ白になりそうになる。


「えーっと……それ、本当?」


 一輝が伝えてから少しの間が開いた後、必死に知恵を絞って出せた言葉はこれだけだった。

 別に疑っている訳ではない。ただ、誰にでも言えるこの言葉が今の津太郎には精一杯なだけである。


「……うん」


 一輝は静かに頷くと、それ以上は何も語らなかった。


「そっか……でも一輝が言うなら俺は信じるよ──ていうかそうじゃないと色々と説明つかないしさ」


 津太郎は一切偽りの無い笑顔で一輝に答えた。


 自分が違う世界から来たなんて言うのは、足を一歩踏み出す勇気が、どんな事を言われてもいい覚悟が、言えば後には引けない恐怖があっただろう。


 様々な想いを込めて出した言葉に対し、津太郎が出来るのは素直に受け入れる事ぐらいだ。


「えっ?──信じてくれるの? 本当に?」


 一輝にとっては本当に予想外だったらしく語尾が全部疑問形になっている。


「まぁ、初めて会ってから今日まで俺もあーだこーだ色々考えてて、あの人はもしかすると異世界的な場所からやって来た可能性があるかも……とか思ってた時期もあったし」


 津太郎は一人勝手に想像していた事を一輝に言う。

 この発言も他の人だったらネタ話か妄想の(たぐい)で終わっていたに違いない──だが一輝は真面目に取り組んでくれる。


「そう……なんだ。 でも『やって来た』──というよりは『戻って来た』の方が合ってるかも」


「戻って来た?」


「うん。 僕も数年前まで日本で普通に暮らしてたんだ……でもちょっと色々あって、こことは違う世界に飛ばされちゃって……」


 ここの説明だけ聞くと本当に流行りの異世界転生、転移物みたいだと津太郎は思い、まるで主人公みたいだと少しだけ羨ましく感じた。


「だからさっきも数年ぶりに炭酸ジュース飲んだとか言ってたのか……でも色々っていうのは?」


 津太郎が何となく気になった事を質問をした時、一輝の表情が露骨に曇ってしまう。


「……それに関してはちょっと言えない……かな」


 せっかく今まで順調に会話が続いて和やかな雰囲気だったのが、調子に乗って余計な事を聞いてしまったせいで重くなってしまう。


「わっ、悪いっ……! やっぱこう──言いたくない事も色々ある……よね」


 完全に聞く事を間違えた津太郎は慌てて一輝に気を遣う。


(やっべえ、おもいっきり地雷踏んでしまった……最悪だ)


(どうしよう、山での事あまり話したくないからってハッキリ断っちゃった……)


 津太郎は言ってしまった事を、一輝は聞かれてしまった事を気にして黙り込む。


──数秒後、先に声を出したのは津太郎だった。


「……ど、どうしても聞きたい事があるんだけどさっ! こっちに戻って来た日の事って覚えてる!?」


 津太郎は悪い空気を紛らわせようと必死になって明るく振舞いながら話しかける。


「う、うん……覚えてるけど」


 どうやら一輝にとってもあの日の事は印象に残っているらしい。あれだけ大騒ぎになったのだから当然かもしれないが。


「あの日の最後──突然消える前に俺の名前を大声で呼んでたけど……なんで名前を知っていたのかずっと分からなくて」


 運動場で初めて会った時、一輝の方は自分から名前を明かしていたが津太郎は名前を言っていない。

 なのに名前を知っていた理由は全く分からないままでいた。


「あ……そ、その件に関しては──本当にごめんなさいっ!」


 一輝は何故か急に頭を下げて謝罪を始める。


「えっ? なにが?」


 津太郎からすれば、ただ聞いただけなのに突然謝られてどうすればいいか対応に困ってしまう。


「──実は津太郎君の名前を知る事が出来たのは……あの時にした握手がきっかけなんだ」


「あ、握手……ってあの時の?」


 確かにやたら長い時間の握手をしていたのは覚えている──が、それがどう名前を知るのと結びつくのかは想像つかない。


「……うん。 触れた瞬間に魔力が暴走して──まさか隠密魔法が自動で発動するとは思わなくて……その時に津太郎君の記憶が少しだけ僕の頭に入ってきたんだ」


「……はい?」


 津太郎の予想を遥か斜め上を超えた一輝の説明に思考が停止しそうになる。


(隠密魔法? 魔力の暴走? 自動で発動? 俺の記憶が入ってくる?──どういう事?)


 突然出てきた複数の謎の単語や展開に考えがまとまらず、聞いてはみたものの頭の中が『?』マークだらけになり、まるで混乱する魔法をかけられたような気分だ。

 他にも聞こうとしてた事は沢山あるのに、たった一つでここまで脳に負担が掛かるのであればもう聞かない方がいい気がしてきた。


「えーっと……簡単に言えば握手した時、無意識の内に津太郎君の名前や住んでる所を覚えたって事なんだけど──ただ……こっちの世界に帰って来たのが嬉しくて、つい一番近くにいた君と手を握っただけで発動するとは思ってなかったから……本当にごめんなさい」


 どうやら一輝にとっても予想外の事が起きていたらしく、故意的にやったわけではないらしい。


「──ま、まぁ記憶がどーのこーの言われて流石に驚きはしたけど、それがきっかけでこうやってまた会えたわけだし……別に謝らなくてもいいって、怒ってなんかいないから」


 恐らく津太郎が聞いた事に関しては全て一輝の言った通りなのだろう。

 まだ分からない事だらけではあるが、とりあえずどうして名前を知っていたのか分かっただけでも良かったと津太郎は思った。


「で、でも……」


「──よし、じゃあもう一回握手しよう。 仲直りっていう意味じゃないけど、このちょっと気まずい雰囲気を作ったのは俺にも原因があるし、無くす為にも。 それにもう一回試してみて二度目は起きないかどうか実験も出来るから一石二鳥だ」


 そう言うと津太郎は右手を伸ばして一輝の右手を握る。


 傍から見れば何気ない握手でも、二人にとってそれはとても意味のある握手だった。 

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